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160. 魂

 マグダリーナは説明を求めて、エステラを見た。


 ふむ、とエステラは、魔法で硝子のティーポットを数個作り出すと、そのなかにあっという間にそれぞれ違う果実で風味付けされた紅茶やハーブティーを作り出す。ただしティーポットの大きさは、全部バラバラだ。


「これが魂です。もっと正確に言えば、このポットの中のお茶ね。女神の庭にはこれが置いてあると思って」


 それからエステラは様々な形のグラスを用意する。

「このグラスが肉体よ」


 そう言うと、数個のポットの中身を、それぞれグラスに注ぐ。ポットの中身は、大体どれも少しだけ残して、殆どがグラスに注がれた。


「肉体と魂両方持って、人は生きてる」

 エステラはお茶の入ったグラスを、皆んなに見えるようにした。


「普通はこうやって、死んだら魂が女神の庭へ還る」

 エステラはグラスのお茶をポットに戻した。


「ポットの大きさにも個性があって、中にコップ二個分の量のお茶が入っている場合もある」

 エステラは形の違うグラスに、同じポットのお茶を注ぐ。

「この二人は同じ魂を持っているけど別人、それから」


 エステラは空のまま置いていたポットに、溢れるギリギリまでお茶を注ぐ。


「エルフェーラ様みたいに信仰の対象になっていると、徐々にその魂の量も増えてくの。それに肉体のない状態の魂は、ポットの中身が本体だから、各神殿で顕現されているのは実際には」


 エステラは、ポットをちょんちょんと指でつつくと、その注ぎ口から、一滴ぽたりと落ちた。


「このくらいの量も、使ってないの。だから、残りのいくらかを転生に使ってても、全然不思議じゃないわ。それでも残ってる部分が精霊エルフェーラの部分ね」


 エステラのその説明に、始まりのハイエルフの二人と始まりのハイドラゴンの一匹も、関心して聞いていた。


「ナルホド、あのエルフェーラ達はそういう仕組みを利用してたんだな」

「え? エデンさんも知らなかったんですか?」

 アンソニーがびっくりする。


「知らなかったなぁ。そもそもそう云う事を知ろうとも思わん。普通は。魂は女神の庭に、それだけわかってりゃ十分なんでな、んはははは」


「好奇心って大事なんですわね」

 レベッカがしみじみ言った。



「それで、ディオンヌ様がしばらく動けないくらいにはしておいたっておっしゃったから、当分は安心できるのでしょうけど、教国はともかく、十一番目の方は神殿でエルフェーラ様とお話しして、納得されるような方ですの?」


 レベッカの問いに、エデンとルシンは首を横に振った。


「くっははは、そもそもやつは協会関係者だから、神殿出入禁止だ。たとえ精霊であろうとも。そういう造りになってる」

「ではディオンヌ様からいただいた時間を有効に使わないとですわ……エデン、明日からもっと、魔法も武術も私に教えて下さいな。ディオンヌ様のように、防御魔法を砕いて攻撃が届くようにならないと」


 レベッカの言葉に、とうとうマグダリーナも、お紅茶を吹き出した。


 口の端からダバダバ流れ落ちるお紅茶を、アンソニーが魔法でなかったことにしてゆく。本当に出来た弟だった。


「レベッカは何を目指して、何処に行くつもりなの?!」

「もちろんリーナお姉様と一緒に社交界ですわ。そして最強の令嬢を目指しますの。後で折角ハイエルフと一緒にいたのに、何も教わってなかったと後悔しない為に!!」


「素晴らしい!」

 ケントが立ち上がった。


「娘ごよ、私の妻に「シーラさんに振られたお方は黙っていらして」


 昨夜シーラに出会ったケントは、即跪き求婚をしたが「お互いのことを知りもしないで、私がエルフだからと求婚なんて軽率では」と塩対応で振られていた。


 レベッカの言葉に刺されて、ケントは黙って着席した。


 ケントの隣では、セレンが五本目の回復薬をマゴーに飲まされていた。それをレベッカはチラリと見て言う。


「何だかモヤモヤするので、まず先にはっきりさせておきたいのですわ。セレンさんにはどういう立場で接すればよろしくて? エステラお姉様のお父様……は、エデンは譲る気ないのでしょう? ではルシンお兄様のお父様? それともただの拾ったエルフ? ダーモットお父様、行き倒れを拾った場合はどうするものですの?」


