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184. 王妹が、っと。

 領地戦の翌日の土日は、学園は休日になる。


 その間にマグダリーナは、例のえげつない噂の対策を相談することにする。


「んー、だったら不審者が実際ルタのテントに入った映像公開する?」

 エステラがそう提案した。


「できるの?!」

「一応セドさんに許可もらって、防犯カメラ的にこっそり飛ばしてたカメラが、数台あるから」


 流石エステラ、抜け目がない。


 いつものショウネシー邸のサロンで、木の実たっぷりの焼き菓子を摘みながら、意見を出し合う。


 レベッカが手を挙げた。

「リーナお姉様が考えたように、もしエリック王子の標の代償が、私とリーナお姉様の令嬢としての評判でしたら、それを回避することで悪い影響とかありませんの?」


「どうなの? ルシンお兄ちゃん」

 エステラに聞かれて、ルシンはじっとマグダリーナとレベッカを見た。


「ある」

「あるの?!」

 マグダリーナは驚いた。


「眠り妖精が二人を眠らせて、ならず者に連れ去られるのが見えた」


「もっと酷くなっていますわ……」

 嘆くレベッカの向かいで、セレンが自分のお皿の菓子を半分、ルシンの皿にずらす。


 今日の焼き菓子は、ウモウの生クリームのヌガーを絡めた、たっぷりの木の実をクッキー生地で包んで焼いたものだ。幸せの味しかしない。


「でしたらもう、噂に関しては覚悟を決めて、犯人を突き止めてドミニクさんと同じテントに押し込めるしか無いですわね」


「待った、それ、私が衛兵に捕まるやつじゃね?」

 ドミニクも手を挙げた。ドミニクのカーバンクルもぶぶぶっと抗議する。



 珍しくダーモットが話し出した。

「眠り妖精の生息地は、オーズリー公爵領だ。オーズリー公爵家はテイマーの家系だから、犯人は間違いなく公爵家の関係者だろうね。それに犯罪は良くない」


「オーズリー公爵家? なんで公爵家が私やレベッカを陥れようとするの?」

 マグダリーナは首を傾げてダーモットを見た。


 ダーモットは静かに言った。

「オーズリー家のテイマーの能力は女性に出やすく、珍しく直系の女性が家門を継ぐ一族なんだ。今の公爵はまだ独身なんだが、学園にいた頃から王弟殿に熱を上げていてね」


 そこで言葉を切ると、ダーモットは少し遠い目をした――


「ある時、眠り妖精を使って、王弟殿と二人っきりで一晩すごそうとしたんだ。ところが王と王妃に邪魔されてね、今後一切王弟殿下に近づいては行けないと……」

「それのどこが、私とレベッカに関係あるんです?」


 ダーモットは肩を竦める。

「リーナはセドリックのお気に入りだし、レベッカの実の母君はブリュー公爵家の出で、王妃の伯母にあたる……二人の仲の良い姿を見て、衝動的にやらかしてるんだろう……」


 マグダリーナは目を瞑った。


 そして、ソファの背にもたれた。


「私もレベッカも、全く関係なかった……なんて理不尽……」


 しかも絶対あの王族親子、知っていたに違いない。



 レベッカはずっと考えこんでいる。

「そのオーズリー公爵にとって、一番悔しいのは王弟殿下様がご結婚されることかしら?」


「さあどうかしら……学園を卒業されてから、もうずっと王弟殿下とお会いしてないんでしょう? 王と王妃への恨みは覚えていても、他の人に想いは移っているかもよ」

 マグダリーナはソファに凭れたままレベッカに答えた。


 レベッカは今度はダーモットに確認する。

「そもそもどうして王弟殿下の方はまだ独身でいらっしゃるの? ダーモットお父様」


「それは……」

 言い淀むダーモットに、シャロン以外の視線が集まる。


「彼は王に代わって、他領や他国の様子を見て報告するのが仕事なのだが……数年前に、とあるダンジョンに入ってから、自分を王弟ではなく王妹だと思うようになったと……」


「王妹……」


 マグダリーナは呆然とした。


