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144. バーナードとドミニクの契約

 ドミニク・オーブリーは、大人しい囚人だった。


 決めれた時間に寝起きし、決められた労働をこなす。

 労働は彼の得意とする魔法ではなく肉体労働ではあったが、苦にはならなかった。


 彼の願いを叶えるには、体力はあった方がいい。


 ひたすら模範的な囚人となり、あわよくば刑期が短縮されるのを狙っていた。


 というのに。


「出ろ、ドミニク・オーブリー」


 今ドミニクの牢屋の扉は、第二王子であるバーナードにより開け放たれた。




「えー、やだよ。脱走なんてしたら罪状増えちゃうじゃん」

 無精髭の可愛くない成人男性が、唇を尖らせてそっぽをむいた。


 看守も周りの囚人も、ドミニク以外はバーナードが連れ去ってきたマゴーの魔法で眠らされていた。


「子供の遊びに付き合って、終身刑や死刑になったら割に合わねぇよ」

 そう言って、ドミニクはゴロンと粗末なベッドに横になる。


 彼は王宮魔法師団長をしていた時と違って、随分と砕けた口調になっていた。

 バーナードはヴェリタスを思い出し、こっちが普段の彼かも知れないと思った。


「うむ、今回のことは俺が責任を取る! 何がなんでもアルミラージの角が必要なんだ。力を貸してくれ!!」

「なんで、私が?」

「五百人の国民の命がかかっているんだぞ!」


 ドミニクはすっと熱のない目で、バーナードを見た。


「私には関係ないね」


「……っな、アルミラージはずっとオーブリーの家門が、密かに繁殖地を管理していたんだろう!」


 バーナードは以前、兄である第一王子のエリックが「王領とその近辺に出没する魔獣図鑑」を一緒に見ながら、そう言っていたのを思い出す。


 こりゃあかんとドミニクは首を振った。


「坊や、何の権限も持たない君が、私と交渉するのは役者不足もいいとこだ。セドリック王となら話を聞かなくもないがね」

「ダメだ。一国の王たる父上が、罪人であるお前と交渉するなどあってはならない。だが私ならまだ最悪廃嫡で済む。ここから出て私を手伝うことを、お前の罪にはさせない。それからこれは」


 バーナードは懐から、可憐な花の入った小瓶を取り出した。


「これはお前が欲しがってた、ショウネシーの新年の花だ。新年の魔法は切れているが、珍しい素材であることには変わるまい。俺が差し出せるのは、これだけだ」


 それでもドミニクは首を横に振った。


「いくら珍しい素材でも、ここじゃあどうしようもできねぇよ」


 ぎりりと、バーナードは唇を噛んだ。


 ドミニクは腐っても元宮廷魔法師団長だった男だ。交渉ごとでは圧倒的に不利だったが、ここで諦めては全てが無駄になる。


 バーナードはずっと神殿でマゴマゴ放送を観ていた。


 マグダリーナの願いも。

 ライアンやレベッカの覚悟も。

 素材を掻き集めてくれたものの労力も。


(ここで、この男の一番欲しいものを与えないとだめだ。全てを無駄になど、させるものか)


「ではお前が手伝い、必要数アルミラージの角が手に入った場合、俺の名においてお前に恩赦を与えよう。ことが終わったら、お前は自由だ。さあ、これなら文句はあるまい、早くこの手を取るがいい!!」


 ドミニク・オーブリーは、目も口も三日月にして笑んだ。


 そしてバーナードの手を握る。


「確と。確と約束したぞ! バーナード第二王子ぃ! この契約の破棄は命で贖われる」


 バーナードとドミニクが青い光に包まれた。


「契約魔法か?!」

「このくらい当然! さて、さてさて早く行くぞ。道中何が起こってるのかも洗いざらい話してもらおう」


 にちゃりとドミニクは不気味な笑みをこぼす。

 バーナードの心には、既に後悔の嵐が吹き荒れていた。




◇◇◇




「腹黒妖精熊ねぇ。私はあまり魔獣は興味ねぇんだ。あのクソ親父が魔獣に興味津々だったからな」


 ドミニクの言葉に、バーナードは顔色をなくした。

「まさか……お前、アルミラージのことは……」


 本当は何も知らないのではないだろうか……この男を外に出したのは失策だったかと不安になったが、ドミニクはキヒヒと笑った。


「それは安心するが良いさ。アルミラージを大事にしてた祖父ちゃんが、絶対親父にはアルミラージを任せられねぇって、全部私に引き継いでったからな」

「そうか、良かった……」


 罪人の収容所から、ドミニクの指示で転移したのは、元オーブリー領と王領の境に位置する森だった。


「さぁって、第二王子坊ちゃん、アルミラージはどんな魔獣か知ってるかい?」

「その呼び方はやめろ。バーナードでいい」


 ここまでの事をしたのだ。この件が片づけば、自分は廃嫡されるかもしれない、そうなると王族ではなくなるのだから、王子と呼ばれる筋はない。


 次代の王には兄上がなる。自分には国を背負うなど到底無理だ。だから何が何でも兄上の命を、将来国を支える者たちの命を救わねばならない。


 バーナードはなけなしの知識を総動員して、ドミニクに答える。


「アルミラージは角兎の王と呼ばれている、額に黒い一本角を持つ角兎の上位種で、最終進化形態……そしてリーン王国にしか存在しない希少種だと文献にあった」


 ドミニクはまたキヒヒと笑う。


「バーナード坊ちゃん、その文献にアルミラージの絵はあったかい?」

「あったぞ。黒い大型の角兎の絵が」


「だったら坊ちゃんは今日、一つ賢くなるぜ。文献、歴史書、形に残る書物には、誰かの作為が隠されてるかもってな」

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