 ダーモットは目を伏せ、厳かに言った。

「保護者が居ない場合は、拾った者に世話の義務が生じる。この場合、拾ったのはライアンということになるから……つまりうちで面倒を見ることになるね」

「すみません、父さん。軽率なことをしました」


 謝るライアンに、ダーモットは気にしなくていいと首を横に振る。


「保護者が居ない場合だよ。でも彼には立派な保護者が居るだろう。ケント氏とルシン君だ」


 そこにドミニクが挙手をする。

「我が君、その耳長はエルロンドに帰さない方がいいぜ。まだ十一番目ってやつの匂いが残ってる。そいつをどうにかしねぇでエルロンドに置いておくと、後々利用してくるに決まってるね。教国とエルロンドは物理距離も近いしなぁ」


 ドミニクの肩のカーバンクルも、ぷひぷひお鼻を鳴らして同意した。

 ニレルはもう何か諦めたような顔をした。


「そうだね、一理ある。セレン貴方、家事は出来るかな」


 セレンはぼんやりと答えた。

「どちらかと言えば、得意分野だが」


 数多の人生経験で、セレンは生きることに必要なことは、大抵出来た。


「では僕が家を一軒買おう。そこにドミニクとセレンで住むがいい。ただし、ディオンヌ商会での仕事はきっちりしてもらう」


「あの……」

 おずおずとセレンは声を上げる。


 まあ、わかる。いきなり知らない人と暮らせと言われたのだ。言いたいこともあるだろう。マグダリーナ達はそう思って、動向を見守った。


「息子……ルシン様とは、一緒に暮らせないのだろうか……」


 ニレルは素直に驚いた。

「貴方にその気があったとは、わからなかったよ」


 あれだけ恐れていたのだから、誰もがそう思っていた。


「エヴァが命がけで産んだ子が、愛しくないわけがない……たとえその正体がルシン様であろうとも」


 何気に失礼なことを言っているのではないだろうか……マグダリーナはそっとルシンを覗き見ると、彼はソファにもたれて、うつらうつらと舟を漕いでいた。相変わらず自由だった。


 その様子に、ニレルとエステラも顔を見合わせ、エデンを見る。

 エデンは大袈裟に肩を竦めて見せた。


「くっは、親子の仲を引き裂くなんて……俺にはとてもじゃないができないな。寝てる間に引越しさせとこう」


 エステラはゼラとモモを手招きして聞いた。

「いいの?」


 モモは今はスライムに擬態しているが、元々は前世ルシンの精霊獣だった。ゼラもモモとルシンを追いかけてショウネシーに来たのだ。


 モモは元気にピュイっと鳴いた。多分「いいよ」だ。


『別にかまわんよ。ワシもモモも嬢ちゃんの従魔やし。でも多分ルシン、引越し先の家壊して帰ってくるやろ。ニレルや嬢ちゃん、スライム達の作るご飯を、絶対食べるために』


 多分ではなく、きっとそうなる。エステラはちょっと遠くを見つめて、それから自らのこめかみを揉んだ。


「ご飯のために家を壊されるのは、ちょっと……うちを二世帯住宅に改修する?」


 エデンは首を横に振った。


「それじゃあ、意味がない。ルシンは今まで通り、うちに居着くぞ。親子の仲を修復するには、俺たちとは一旦距離を置いた方がいい。それにルシンにはセレンに残ってる、レーヴィーの痕跡を消していくという大仕事もある」

「そっか……じゃあ家の方を特殊強化するしかないかなぁ。あれ? ルシンお兄ちゃん随分ぐっすり寝てない?」


 いくらなんでも、ルシンが大勢の人がいるところで、こんなに深く眠ってるのはおかしいとエステラは気づいた。


 ルシンの背後から、にゅっとハラが顔を出す。


「昏睡魔法かけておいたの」


 どうやら一番ルシンの扱いに長けているのは、ハラだったらしい。

 そのまま、ぷるんと飛んで、エステラの肩に戻る。


「でかしたぞ、ハラ。今のうちに引越しだ。まずそいつらの家を決めるぞ!」


 エデンは立ち上がって、ドミニクとセレンを役所に連れて行った。

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