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173. 魔導具しか使えないと言うのなら

 書類を受理して、エリック王子は一仕事が終わったように頷く。実際そうだった。


「明日から陣地取りが始まるのに、まだ所属団の申し込みがない生徒がいて焦ったけど、君たちだったらしょうがない。関係ある家門の者が初参加の四人しかいないからね……私達も配慮が足りなかった。先程の資料に詳しいことが記載してあるから参考にして頑張ってほしい。準備期間内は怪我の無いように気をつけて。領地戦が始まる前に陣地場所の作成は行っておくこと。出来るかな?」


「頑張ります」

「学生会は中立の立場だから、わからない事があれば気軽に聞いてくれていい」


「お気遣いありがとうございます。まずはいただいた資料に目を通して、不明点があれば教えを請いに伺います。その時は、何卒ご指導願います」


 マグダリーナはエリックと学生会員達に礼をすると、ヴェリタスと共に学生会室を後にした。



 マグダリーナとヴェリタスは、学園内の図書館で待っていたライアンとレベッカに合流する。

 すっかり気が抜けたマグダリーナは、呼び出しの理由と状況を説明をチャーとヴェリタスに任せた。そして貰った資料を回し読みしながら、取り敢えず学園の裏手にある競技場へと向かった。


「広ろっ」

 ヴェリタスが率直な意見を述べる。


 前世のゴルフ場よりうんと広い敷地を、柵の様に建物が囲っている。この建物が後方支援生徒と観戦者のための場所になっているらしい。その囲いの中の広場は、複雑な傾斜もあり、芝のように短い草の生えた所、まばらに木が繁っている所、林のようになっている所、岩場とバリエーション豊かだ。


 早速マグダリーナは後悔した。


「この広さを移動するには、やっぱりコッコは必要だったわ……」


 明日の陣地作成の下見なのか、馬に乗って見回っている生徒も多い。


 ヴェリタスは開き直った。


「そこはもうしょーがねーよ。魔導具禁止は却下したんだから、全力でエステラに頼ろう」


 レベッカがぽつりと言った。


「魔導車走れるんじゃないかしら?」


「マゴーは禁止されてるのよ。誰が運転するの?!」


 マグダリーナは驚いてレベッカを見た。


「リーナお姉様ですわ。ライアンお兄様とヴェリタスは戦闘経験積むなら車に籠ってられませんわよね? 私も経験値欲しいですし、資料によりますと当日二日間は、お手洗い以外は陣地内に作る基地で過ごすとなっていますわ。魔導車に旗を立てれば、そのまま陣地兼基地に出来るのではなくて?」

「え? 何言ってるの? レベッカは私と後方支援でしょう??」


 レベッカはふるふると首を振った。

「図書館でチャーちゃんの映像記録見た時、リーナお姉様は競技参加者の欄に全員の名前を書いていらしたわ」


 マグダリーナは一瞬で血の気が引いた。


 言われて見れば確かに、全員同じ所に名前を書きました。書きましたとも。


「……そんな……どうして後方支援者の記入欄が別になってるって、誰も説明してくれなかったの……」


 嘆くマグダリーナを、カーバンクルがぶっぶっと慰めた。




「え? 移動可能な陣地兼基地?」

「はい、ダメでしょうか……?」


 翌日早速、資料を手に学生会室に突入した。領地戦について昨夜エステラに相談したところ、彼女は大喜びで色々制作計画を練りはじめた。


「リーナはマニュアルとミッションどっちが好き?」

「オートマでお願い……」


 昨夜の会話を思い出す。

 新たな魔導車は出来上がる。確実に。


 となると、マグダリーナも覚悟を決めなくてはならない。


「ええと、想像がつかないけど、可能なのかい?」

 エリックは不思議そうに聞くが、騎士科でも魔法科でもない一般女子の競技参加を止められなかった恨みがある。何がなんでも、了承を得る気でいた。


「立案状態なので確実なことは言えません。ですが昨日いただいた資料の禁止事項には該当しなかったと思います。陣地兼基地は、当日持ち込んで、適当な場所に設置します」

「適当……か、ショウネシー嬢は令嬢だからこういう行事に興味が無いのはわかるが、拝領貴族の代表が、あまりそれを態度に出しすぎると困難を呼び込むかも知れないよ……」


 少し心配そうにエリックが言う。


「そうかもしれないですけど、私の手に持て余す無理はしない方針なのです……でも今回、魔導具しか利用出来ないとなると、私達も最低一種目は勝ちに行きます」


 エリックは目を見開いて、マグダリーナを見た。最低一種目はと言うが、競技は二種目しかない。つまり全日勝ちを狙うという意味だ。


「四人しかいないのにか?」


 マグダリーナは強く頷いた。


「私の……私達の大切な魔法使いが作る魔導具で負けるわけにはいきません」


 これだけは、絶対に。


 最高の魔法使いで、最高の友達であるエステラの魔導具を、補助ではなく主力として扱うのなら――


「……そうか。では、先程の件も了承した。何が出るか楽しみにしている」




「マグダリーナさん!」

 学生会室を後にして、廊下を歩いていると、向かいから来る女生徒に声をかけられた。


 ショウネシーではなく、マグダリーナと名前で呼ぶ生徒は少ない。マグダリーナは笑顔で挨拶した。


「ごきげんよう、ミネットさん。今日はお一人なの?」

「ええ、裁縫室の片付け当番でしたの。レベッカさんから聞いたのですけど、領地戦に参加なさるの?」

「そうなの……うっかり間違えて競技参加者欄に名前を書いて提出してしまったの」

「まあ、マグダリーナさんでもそんなミスをされるのね」

「私は結構うっかりする事が多いの。だから気をつけてるのだけど、今回は初めて入った学生会室に緊張して油断しましたわ」


 ミネットと一緒に階段を降りて廊下を歩く。そこでマグダリーナは重大なことに気づいた。


「ミネットさん、かなり背が伸びましたのね!」

「ええそうなの。おかげで裾のフリルをもう一段足すことになって……」


 なるほど、そういう用途の装飾もあるのかとマグダリーナは感心した。


「羨ましいわ。私も早く大きくなりたい。レベッカの方が、ちょっと背が高いんだもの」

 そう言うマグダリーナを、ミネットは微笑ましく見つめた。


 ミネットと別れ、掲示板のある廊下へ向かうと、人だかりができていた。なんだろうと思い近づいてみると、領地戦の日程と各団の団員名簿や陣地の場所が案内されている。

 陣地の場所取りは早いもの順で、この掲示板の地図に団の色で印を付けることになっていた。


 桃色以外の全ての色は、既に印が付けてある。


 マグダリーナも興味深く眺めた。

 各団の団名が、皆いかにも強そうでそれっぽい。


 青月夜の狼。緑竜の翼。黄金の鷲。そして赤炎の熊。熊……カエンアシュラベアとかいうやつのことだろうか、いかにも強い。

 桃色スライムはどのくらい強いのだろう。そういえばマグダリーナはモモが戦闘してるところは見たことはなかった。あっさりヒラの子分になったところを見ると、ヒラとハラより弱いのは確かだろう。

 いつ見ても遊んでいるか、おやつどきにお口を開けて食べさせて貰ってる姿しか思い出せなかった。


 他団の名簿が数枚の厚みで掲示されているのに比べ、桃色スライムはたった四人。生徒達は一瞬なんだこれ? みたいな視線で見ると、すぐに他の団の確認にうつっていった。

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