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150. ドミニクの恩赦

 ハラはケントが屠ったカエンアシュラベア達を魔法収納に入れながら、エステラの魔法でディオンヌが女神の庭から降りて来たのを感じていた。


 ディオンヌに造られて、四千年以上ずっと共に過ごした。

 ディオンヌが寿命を迎えたら、ハラは己の命も消えるものと思っていた。


 ……生きてもう一度、その存在を感じることが出来ることの、なんと幸福なことか。


(だけど、転移で会いに行ったりなどしないの)


 うっかりディオンヌに付いて行きたくなってしまうといけないから。ヒラと一緒にエステラの側にいると、ハラは自分で決めたのだから。


「ケント、移動しますよ。向こうにササミの気配を感じます」


 死の熊達も、それの元を生み出したエルフ族であるケントが適切に処理済みだ。

 周囲の浄化も終わらせたので、ここにはもう用はない。


 ハラは泣いてることを悟られないよう、そそくさとケントを連れて転移した。




◇◇◇




『なんなのだ、アレは!!』


 森の中を無数の銀光が走り抜けて行く。


 叫んだササミ(オス)の背の上で、その光景を見ていたライアンは、綺麗だなとぼんやり見惚れていた。


 ライアンの後ろには縛り上げたドミニクを乗せ、さらにもっと後ろには、ササミ(オス)の鞍に縄で繋いだ二匹のアルミラージが非常に大人しく従っていた。


『尋常ではない魔力なのだ。だが、我が主のものとは違う……』


 ササミ(オス)とライアンは、とりあえず光の行先を追った。


 そして。


「人が、」

『うぬ、気をつけよ。エルフのようだ』


 ササミ(オス)から降りて、ライアンはそっと仰向きに倒れている、そのエルフに近づいた。


 エルフの艶やかな長い黒髪が緑の中に広がっている。


 ライアンは踏まないように気をつけて近寄り、呼吸と心音を確認する。

 念の為前髪を払って、何も付いていない額も確認する。


「生きてるようだけど、どうする?」


 ササミ(オス)も近づいて、すん、すん、と匂いを嗅ぐ。


『うむ、連れて帰ろう』




◇◇◇




 解毒剤で一命を取り止めた討伐隊のメンバーは、転移魔法で王都の神殿に移されてエルフェーラの回復魔法を受けた。


 すっかり元気を取り戻した彼らを見て、神殿でマゴマゴ放送を見ていたもの達が喝采をあげたり、心配になって様子を見に来た家族が喜びの涙を流したりと、夜を迎えたというのに、いつになく神殿には多くの人々が集まっていた。


 マグダリーナ達は神殿ではなく、王宮に転移した。


 今神殿に行って目立ちたくないというのもあるが、一応国王への報告や、腹黒妖精熊の収納改めを、王宮の一室を借りて行うためだ。

 ついでに王宮から腹黒妖精熊のかっぱらい品を持ち主に返して貰うことにする。


 教会解体の際に顔見知りなっている文官達が、作業場所を用意してくれていた。


 今回収納を改めるのはデボラとヨナスだ。

 男性の文官も、数少ない女性文官も、ハイエルフの大人の女性であるデボラの美しさを、手を合わせて拝んでいた。



「ショウネシーの者達よ、皆大義であった。二度もエリックの命を助けたのみならず、大事な国民を五百人余り失わずに済んだ。そして第三騎士団長よ、ドロシーと共に無事女神の神力の受け手を果たしたこと天晴れである」


 謁見の間でセドリック王がマグダリーナ達に感謝と労いの声をかける。


 当然王宮でもマゴマゴ放送を注視していた。何があったかの把握は大体済んでいる。


 ただし精霊の抵抗からディオンヌ降臨の間は、マゴー達が機転をきかせて「ここからは秘伝の術の為にお見せできません。薬が出来上がるまでサトウマンドラゴラの歌と踊りをお楽しみください」と放送を差し替えていた。


