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172. 桃色スライムで

 マグダリーナ達が王都の街で騒ぎを起こした数日後、マグダリーナとヴェリタスは学生会から呼び出しがかかった。


 学生会は学園生活における問題点などの改善、解決や、行事の運営などを行う、生徒による自治組織だ。学生会長は昨年度から引き続き、第一王子のエリックがなっている。多分彼が卒業するまで、そのままだろう。


 そのエリックが、少し困った顔をしてマグダリーナを見ていた。

 広い学生会室には他にも数人、学生会関係の生徒がいて、それぞれの机で作業をしながら、エリック王子の動向を気にしている。


「先日の中央街でのことだけど」


 エリックがそう切り出した事で、マグダリーナとヴェリタスは、やっぱりそのことかと憂鬱になった。

 嫌なことはさっさと済まそうと、マグダリーナは先に謝ってしまう事にする。


「軽率な行動をして、学園の名を辱めてしまったと反省してます」


 ヴェリタスと二人、頭を下げる。


「そのことで君達の責任を問うつもりは無い。君達は四人でいて、従魔も連れていた。あれは事故だよ。むしろ王都の民に誰一人怪我人を出さなかった、君達の慈悲に感謝したい」

 エリックは穏やかに笑って言った。


「それであの臨時のマゴマゴ放送を見た者達から、マゴーは流石に規格外すぎるので、ショウネシーの魔導人形は領地戦で使用禁止にして欲しいと陳述が出ていてね……」


「領地戦?」

「ああ、そっちか」


 納得するヴェリタスとは対照的に、忘れたいワード上位に入っていた領地戦とかいう単語は、本当にすっぽりマグダリーナの中から抜けていた。


「他にも色々要望が出ているんだ。あちらに纏めた書類があるから、確認してどこまで納得できるか検討してほしい」


「……」


 マグダリーナが呆然としていると、エリック王子は優雅な手つきで机を指した。


(いま確認して、いま結論出して行けっていうの?! そういう所はセドリック王に似てるわ……)


 マグダリーナは覚悟を決めて、ヴェリタスと書類を確認しはじめた。


「マゴーは流石に言われても仕方ないわよね……」

「まあ、マゴーはなぁ……そうなると回復はリーナとレベッカ、あとは回復薬頼りになるな」

「え? 従魔の持ち込み禁止って……他の領地の生徒は持ち込み可なんですよね?」


 近くの学生会員に聞く。彼は無言で頷いた。


「まあでも、マゴーを連れてかないとなると、あとは食べてるだけのカーバンクルと甘えん坊のナードだけよね。わざわざ危険なところに連れて行くのは可哀想だから良いかな」

「待った、待ったリーナ、エアはどーすんだ。一応従魔扱いになるんじゃないのか? それに他の奴らは魔獣馬や従魔を騎獣にして戦ったりするんだ。俺たちもコッコが居た方が良くね?」

「コッコは意外と好戦的だし、他の魔獣も食べるでしょう? 流石にそうなったら可哀想じゃない……」

「リーナ、コッコじゃなくても魔獣は魔獣を食べる」

「そういうのはあんまり見たくないし……エアは私から離れないからこの子だけ例外でお願いします」

「リーナ……」


 ヴェリタスは心配そうにはするが、マグダリーナの意見を押し切るようなことはしない。彼の優しさに甘えてる自覚はあるが、参加可能最年少学年のたった四人で、成人した高等部の生徒もいる他団と真っ向から戦うわけに行かない。


 マグダリーナの選んだ道は、逃げの一手である。


「いいの。別に勝ちに行くわけじゃないから。初参加だもの、防御に徹して周りの様子を見つつ、ヴェリタスとライアン兄さんが出やすい時に経験値を稼ぐ方向で」


 ヴェリタスは仕方ないという顔をして、キッパリ言った。


「この魔導具使用禁止は却下で。ここまでされると流石に俺たちに死ねって言ってるようなもんだ。必要な魔導具は持ち込む」


 マグダリーナの意思を汲んで、こうやって必要な交渉をしてくれるのが、ヴェリタスの頼もしいところ。彼が従兄弟で本当に良かった。


 これで全部確認しただろうか。承認したもの、条件付きで承認出来るもの、却下するものをもう一度チェックして、エリック王子に渡した。


 エリックはその場で確認すると「本当に……これで良いのかい?」と驚く。


「一度受理すると変更はできないよ?」

 マグダリーナは頷いた。


「ただし魔導人形以外は今年だけの条件にしてください。うちは皆んな初参加だし、特別勝とうとか思っていないので、今回はこの条件で様子見です」

「ということは、ショウネシー領は単独で参加でいいかい?」

「はい、お願いします。途中無理だと思ったら、棄権しますから」


 他領と同盟を組む方法もあるらしいが。いざとなったら棄権するつもりなので、単独の方が他領の生徒に迷惑をかけなくていいだろう。


「わかった。では団名と団員を申請して行ってくれ」

「団……名……?」


 マグダリーナはヴェリタスを見たが、彼の目はマグダリーナに任せたと言ってる。


「うん、実際の領地名だと、たまたま在学生の少ない高位貴族の領地出身者が他の領地の出身者と同盟を組む際に……まあ色々揉めるから、各団の象徴となる色の入った団名を使うことになっているんだ。因みに赤、青、黄、緑はもう使用されている制服と見分けづらい、白、黒、紺は使用禁止。陣取り戦用に、その色を使った団を象徴する旗と、参加者が付ける同色の飾り布を用意して貰う」


 なるほど、ぱっと見目立つ各色は、もうお手つきなのだ。

 しかもこれ、この場で決めろって事よね?


 副会長らしき男子生徒が、貴重な紙を使った手書きの資料をくれる。これさっきからそこで書いていたものでは?!


 マグダリーナはすぐに保護魔法をかけて、男子生徒にお礼を言った。


 飾り布はタスキのような物だ。大きな団になると色を揃えた布地を用意するだけで大変ではないだろうか。


 パッとマグダリーナの頭の中に、色とりどりのエステラのスライム達が浮かぶ。青、黄は使用中だから残るは。



「桃色スライム、でお願いします」


 ヴェリタスは隣で吹き出した。


「え、、、それで良いの……かい?」

 エリックも戸惑いを見せる。周囲では学生会員達の肩が震えていた。


「他団との色の識別を考えても問題なさそうですし、スライムは染めるにしろ刺繍にしろ、形が簡単ですから」


 意外と実用一辺倒の理由に、妙に感心しながら、エリックは「桃色スライム」を団名として受理する。


「団員はショウネシー家の三人とアスティン子爵の四名で間違いないかな。こちらに団名と共に記入を」


 名簿用紙を渡されて、慌てて四人の名前を記載する。マグダリーナは後にこの瞬間、学生会の誰も……エリック王子でさえ、競技参加者と後方支援者の氏名の記載欄が違うことを指摘しなかったことを恨みに思うことになる。

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