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117. ジョゼフ・ショウネシー

「そんな信じられない事が……いや、だが実際にそうなってるわけだから……」


 ジョゼフは頭を振りながら、現状を飲み込む。


 彼の妻の実家は、ゲインズ領の王都側に面した隣領、オーティス領の領貴族だった。


 魔銀や鉄の鉱山があり、水も豊富で、全体的に見るとオーティス領は豊かな領だった。だけどそんな中にも、格差はある。


 ジョゼフの妻の実家は、領地の中でも余り実入りが良くない、貧しい村を治める下位貴族であった。


 口減しの意味も兼ねて嫁にやった娘が、夫と戻ってくる。実家側も良い顔ができるわけもなく、かろうじて使用人も付けずに離れでひっそりと暮らす事を許された。


 その後のジョゼフは、身を粉にして働いた。妻を養うためと……少しでもショウネシー領を支援するためだ。


 何をしても手ごたえの無かったショウネシー領と違い、妻の実家の土地は、工夫しただけ結果が現れた。村は豊かになり、ジョゼフの収入も増えた。


 ジョゼフの手柄は全て義父のものとなったが、そんなことはどうでも良かった。


 ハンフリーの生活費程度の仕送りが可能になったからだ。


 だが、オーブリーが滅亡し、その領貴族だったフランク子爵が、オーティス侯爵の傘下に入り、領貴族として隣村にやって来た時に、全て変わった。悪い方に。


 侯爵家や領主家からも見逃されがちな、小さな村であるのを良いことに、酒場と偽って、賭博場や売春宿を作り、近隣の村娘達を拐かし紛いの手段で連れて来て、働かせていた。


 

 この国で性を売るのは、国の認可を受けた「娼館」だけで、その娼館の娼士達は性を売る代わりに貴族同様の……それこそ王立学園のような教育を受ける事ができる。


 娼館にも格があって規模や価格帯も変わる。高級娼館の娼士にもなると、貴族令息や令嬢に初夜のマナーや夫婦円満の秘訣を授ける、家門繁栄の師となるのだ。


 因みに娼「婦」ではなく、娼「士」なのは、男性もいるからだ。いきなり女性と対面するのは怖いという、初心なお坊ちゃんの話相手になったり、妻以外の女性は抱かないという信念の男性や、単純に男色家相手だったり、はたまた好きな方への誕生日プレゼントは何がいいかなど聞いてくるご令嬢まで、男女とも体を売るだけでなく、ただ相談にのったり、話し相手だけをすることもあった。


 彼らは恋と性のプロフェッショナルで、情報収集のプロフェッショナルでもあったからだ。



 そういう国の許可を得た娼館と違って、売春宿は完全にアウトだ。

 何故なら管理が行き届かず、病や犯罪の発生源となりかねないからだ。


「度胸だけはいいのね」

 マグダリーナは呆れて言った。


 そうして隣の村の収入が右肩上がりなのに目をつけた、フランク子爵はその原因たるジョゼフを調べ上げ、マグダリーナに目をつけた。


 それにジョゼフは調べれば調べるほど、己の息子に足りない所……すなわち「頭」を補充するに最適な人物だった。


 そしてジョゼフの義父は村に手を出さない事を条件に、娘であるジョゼフの妻をフランク子爵家に人質に渡し、ジョゼフを切り捨てたのだ。




「不思議に思ってました。兄さんがショウネシー領を出てからしばらくして、ある時からずっと……毎月差出人の無い送金が有るのが。兄さんからだと良いと……ずっと……」


 ハンフリーは言葉を詰まらせて、俯く。


 コッコ(メス)達は順番にもちもちボディーをくっつけて、ハンフリーをハグしていった。


「私も先程の言葉は謝ろう。ジョゼフ、君はマグダリーナを助けてくれた恩人だ」


 ダーモットはそう言って、ジョゼフに頭を下げたが、ジョゼフは慌てた。


「おやめください! 私は大した事など出来なかった。現に決闘など最悪の方向に向かわせてしまった……彼は絶対、決闘に持ち込みます」


「決闘って、お断りすれば良いんじゃないの?」


 マグダリーナの疑問にヴェリタスがテーブルに両手と頭をついた。


「すまん、リーナ。決闘はオーブリーのお家芸だ。絶対に断らせない方法も、どんな手段を使っても勝つ方法も、多分熟知してる」


 マグダリーナはその言葉にシャロンを見ると、シャロンは頷いた。


「ならいっそ、正面から受けて立つしかないのね」


 さっきからマグダリーナの視界の端に、耳の長い兄が同じく妹の挙手を阻止しているのが、チラチラ目に入る。



「えっと、エステラ? ルシン?」


 昼食を終わらせて、もう一度やって来た二人だ。

 今日はニレルとエデンは、金の神殿に行ってるらしい。


「決闘は私が出るわ!」

「ダメだ、俺が出る」


「ダメダメ、お兄ちゃんは『絶対殺す』か『カエルにする』かの二択でしょ!」

「当然だ。そもそも敵には初手から情けをかけるなとディオンヌから教わってるだろう?」


 ヴェリタスも挙手した。


「俺が出るよ。そもそも、元オーブリーの傘下だった貴族のやらかしだしな」

「ええ?!」


 突然候補者が増えて、マグダリーナとダーモットは顔を見合わせる。


「いーえ、ルタはシャロンさんと一緒にお茶でも飲みながら、観てて。今後もこう云う輩が現れないように、きっちりかっきり『ショウネシーの魔法使い』の力を見せつけるから!」

「ええー」

 まさかのやる気満々のエステラに、マグダリーナはびっくりする。


 シャロンも少し考える。


「確かに『ショウネシーの魔法使い』の存在を示すには、良い機会かも知れませんわね」



 ルシンがスッと、マグダリーナを見た。


「それじゃあマグダリーナ、君が決めてくれ。この決闘の方針と誰を決闘の場に赴かせるのか」

「え? お父さまじゃなくて?」


 ルシンは頷いた。


「君だ。君の決定なら、エステラも選ばれなくても納得する」


(いや待って、もしかして私、今ルシンに脅されて……る……?)


 隣のテーブルで、学園から帰って来たライアンとレベッカ、そしてアンソニーがドーラとカレンから、何が起こってるか説明を受けていた。


「えっ!? お相手の方、ダーモットお父様より歳上ですの? どれだけ厚いお顔の皮を下げていらっしゃったのかしら?」


「その歳まで独身だったって事ですよね、ハンフリーさんに早くお相手を見つけないと……」

「そうですわね……いざとなったら、私がハンフリーさんに嫁ぐとはいえ、もっと良いお相手が居れば、それに越した事ありませんもの。カレンさん、どなたか良い御令嬢知りません?」


 カレンはうーんと首を傾げる。


「ハンフリーさんが新年に王宮で、ドロシー王女のダンスのお相手をされたことは、話題にはなってるのよね……ただ、現在ドロシー王女の立場が微妙なのと、ショウネシー領が謎過ぎて、ちょっと様子見されてる感じかしら……」


「待って、カレンさん、どうしてショウネシー領にいてドロシー王女の事情とか分かってるんですか?」

 ライアンがびっくりして聞く。マグダリーナに達すら、アグネス王女は何も話してくれてないのだ。


「まあ、色々伝手もありますし?」


 その言葉にドーラも深く頷く。

 そしてポツリと呟いた。


「決闘場に大型映像装置を設置して、リオローラの宣伝動画流しちゃダメかしら……?」

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