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175. 不安だらけの領地戦前

「きゃあぁっ!!」


 レベッカが絶望の表情で、悲鳴を上げた。


 充分手加減したつもりの掌底で、成人男性型の素体くんが内臓破裂し、擬似体液を吐いて倒れてしまったからだ。


「人間すぐ死にますわ……」


 可憐な少女の唇から、マグダリーナがいたら耳を疑うようなセリフが出てきた。


 まずは武器を使わない攻撃で、加減を覚える練習だった。元々の魔力量の少なさで、普段身体強化魔法に頼ってないライアン以外には、なかなかに難しい訓練だった。


 ここがクリアできたら、武装した素体くん、ササミ(オス)含むコッコ(オス)達に乗った素体くんを相手に、エステラの新型魔導具を使って訓練する。

 そして最終的には素体くんの群れにハイエルフが加わり、モモ・シャリオ号を運転するマグダリーナとの連携訓練になる。




◇◇◇




「ショウネシー、君のとこの桃スラは、領地戦に魔導人形も魔獣も使用しないって、本当かい?」


 領地経営科の同じクラスの男子生徒が、マグダリーナには話しかけ辛いのか、ライアンに聞いてくる。団名は略称で呼ばれる事も多く、桃色スライムは「桃スラ」と呼ばれていた。


「ああ、学生会に禁止にするよう陳述があったらしい。ただしリーナのエアは健康管理や体調調整を担ってるから、特例で持ち込み可だよ」

「ああ、魔力暴走の後遺症のためか……」


 ライアンは黙って頷いた。


 生徒達の中でのマグダリーナ像は、魔力暴走で傷物になるも、領地のために献身的に勉学に励む悲劇の令嬢だった。淑やかで争いごとは好まない。本人とレベッカが競技参加者なのも、緊張で名前の記載場所を間違えたからだとも、ちゃんと噂が回っていた。


「どうしてまだ領地戦の陣地決めてないんだ?」

 別の男子生徒も興味津々で聞いてくる。


「うちは四人だけだし、ならいっそリーナのいる所が陣地で基地ってことにして、適当に移動しながら防御重視でいく方針だから」

「移動ってありなのか?」

「少人数の戦略として、学生会には認可を貰ってる」


 ぶっぶっとライアンの肩にのって、甘えて頬に擦り寄ってくるカーバンクルの鼻先を、ライアンは指先で撫でた。


「い……いいのかそれって……その、お前は兄だけど、アスティンは違うだろ? 夜は……男女が一緒に過ごすことになるのか……?」


 はじめに声をかけてきた男子にそわそわと尋ねられて、ライアンは首を傾げた。


「何言ってんだ。夜は別々にテントを立てるよ。他の団も女子の参加者はいるんだろう? 君の団はどうすることになってるんだ?」

「あ……っ、うん、確か夜は、団の関係なく女子だけの専用テントが用意されるから、そこで過ごすはずだよ。ちゃんと見張り番もいるんだ」


 あからさまに汗をかいてる同級生を見て、ライアンはピンときた。


(先輩達がよろしくない計画を立ててるのでも、聞いたかな……)


 例えば、傷物令嬢なら今更別の傷物になっても構わないだろう、とか。


 ライアンは笑ってクラスメイトに礼を言った。


「なるほど、そういうのがあるのか、知らなかった。確かにその方がいいよな。本人達にも言っておく。ありがとうな」

「ああ、いや。うん、大した事じゃないけど、役に立てそうなら良かったよ」


 クラスメイトは、あからさまにほっとした顔をした。



 そんな身の危険など露ほども考えもせず、マグダリーナはレベッカと一緒に学舎の窓から遠見の魔導具を使い、競技場を眺めていた。この遠見の魔導具はドミニクが作った物で、悔しいがかなり性能は良い。


 そのドミニクは意外とエステラと意気投合しているらしく、共通の趣味をもつもの同士はやっぱり息が合うのものなんだなと実感させられた。


「信じられない……わざわざ職人雇って、建てちゃうんだ」


 各団の基地は、ちょっとした砦を作るようだった。石が運ばれて、積み上げられていく。きっと一カ月後の領地戦には立派なものが出来上がっているに違いない。


「去年の物が残って無いってことは、せっかく作っても取り壊されてしまうんですのよね……職人さん達の仕事としては安定してるから良いのかも知れませんけど」


 レベッカは遠見の魔導具を畳むと、お口をへの字にした。

 マグダリーナは苦笑いする。


「またそんな顔しちゃって。そんなにドミニクさんが嫌?」

「別にただの他人なら良いのですけど、血の繋がった実兄なのが嫌ですわ。私の『本当の』お兄様はライアンお兄様唯一人なんですのよ? ……それに、あんなに変人なのに、何処か憎めない感じがするのがもっと嫌なんですの」


「複雑なのね」

「複雑ですわ」


 マグダリーナがレベッカに手を差し伸べると、レベッカは自然に手を繋ぐ。


「さっさと帰って、トニーに美味しい紅茶を入れてもらいましょう」


 マグダリーナの提案に、レベッカは無邪気に微笑んで頷いた。

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