表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
六章 金の神殿

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/285

112. 新年のさみしんぼう

 新しい年を迎えた早朝、マグダリーナとアンソニーは家族全員で公園広場に向かう。


 柔らかな太陽の日差しの中、花びらの様にふわふわ雪の舞う、美しい朝だった。



 マグダリーナ達は、終わったらすぐ王宮に向かうので、アンソニー以外は盛装姿だ。


 アンソニーは自分が買った空色のふわふわレースショールを、レベッカにかけた。


「リーナお姉様とお揃いだわ! ありがとうトニー!!」


 レベッカは大喜びで身体強化をしてアンソニーを持ち上げ、くるくる回った。



 公園広場に着くと、昨年と同じようにマゴー達が小さな楽器で音を奏でている。


 雪と一緒に、ふわふわと小精霊達が輝きながら舞い踊っていた。


 女神の祝福多き、良き新年を! とそここかしこから新年の挨拶が聞こえた。



 ヴェリタスがこちらに気づいて、手を振る。

 少し離れたところにはバークレー夫妻とマハラとカレンがいて、白い息すら楽しそうにしていた。


 ヴェリタスに手を振り返すと、噴水の周りに、八つの星の様な輝きが現れる。

 そして、淡い光に包まれた、八人のハイエルフ達がその姿を現した。


 純白の祭服に刺繍の入った薄衣、女神の光花の花冠姿は昨年と同じだが、今年は皆手首に鈴のついた金の腕輪をしていた。


 もうそれだけで、神々しい。


 女神像の真正面にいるニレルが、鈴の音を立てて片手を上げると、それが合図らしく、揃って噴水に一礼してから、唄と踊りが始まった。



《いと貴く 慈悲深き 我らが女神よ》



 八人の声が響き渡ると、小精霊達が一層輝きを強める。



《命の恵み与えし 輝ける御方よ

見えるものと 見えざるものを 統べる主よ》



 優雅な歩みと共に彼らが揃って体を回転させれば、衣装の裾が、麗しい髪がふわりと広がり、領民達はその美しさに見惚れた。



《満たし給え 我らが器にその神秘を

照らし給え 天より降り注ぐその慈愛で

清め給え 地に安らぎあるように


満たし給え 我らが器にその神秘を

照らし給え 天より降り注ぐその慈愛で

清め給え 地に安らぎあるように》


 噴水の周りにみるみる女神の光花が咲き誇り、辺りを芳香で満たした。


 ハイエルフ達は一礼すると、揃って薄衣を脱ぐ。


「今年は景気がイイぞ!」


 エデンのがそう叫ぶと、噴水の女神像から光る花が一斉に溢れ出した。


「うぉぉぉ!!!」


 去年いた農夫達の、太い雄叫びが上がった。



 マグダリーナはショールを脱ぎ、アンソニーは保存瓶を取り出して花を掬い始めた。今年は大きめの薔薇のような花も、ランダムに混ざっていて、真っ先にエステラの額に激突して溶けていった。


「リーナお姉様、これは?」

「創世の女神様の、なんかイイ事ある奇跡の花よ。触れればいいだけの縁起物だけど、奇跡に預かれるのは今日触れた分だけよ」


「触れれば良いだけなのに、なんで集めてるんだ?」

 ライアンも手のひらに落ちた美しい花が、ふわーと溶けて消えて行くのを不思議そうに見て聞く。


「ここに居ない人達のお土産分ね。従魔に食べさせると進化したりもするわ」


 くまっ くまっ


 ナードが短い手足で懸命に拾おうとするが、今一つ上手く行ってない。


 レベッカはマグダリーナを真似てショールを振り回してナードの分を取ってあげた。



 奇跡の花で盛り上がる中、突然日が翳り、人々は空を見上げた。



「何だ……あれ?」


 そこには、大きな純白の、竜が、いた。




◇◇◇




「うそ……結界を擦り抜けて入って来たの?!」


 呆然とするエステラを庇うように、ニレルが前にでる。


「何故だ。今は神命の刻ではない。何しにここへ来た」


 ニレルのその言葉で、マグダリーナとアンソニーはその竜が、世界の破滅の命を持つハイドラゴンだと気付いた。


『何しに、だと……』


 ハイドラゴンが首をもたげ、こちらを見下ろした瞬間、女神の奇跡の花の一際大きいのが、スコンとハイドラゴンの顎に激突した。


『…………』


 キュルキュルとハイドラゴンは落下して来た。


 大きな体を、急速に縮めながら、螺旋を描き、ハイドラゴンは落下して来た。



 ぼてん、と地面に落ちたときには、コッコ(メス)より小さいくらいで、短い手足に丸々としたボディになっていた。


「えっと……、大丈夫?」

 思いがけず目の前に落ちて来たので、マグダリーナは一応声をかけた。


 エステラが走ってきて、マグダリーナを庇うように立ち、動かずにいるドラゴンを、そっとつついた。


「生きてる?」

 フリフリとドラゴンは尻尾を振って答えた。


「どっこいしょっと」

 エステラはハイドラゴンの胴体を抱いて、地面から引っこ抜いて、ととのえるの魔法をかける。


「かわいい……」

 マグダリーナは、すっかり仔竜っぽいその姿に、思わず声が出た。


「そうね、空色の眼が綺麗ね」

 エステラも同意する。


『ワシの魅力に気づくとは、若きハイエルフの娘に人の娘よ、良い目を持っているな。ワシの嫁になるか?』


「遠慮するし。どうしてショウネシー領にやって来たの? 貴方の住処は竜の島でしょ?」

 エステラは綺麗に流した。


『……から』

「ん?」


 ハイドラゴンの瞳に、みるみる涙が盛り上がる。


『チビに迎えに行かせたのに、チビもルシンも帰ってこんから! ワシ寂しいじゃろう!!』



「「…………」」



 エステラとマグダリーナはルシンを見た。完全に知らぬ存ぜぬの顔で、花を集めている。


 それからエステラはモモを見た。こちらもヒラやハラやササミ(メス)と一緒に夢中で花を食べている。


「えっと、身内がなんかごめん」

『知ってた! ルシンが薄情者って、ワシ知ってた! だから……だからワシが来てやったんじゃぁぁ』


 泣きじゃくるハイドラゴンに困り果てたエステラがハンフリーを見ると、彼は頷いた。

 領民達も可哀想だから、なんとかしてやれという顔をしている。


 エステラは、ルシンを慕って来たのに、私が面倒見る……の? と思ったが、額に落ちた女神の花を思い出して、そういうことなのかなぁと腹を括った。


「じゃあ、私の従魔になる?」

『なる』

 即答だった。


「いいの?!」


『もう何千年も、ぼっちはいやじゃあ!! それに嬢ちゃんはワシの鱗を使った杖を持っとるじゃろ?』


「わかった。じゃあ、貴方の名前はゼラ。これからはうちの家族の一員よ」


 ――わっと領民達から歓声が上がった。



 ニレルは呆然と「ハイドラゴンが神官以外の人と暮らそうとするなんて……」と呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