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183. 王のお気に入り

「何だってそんな嘘を……」


 ヴェリタスが首を傾げる。それから、顔を顰めた。

「まさか、本来の目的がそっちだったのか――!」


「ええ!? 何考えてんの、その人達!」

 マグダリーナは気持ち悪さに、腕をさすった。


「令嬢を陥れるには手っ取り早い方法だよな……」

 顰めっ面をするヴェリタスに、マグダリーナは思いっきり首を横に振って見せる。


「私もレベッカもまだ成人前の十一歳よ?! やり口がえげつなさすぎない!! もちろん成人後でもダメダメだけど!!」

「だよなー……どこのどいつだよ、そんななりふり構わないようなこと仕掛けてくる家門」


 王様の手前、兄妹で大人しくしていたライアンとレベッカだったが、ふとライアンが呟いた。


「眠り妖精……」


 エリック王子もルシンが言っていたことを思い出して顔を上げた。モモと目が合い、さっと目を逸らす。


「……スライム、お嫌いなんですか?」

 マグダリーナは声を落として聞いた。


「いや……その……、そうではなく……、その桃色スライムは本当にスライムなのか? どうにも、落ち着かない気分になる……」


 その時、セドリック王の手からシュバッとハラが脱出して、エリック王子の机に移動した。

 ハラはジッとエリックを見つめると、目をキランと光らせた。


「いるの! 彼の中にスライムが寄生してるの!」


「「ええ??!」」

 エリックとマグダリーナが揃って声を上げた。


「そういえば、まだエリックがハイハイをしていた時期に、スライムを誤飲して妃が慌てておった事があったが……まさかその時のスライムが?」


 ハラは頷いた。


「間違いないの。きっと特殊個体だったの。彼の内蔵器官の一部になって生きてるの」


「取り出すことは可能なのか?」

 セドリック王の問いに、ハラはむむむと唸った。


「まず説得に応じるかなの。十数年暮らしたおうちを出てけって云っても、普通は納得しないの」

「左様か。ではエリック、なんとか説得してみせよ」

「無茶を言わないで下さい!! 今まで全く知らずにいた存在ですよ!」


「それはもう、今すぐどうこうできないものだから、一旦忘れましょう。眠り妖精って何? ライアン兄さん」


 命に関わる事案ではないし、他人の身体の中にスライムがいるくらい大した問題ではない。マグダリーナにとっては。


 そんなことより、誰が何のために、えげつない行為を仕掛けて来たかの方が重要だ。


「あの夜、結構騒いでいたのに、気づいたのがすぐ近くのテントの学生会員だけだったんだ。そしてルシン兄さんが来て、眠り妖精の魔法で皆んな眠らされてるって言ってたんだ」


「眠り妖精は、魔獣も人も眠らせるのが得意な魔獣なの。安眠の為にタラも欲しがったけど、できるスライムのハラとヒラが、『快眠すやすやねんねの子守歌』魔法を開発したから、必要なくなったの」

 ハラがぷるるんと身を弾ませると、イケスラパウダーが煌めいた。


「そんな魔獣まで使って……私はとっくに傷物なのに……まさか、狙いはレベッカなの?!」


「? 私? 王子妃争いには無縁ですわよ?」

 レベッカは首を傾げた。国家に反逆した、元オーブリー侯爵家の正統な血筋であるレベッカは、王家に嫁ぐことはできない。


「それを言うなら、私だって無縁の筈だわ。そうですよね?」

 マグダリーナはセドリック王とエリック王子を見た。


 エリック王子は苦笑いしているが、セドリック王はすっと目を逸らした。


「王様?」

「うむ、マグダリーナはもう数年すれば、クレメンティーンに似た、美しい女性になるであろう……」

「はあ……?」

「だが中身はダーモットに似て、賢く、我らに遠慮がない。うむ、我が娘に相応しい」


「諦めて下さい! 私はもう、ショウネシーの魔法使いが作ったショウネシー領でないと、暮らしていけない身なのです」

 マグダリーナはビシャッと言い切った。

 ヴェリタス、ライアン、レベッカもそれに倣って、深く頷いた。


「ショウネシー嬢……いや、マグダリーナ嬢」

 エリック王子は一旦口をつぐんで、言い直すことにした。この場には、ショウネシー家の令嬢は二人いる。


「君の場合は、私の婚約者枠がどうこう以前に、父上に気に入られていることが、身の危険の原因だと思う」

「…………っ」


 マグダリーナは机に手を付いて、項垂れた。

 その背を、レベッカがそっと摩ってくれる。


「とにかくマグダリーナ嬢は噂の的にされがちだ。今回のことも、ここぞとばかり令嬢のテントに忍び込まれたと噂される可能性が高い。証拠がなくても噂を消すのは難しい……何かしら対策をしておいた方が良いだろう。もちろん私を含め、現場にいた学生会員はいつでも証言はするが、それで他の生徒達が心底納得するかは保証できない」


 マグダリーナ達は顔を見合わせた。


「本来ならあのテントに誰かが忍び込むなんて出来ないのに……」


「じゃあその性能を実証する方向でいくか」

 めんどくさそうに落ち込むマグダリーナに、ヴェリタスが提案した。


 半眼になったレベッカがボソリと言う。


「本当にそんな悪質な噂を流す方がいらっしゃったら、犯人は絶対捕まえて、ドミニクさんと一緒にテントで一晩過ごしていただきますわ」

「そうだな」


 ライアンも頷いた。


 ドミニクは変態だが、子供を襲うほど外道ではない。一応。

 というのをライアンとレベッカは知っていても、される側は知らないだろう。充分脅威を与えられるはずだ。



「忠告ありがとうございます。帰ったら大人達にも相談します」


 ひとまずエリック王子に御礼を言って、マグダリーナはちらりと彼の顔を見た。


 『女神の子』の最後の黒い標が白に変わっている――


(まさか、この代償が私とレベッカの令嬢としての評判じゃないでしょうね……)

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