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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
八章 エステラの真珠

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161. 新しい制服

 ショウネシーにはまだまだ農地に出来る土地があり、果樹の栽培もはじまったばかり。


 ドミニクとセレンの仕事は、農業特化の魔法の研究と実践、そしてそれを他の農夫に教えることが主で、実質農夫である。

 それならばディオンヌ商会関係なくてもいいのではと、ここぞとばかりに普通の農夫にされた。


 もちろんドミニクは、我が君の側がいいとごねたが、そこはベテランの商人であるドーラに「ディオンヌ商会の品物の安さは、魔導人形を使って人件費がかかってないから……で、ディオンヌ商会がわざわざお給料を払ってまで貴方を雇うメリットは? 無いわよね。元宮廷魔法師団長といっても、貴方が商会でマゴーより役に立てて?」と、ド正論で詰められ、ドミニクは迫力負けした。


 家ははじめに言った通り、ニレルが買った。そしてルシンの家として役所に届け出た。


 そうしておけば、ルシンも家を破壊なんてことはしないだろうと思われたし、実際そうだった。


 水色の家の周囲には、セレンがエステラから分けてもらった、中心に向かって白から黄色になる大きな花を咲かす、つる薔薇が植えられた。


 薔薇はこの世界には無く、エステラがディオンヌに教わって、初めての奇跡の魔法の練習で造った精霊花だった。


 勝手に引越しされて不機嫌だったルシンも、セレンが魔法を使ってつる薔薇を家の外壁に巡らせ、満開の花を咲かせると、その香りで落ち着いてきたようだった。



 そんな夏休みも終わりにさしかかったころ、王宮へ帰ったドロシー王女の代わりに、エリック王子の名でショウネシー邸に大量の高級布地が届けられた。熊毒事件の御礼だった。


 あの腹黒妖精熊事件に関しては王宮から既に褒美をいただいている。


 殆どの素材を掻き集めたリオローラ商団は、王宮御用達商団としてお墨付きをいただけたし、大量の妖精キノコを提出したエルロンド領は、領主のジョゼフの要望で、来年度から領内の見込みある若者が王立学園の入学制度を受けられるように。


 そしてショウネシーには、腹黒妖精熊以外に釣れた大量の妖精熊を。


 大量の妖精熊は、当然収納を改めて、そのかっぱらい品はショウネシー家、アスティン家、ショウネシー領、ディオンヌ商会で分けた。

 そして熊本体の一部は更生させて、今いる群れに。


 残りは素材になった。魔導人形の。


 つまりクマゴーが誕生した。


 極上の妖精熊毛皮の中は、再生スライム素材を使用していて、マゴーの中身も同じ。魔導人形造りを側で見ていたドミニクが、興奮しながらそう説明してくれた。


 クマゴーの背中には、製造番号を記した薄い妖精の羽が付けられた。

 魔獣との見分けがつくようにだが、クマゴー達はこの羽で飛行することも出来た。


 妖精熊にはない戦闘機能も追加されて、果樹園の番人にもなっている。


 飛ぶ熊、という新しいショウネシーの風景が生まれた瞬間だった。


 そんな空飛ぶ熊を窓から眺めながら、マグダリーナとレベッカ、ライアンは王子からもらった布地でドレスや制服を作るべく、ヴァイオレット服飾店へ出向き、採寸してもらっていた。


 普通貴族はお邸に職人を呼ぶものだが、マグダリーナ達はヴァイオレット服飾店やディオンヌ商会の各店舗の並ぶ、このアーケード街にはなんだかんだと足を運ぶので、ついででお願いする。


 三人とも身長が伸びたので、制服を仕立て直す必要があった。特にライアンは、明らかに今までの制服では袖も裾も短かった。

 そのライアンの頭の上で、カーバンクルが寛いでいる。桃を食べさせたら、そのまま懐かれたのでテイムしたのだ。


「皆さん、今まで通り制服に装飾は無しでよろしいのでしょうか?」


 採寸が終わったあと、ヴァイオレット氏が少し残念そうに聞く。

 マグダリーナは頷いた。


「私は今までの装飾がないものの方が、動きやすくて好きだわ。それに元が簡素だと、髪飾りも合わせやすいし、なるべく目立ちたくないもの」


 王立学園の制服は濃紺色で、女子はジャンパースカート、男子は襟無しのジャケットとズボンと、基本の形が決まっているだけで、あとは自由に装飾して良いことになっている。


 貴族令嬢や令息達が、こぞって飾りたてる中、簡素すぎるマグダリーナの佇まいは逆に人目をひいているのだが、本人は夢にも思っていなかった。


「私もリーナお姉様とお揃いでお願いしますわ。その方が、気分によってリボンやブローチでおしゃれしやすいのですもの」


 オーブリー家にいた時は、制服の下に着るブラウスも、制服も、贅沢に布地や糸を使ってフリルや刺繍で飾り立てていたレベッカだったが、今では機能性重視の快適さに慣れ、エステラやマグダリーナの中に根付くシンプルな美を愛する心にも触れ、自分なりのおしゃれを楽しみはじめていた。


「俺も簡素なもので。どうせまだ身長伸びるだろうし、中に着るシャツもエステラに貰ったディオンヌシルクのニット地ので良いし」


 ライアンもそう言うので、ヴァイオレット氏は少し考えて、ではシルエットが綺麗に見える簡素さにこだわりましょうと頷いた。


「ですが、秋の舞踏会の正装はまた別です! 私も服飾の腕を振るわさせていただきますよ」


 秋の舞踏会と聞いて、マグダリーナはため息をついた。社交の練習として、中等部からは王立学園でも学生会主催の舞踏会が開かれる。

 マナーも正式なもので行われるので、光もの……つまり宝飾品を身につけないといけない。


 女性の宝飾品で最低限無くてはいけないのが、耳飾りだった。


 耳飾り……この世界の耳飾り、ピアスタイプなのよね……


 耳に穴を開けるところを想像して、マグダリーナは身震いした。


 ピアッサーなんて便利なものはないし、シャロン伯母様も針で穴を開けたと言っていた……いっそ事前に聞かなきゃ良かったと、マグダリーナは後悔していた。

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