「そ……それは……魔法か何か? 解呪はできないの……?」


 マグダリーナの疑問に答えてくれたのは、元宮廷魔法師団長だったドミニクだった。


「ありゃあ、無理だ。ダンジョンの呪いのうちでも特殊なやつだ。何度か解呪魔法をかけたが、全く手ごたえがねぇんだ」


「オーブリーの魔法でも試した?」

 エステラもドミニクを見た。

「こっそり試したが、結果は同じだったぜ」

 ドミニクは首を横に振った。


 オーズリー公爵も貴族だ。ずっと片想いしてた相手が、他の女と結婚するくらいは覚悟があったかも知れない。

 だがまさか心が性転換となると、その感情の複雑さは、マグダリーナには計ることなどできない。対応などお手上げだ。


「ごめんねレベッカ……この問題は難し過ぎる……貴女は傷物扱いさせたくなかったのに……」

「しょうがないですわ。本当の傷物になるよりマシだと思って頑張りますわ。……それに、私も一生、ここで家族と一緒にいたいんですの……もう追い出されるのは、いや……だから、他領にはお嫁に行かないのですわ……」


 ダーモットが頷いていた。




◇◇◇




 セレンが万年反抗期の息子のお世話を、甲斐甲斐しくしている。

 ルシンのカップの中身が空なのに気づき、ティーポットを持って熱い紅茶を注ぐ。


 あの親子大丈夫なの? と思わなくないが、セレンが嬉しそうだから良いのか……


 今日の紅茶はエステラが作った希少なアールグレイなので、ブレアとドーラも来ていた。

 二人のリオとローラは、それぞれ座って、ひとりで上手にナイフとフォークを使ってお菓子を食べている。溢したクッキーの粉も自分で魔法を使ってお片付け出来るようで、ブレアとドーラに褒められていた。


 対するナードは、レベッカの膝の上で、お菓子を食べさせて貰っている。

 それを見てライアンの垂れ耳カーバンクルも、ライアンの膝に乗って、ぶっぶっと甘えた声を出しながら、お菓子を待っている。


 エデンは優雅に紅茶を飲みながら、その様子を眺めていた。


「魔獣は、元が精霊獣だった獣の派生だから、まあまだマシだが、ダンジョンは女神にとって全くの想定外の存在だ。魔法で治せない現象もあるかも知れんなぁ、くははは。あと、ここのダンジョンもとうとう顔を出しはじめたらしい」


「顔……?」

 マグダリーナの視線に、ハンフリーがアッシの映像表示画面を起動する。

「昨日、クマゴー達が撮ってきた映像だ」


 そこには、大きな蛍石と水晶の結晶のような物が映っている。

 その上を飛び交うクマゴーが、保存瓶から新年の女神の花を振り撒いていく。

 光る鉱石の結晶群は、花を吸ってぐんぐん大きくなっていった。


「これでダンジョン内でも、女神の加護が受けられる様になるんだったかな?」

 ハンフリーはニレルとエステラを見た。

 二人は揃って頷いた。


「この状態ってまだ完全にダンジョンになってないのよね? 完成までどのくらいかかるの?」

 マグダリーナはエデンを見た。


「ンーそうだなぁ、あと二年位はかかるんじゃないか?」

「二年……せっかく今の領民は、いい感じの人ばかりなのに、ダンジョン目当てで問題起こすような人がやって来るのは、ちょっと困るかな……」

 いつぞやの王都での騒ぎを思い出して、マグダリーナはため息をついた。


「治安については、アーベル師匠とマゴー達に任せておけばいいだろ。その為にアーベル師匠もギルギス国の冒険者ギルド本部にまで行ってきたんだからさ」

 ヴェリタスは安心するよう、マグダリーナに笑いかけた。


 ライアンも頷く。

「ダンジョン目当ての冒険者は、冒険者ギルドの紹介状がないと入領出来ないとかにしてもいいと思うし、そこはなんとか出来るんじゃないかな」

「そうね、まだ二年あるものね……」

 その頃には、公爵家との問題も片付いていると助かる。マグダリーナは切に願った。

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