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146. カエンアシュラベアと死の熊

「ド……ドミニク……アルミラージは竜種だと言ったな。つまりブレスは吐けるのか?」

「そりゃもちろん。豪勢な火焔のブレスを……」


 そう言って杖を振り、アルミラージにブレスを吐かせようとするドミニクを、バーナードは慌てて止めた。


「ああーっ! やめろダメだ! 熊師匠に火はダメだ!!!」


「その根拠は?」

「熊師匠は火属性の魔獣だから、火で強化されてしまうとショウネシーの魔法使いに教わったのだ!」


 ドミニクは片眉を上げてニチャリと笑った。


「なるほど、初耳だ。検証が必要だなぁ。炎よ我が敵を焼きつくせっ」

「おっおまえ〜〜!!!」


ぶ――――っ


 ドミニクが火魔法を放つと、それに追従してアルミラージも火炎のブレスを放った。

 そして、辺り一面に真紅の輝きの柱が立ち昇る。それは魔獣が進化する為の光だった。


「なんてことをするんだ! ドミニク・オーブリー!! お前それでも宮廷魔法師団長まで務めた大人なのか?!」


「チッ、逃げたか! 追尾の式も重ねたのに反応しねぇ」


 最悪な状態を更に悪くしたのに、反省どころか意味のわからないことを呟くドミニクに、バーナードは言葉を無くした。


「ほぉーこいつは珍しい。やっぱ色違いが居るじゃねぇか。ショウネシーもあの耳長は捕まえられなかったのか?」


 ドミニクはバーナードの側にいるマゴーを見た。


「その件に関しては、残念ながら我々には情報が足りませんでしたので」

「ふーん。怖いねぇ、あいつは死の狼より厄介そうだ」


 進化の輝きが消えると、四つ手熊の群れだったものたちは、一体出現すれば領地が滅びると言われる《カエンアシュラベア》の群れとなって現れた。


 だがその赤い毛並みの群れに、数体、黒紫色の個体が混ざっている。

 カエンアシュラベア達は、一斉に色違いの個体に攻撃を仕掛けるが、黒紫色の師匠に傷つけられると、次々と斃れていった。


「なんだ……どうなってるんだ? 何故師匠達はこっちに見向きもしないんだ?」


 ドミニクは思い切りドヤ顔でバーナードを見た。


「これはどの文献にも記述『されなかった』ことでね。アルミラージを襲う魔物は、竜種の上位種以外にいない」

「そ……そうなのか?!」


ぶっぶー

ぶっぶぶー


 肯定するように、アルミラージ達は鳴いた。


「そしてあの色違いの熊は、エルフの改造魔法にかけられてる個体だな。他の熊達は、そいつらの異常性に気づいて、排除するつもりなんだろう。さ、今のうちに移動しちまおう」

「し、しかし、このまま放って置いていいのか? あの黒い熊達は……凄く……嫌な感じがする」

「まあそうだな、あの熊達は穢毒を撒き散らす、言わば死の熊ってところだろうさ。でもアルミラージの角も早く届けなきゃなんねぇんじゃねぇの?」


「それは……だがこのままでは……」


(領民に……やがては王国全体に……死をもたらす穢れが広がってしまう……)


 バーナードは覚悟を決めて、アルミラージから飛び降りた。


「おい!!」

「ドミニク・オーブリー、お前はアルミラージの角をなんとしてもマグダリーナ達に届けてくれ。俺はこれまで毎日、浄火魔法の訓練は欠かさなかった。ここで穢れを食い止める」


 ドミニクはやれやれと首を振った。


「熊の数に対して坊ちゃんの魔力量じゃあ、普通に無理じゃん。それに第二王子殿下は、私に恩赦を与える契約のことをお忘れで? 契約不履行で死んじゃ、穢れを食い止めることも出来ねぇだ、ろっ」

「うぐっ!?」


 ドミニクはバーナードの襟を掴むと乱暴にアルミラージに乗せた。



「いいか、第二王子坊ちゃん、私と坊ちゃんだけじゃ、こいつらの対処は無理だ。だったら、出来ることをする。今出来ることはなんだ」

「……」


「私が一人でアルミラージで乗り込んで、ショウネシーに信用してもらえるのか? そこを保証することも王子の責任だろう」

「……わかった」



 ようやくバーナードが納得したその時、淡い輝きとともに、ぽわりとバーナードの頭にぬくもりが落ちた。


「バーナード、がんばったの」

「ハラ!!」


 バーナードはハラをぎゅっと抱きしめた。


「ここはハラに任せて、彼と行って。皆んな待ってるの」

「ヒラは? ハラ一人で大丈夫なのか?」


「ケントが居るのです」


 ハラの視線の先を追うと、見知った銀の鎧のエルフの剣士が居た。


 エリック第一王子を殺そうとし、バーナードを矢で射たエルフだ。


「おま……っ」

「早くなの」



 ハラはアルミラージの角に体当たりする。


 バーナードを乗せたアルミラージは駆け出した。ドミニクのアルミラージもそれに続いていく。


 ハラはバーナードが無事に穢毒の及ぶ範囲を外れたことを確認して、スライムボディを満足げに膨らませた。

 イケスラパウダーを弾けさせながら。


「ドミニク・オーブリーが良い仕事をしてくれました。あの熊達は『彼』がここに居た証……痕跡の調査をするので、熊達は任せましたよケント。出来ますか?」


 ケントは手にしていた薄い本……マグダリーナとアンソニーの共著「四つ手熊討伐の手順書」を鎧の内部にしまうと、右手に長剣、左手に短剣を持った。


「うむ、彼奴等の急所は把握した。して、これらを殲滅するのに、あの娘ごだとどのくらいかかる?」


 ハラは呆れた顔をしてケントを見た。

「魔法を使えば、数秒ですよ?」


「そうか、私も今後は攻撃魔法も更に磨き上げるとしよう」


「攻撃魔法ではなく、冷凍魔法です。獲物の心臓を凍らせるのです。カキ氷作るのにも使いますよね」


 ケントは一瞬脳内に色んな感情が忙しなく駆け巡るのを感じたが、黙って目を閉じると、精神統一をした。


「では殲滅といこう」


 黄金の髪を揺らし、身体から溢れ出るほどの魔力を纏ってケントは熊の群れに向かった。

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