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159. 十一番目のハイエルフ

「私は聖エルフェーラ教国で、教皇が代々エルフ族……しかもエルロンド王家のものが務めていることを知りえた。そして今の教皇の寿命があと二十年あるかどうかという状態であると聞かされ、次の教皇として売られたのだと。だが実際は、そんな単純ではなかった。聖エルフェーラ教国の教皇は、その身を精霊に捧げる贄……そう、精霊となった十一番目のハイエルフ、レーヴィー様の器となるものだったのだ」


 聖エルフェーラ教国でセレンは、狭間と変容の権能を持つ精霊レーヴィーに入り込まれた。

 だが既にエヴァと繋がりのあるセレンの意識を、即時に支配下に置くことは、レーヴィーでも難しかったようだ。


 セレンの中でレーヴィーの記憶や意識が混ざり合い、セレンは悟った。レーヴィーが己の目的の為に、エヴァの産む女の子を欲している事を。


「私は、まだ私でいられる短い間に、レーヴィー様の転移魔法を利用してケントの元に向かった。そして私から、私の子を守って欲しいと……その後、間もなく私の身体は完全にレーヴィー様に主導権を握られてしまった。この手でエヴァの転移魔法を封じ、エルロンド王国に無理矢理連れ去った。エヴァは私の魂を通じて、レーヴィー様の目的を悟ると、産まれた子を守るため、その子の額の精石を切り取り、耳を削いで守護の魔法をかけた。そして……子の精石と共に自らの精石を飲み込み、生き絶えてしまった……」


 ぱたぽたと、セレンの瞳から涙が流れる。セレンはそこで絶望のあまり、精神も眠りに着いてしまったという。


 セレンはケントと違って、華奢で中世的な顔立ちだからだろうか……

 イラナと雰囲気が似ている気がして、マグダリーナは落ち着かなかった。


「でもお師匠は、女神の庭にはエヴァさんはいないと云っていたわ」

 慰めるようにエステラは言ったが、セレンの悲しみが深くなった。


「ハイエルフの葬送の行なわれていない状態のエヴァは、地上にいる私の魂との繋がりのせいで、女神の庭にはたどり着けない……ですから我が命を絶っていただきたく」

「何でもお前の望み通りに、させると思うなよ」

 普段より幾分低い声で、ルシンは脅した。


「エヴァの葬送は俺がする。俺を産んでくれたからな。なんで十一番目はスーリヤに手を出した」


「エヴァの子が男児であったから。そしてスーリヤが人族でも、ハイエルフの血を引く娘だったこと。おそらく彼の方は、スーリヤならエヴァの代わりに条件にあう女の子を孕む可能性が高いと思ったのだろう……」


 セレンが両手で顔を覆って、悲嘆に暮れた。


「あの子は私が無理矢理エヴァを連れ去るところを、見ていた。それなのに何故……何故……逃げなかったのか……いや、抵抗しても無駄だったのだろう……」


 そこから先は、エステラの方がわかっているので、気が抜けたのだろうか。エステラは、背中が蒸し暑いとエデンの膝の上から逃れると、ニレルの隣に座って、ニレルの腕にもたれかかった。


「こっちの方が実家感ある……」


 思わずエステラから漏れたその言葉に、ヒラとハラもぷりんと頷く。


 娘に逃げられたエデンは、不機嫌そうに言った。

「それで? レーヴィーのやつは何がしたかったんだ」


 セレンは俯いたまま答えた。


「大いなるウシュ帝国の初代王、金の神官、二番目のハイエルフ、エルフェーラ様の復活です」



 辺りが静まり返った。



 珍しくエデンが、憐憫をその顔に表した。


「なんだあいつ……エルフェーラに会いたかっただけか。それなのに随分とまた……聖エルフェーラ教なんてもの作ったり、世界中で面倒なことを……」


 レベッカが手を挙げた。そのいつもらしい様子に、エデンもいつもの戯けた笑みを浮かべる。


「んっハ、ドウゾ、レベッカ」

「エルフェーラ様、会えますわよね? この国の神殿で、どこでも。それも結構短期間に、エステラお姉様がそういう仕組みを作られたのだわ」


 レベッカの言う通りとばかり、皆頷く。エデンは堪えきれず、爆笑した。


 そこでマグダリーナは、エデンが十一番目は錬金術にもってこいの権能を持ちながら、錬金術の腕はディオンヌより劣ったと言っていたことを思い出した。

「つまりエステラと、そのレーヴィーっていう元ハイエルフの精霊とでは、出来ることとやり方にかなりの差があるって事よね」


 一応令嬢らしくまろやかな表現を心がけてみる。マグダリーナの心の本音は、その元ハイエルフ、随分と要領悪いのでは? だ。


「リーナの言う通りでしたら、エデンが今笑っていらっしゃるのは、沢山の方を踏み台にしてコツコツと行なってきたことを、エステラちゃんが御破算にしてしまったってことかしら」

 シャロンがハーブティーを飲みながら、エデンを見た。


「はー……あー……、大体そうだ」

 エデンは笑いを止めると、ソファの背もたれに身を預ける。


「だがハイエルフかエルフの女の子を欲しがったところをみると、肉体も合わせて復活させたかったに違いない。あいつは昔っから、エルフェーラも扱いに困るほど、エルフェーラを崇拝してたからなぁ」


「それで、エヴァの遺体は何処だ?」

 相変わらずルシンは氷の声音で、セレンを尋問する。


「聖エルフェーラ教国に……何らかの理由で私の肉体から追い出されたレーヴィー様も、今は一時、先の教皇の肉体に戻っていることでしょう」

 ルシンは舌打ちした。どうやら、ちょっと行って葬送を済ませてくるというほど、簡単にはいかないようだ。


 ヴェリタスもライアンと意見を擦り合わせながら聞いてくる。

「エルフェーラ様が目的だとして、何でオーブリーにちょっかいかけたり……今回の毒騒ぎもそいつの仕業なら、何でそんなことしたんだ?」


「これは俺の予想だが」

 エデンはそう前置きした。


「エルフェーラだけでなく、エルフェーラがいた形跡…金の神殿があって、エルフェーラがついた王座もある……おまけにカーバンクルとコッコカトリス……この二つもエルフェーラの精霊獣が根付いた聖獣だ。それら全てがあるこの国も欲しいんだろう。それと……あのよく死に目にあってるセドくんの長男だが、」


 弟の話題がでて、ドリーは驚いてエデンの話に耳を傾ける。


「そこのセレンに鑑定してもらわんと確実ではないんだが、これまでの状況で予想すると、その魂はおそらくエルフェーラの魂の一部の可能性がある。つまり、作った器の中に入れる魂を得る為に、身体から魂が離れる瞬間を狙ってるとみた」


 ドリーは慌てた。


「待って下さいな。エルフェーラ様は各神殿にいらっしゃるのに、エリックの魂の中にも……?!」


 マグダリーナも驚く。

「つまり女神の庭にいらっしゃらないのは、もう転生していたからなのね……でも、そしたらどうして精霊であるエルフェーラ様が存在しているの……?」

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