 セドリックは長女のドロシー王女を見据えた。


「ドロシーよ、其方の行動は本来なら王女として些か軽率であったと言わねばならない。しかし、結果的に女神の神力の受け手という大義を果たし、民を救うことに貢献したことも確か。今回は女神に免じて咎めはせぬ。学園が始まる前には王宮に戻るように」


 ドロシー王女は顔を綻ばせた。

「王の寛大なる御心に感謝致します」


 美しい礼を見せる王女に、セドリック王は頷いて見せた。


「バーナードよ」

「は……はい! どんな処罰も覚悟しておりますっっ!!」


「良い覚悟だ。まずマゴーはディオンヌ商会から借り受けている魔導人形、これを勝手に持ち出したこと、更にドミニク・オーブリーの杖も持ち出したこと、この二点は窃盗にあたる。そして服役中の罪人を連れ出したこと、これもあってはならぬことだ」


 ぐうの音も出なくて、落ち込むかと思ったが、バーナードはまっすぐ父王を見た。


「でも俺は後悔していません。アルミラージの角が無いと全て無駄になってしまうところでした。だから父上、俺を廃嫡する前にドミニク・オーブリーに恩赦を与えさて下さい」

「……おまえは、」


 セドリック王はため息を吐いた。


「廃嫡になんぞせんわ。それはそれで面倒が起こる。どうにもエリックの身には危機が付き纏っておる、不吉な王太子だと噂する貴族達も現れたしな」


「不吉……? 兄上が?」

 思ってもいなかったことを言われて、バーナードはぽかんとする。


「父上、まさか間に受けておいでではありませんよね? エリックより次代の王に相応しい者はいませんわ!」


 ドロシー王女もそう言うが、セドリックは内心、この王女が男子であったならとも思っていた。表には出さないが。


「間に受ける受けないの問題ではなく、国民にそのような噂と不安が広まれば、国が危うくなるという話だ」


 真剣な話題だが、ここで空気を読まずにぶった斬ったものがいた。


 ドミニク・オーブリーだ。


「発言をお許し頂けますでしょうか、国王陛下」

「許す」


「そんな話は後で宰相閣下とでもじっくりお願いします。まず私へ恩赦を。これはバーナード第二王子殿下と私の魔法契約でもありますゆえ。それに……」


 ドミニクはチラリと、気を失ったエデンを横抱きの姿勢にして、小さな腕の中に浮かせて魔法治療を施しているエステラと、マグダリーナ達を見た。


「子供達はもうじき寝る時間です」


「わかった。ドミニク・オーブリー、お主に恩赦を与えよう。ただし今後オーブリーの姓を名乗る事は許さぬ。ただの平民のドミニクとして生きよ」


 ドミニクが礼をとるのを見て、セドリックはエステラに声をかけた。


「エステラよ、エデンは大丈夫であるのか?」

「うん、お師匠がすぐ穢毒の浄化をしてくれたから、思ったより状態はいいの」


 国民用にサトウマンドラゴラダンスを放送している間、王宮とショウネシー邸には現場の映像が届いていた。


 ディオンヌがエデンをブッ刺してたのは浄化だったのか……

 ニレル以外のあの時の様子を見ていた者達は、何とも言えない顔になった。


「でもこの状態でエデンの自己再生機能に任せると、周囲一帯の魔素や精素を吸い尽くして、ちょっとここから王領までが不毛の地になっちゃうから、結界で囲ってゆっくり治癒させてるの。王都には私の工房兼別荘もあるから大事にしなくちゃ」


「左様か。あの大邸宅を其方に譲ったドーラ・バークレーには感謝しても仕切れぬな。さて、ドミニクの言う通り今日は解散といたそう」


 マグダリーナはチラリとセドリック王を見た。


「マグダリーナよ、如何したか」

「あの……エリック王子の件なんですが……」

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