123. 命乞い
両腕を失った銀の鎧のエルフ剣士は、突然のセドリック王の言葉に、マグダリーナに向き合い、膝をついた。
「マグダリーナ・ショウネシー子爵よ。どうか私の命をお助け下さい。さすれば、我が忠誠を其方に捧げよう」
「ええ?! 何故私なの?」
セドリック王と宰相はそう来たか、と言う顔をしている。
「私がリーン国王に直談判したとて、決して王は許さぬ。しかし、其方はエルロンド王国占領の立役者だ。王から褒美を貰えるであろう」
「それを貴方の命ごいに使えと?! ……でもまあ、そう言われたのに死なれても寝覚めが悪いし……王様?」
「うむ、マグダリーナよ。其方が我が娘で、やがて国を率いる立場のものであれば、その甘さに苦言を呈すところであるが、其方は賢くとも優しい、未だ十一歳の少女だ。其方の頼みであるなら、条件付きでそのエルフの存命を許そう」
「条件、とは」
条件……難しい条件じゃないといいなぁ。
「我が国は奴隷制度を禁止しておるが、そのエルフに限り隷属の契約魔法で縛り、金輪際決してリーン王国に牙を剥くことのないようにせよ」
「わかりました」
難しい条件じゃなくて、ほっとしていた所、耳の長い兄妹が、両側から指でエルフの頬をぐりぐり突いている。
突かれてる本人は至って無我の境地にいた。もしかしてこのエルフ、できる人?
「わざわざリーナに狙いをつけたあたり、頭良さそうなんだけど、なんでうちに単騎で自爆しに来たの?」
「この人、公爵、あ、もう元公爵か。だけど王と折り合い悪かったんだよ、まともすぎて」
「あ、良かった。まともな方だったんだ。変態幼女性愛エルフだったら、どうしようかと」
「そこがまともかまでは知らん」
「えー」
「エステラ、ルシン、お話中悪いけど、この人に隷属の契約魔法をお願い」
マグダリーナはそっと話しかけたが、誰に隷属させるんだとルシンに聞き返された。
「本人リーナに忠誠を捧げるって云ってなかったっけ?」
エステラがそういうと、本エルフもその通りと首を下げた。
「馬鹿正直にマグダリーナと隷属契約させてどうする? エルフの寿命は長いんだ。そう云うわけで、色は選ばせてやる。青、黄、桃、どれがいい?」
なるほど。しかしその選択肢、さすがルシン容赦ない。
「き……?」
仕方なくエルフの剣士は、自分の金の髪に近い黄色を選ぶ。
「ぱんぱかぱーん! ハラの子分なの。お名前は?」
目の前にぽろぽろスライムが現れ、彼はボソリと「スライムに隷属するのか……?」と呟いた。
ハラがずいっと伸ばした両手に、エルフの両腕を持って、聞く。
「お名前は?」
「……ケント……ケント・ギルフォードだ」
ぴかぴかハラが輝き、その光がケントを包んだ。
「ケントはハラとヒラとモモとササミとゼラとエステラとニレルとエデンとデボラとヨナスとイラナとアーベルに逆らっちゃダメなのー。あとショウネシー家の皆んなとショウネシーの領民とリーン王国の王族と、皆んなのお友達傷つけちゃダメなのー」
隷属させる側の名前が増えてる。増えてるではないか……!
ケントはそう思っても、無論逆らう事はできなかった。




