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108. 後悔

 エステラは治療室を出て、待合室にいるダーモットとマハラに診察結果と、今後の治療方針を伝える。


 本人がかなり衰弱してる為、魔法で全てを直すには逆に負担が掛かかること。まずは外傷をある程度治療し、痛みが無くなってから骨折を回復魔法で治癒する事を説明した。


「全身の傷はこう普通のじゃない……棘状の鋲か何かついた鞭の跡で、それから右側頭部を強打されて倒れた時に、家具か何かに打つかって左の手足を骨折してるわ。顔と頭部の火傷から推測して、暖炉かも知れない……寒くなって来たし……それからあまり質の良くない回復薬を使って、少し傷を治しては何度も嬲られてる……」


 マハラは、ワッと泣き出した。


 ダーモットは黙って老婆の背中を摩る。


「こんな事なら、ドーラ様が商団をお辞めになった時に、あの子がドーラ様について行きたいと言うのを、止めるんじゃなかった……! 私のせいだわ」


 エステラはマハラの隣に座ると、そっとその手を取った。マハラの皺の寄った骨張った手は、冷たい。そのまま小さな両手で摩った。


「先のことは誰にもわからないわ。全然おばあちゃんのせいじゃないの。悪いのは悪いことをする人よ。それにカレンさんは大丈夫よ。少し時間はかかるけど、イラナと私でちゃんと綺麗に治すから」


「お嬢さんはお医者様なのかい?」

「魔法使いよ。名前はエステラ。おばあちゃんは?」


「マハラよ。孫娘はカレン……息子の嫁に似て綺麗な子なんだよ。もうたった一人の家族で……宝ものなんだ」

「うん、じゃあカレンさんにとっても、マハラさんは大事な家族で宝ものだね。頑張って新年までにお肉が食べれる身体にしなくっちゃ!」


「お肉……?」


 予想外の言葉に、マハラはポカンとした。



「マハラ! ダーモット! カレンは大丈夫なの?!」


 ドーラがブレアと一緒に駆けつけた、丁度その時。


「シートぉ、全身に綺麗に貼れたよぉ」

「みるみる傷口が塞がっていくの!」


 治療室の戸が開くと、ぽよぽよとヒラとハラとモモが出て来た。


「無事処置は完了しました。骨折の治癒ができるまで入院して、コマコ達で様子を見ますので、皆さん安心して戻っていただいて構いませんよ。あ、その前に患者さんのお顔見ていきますか?」


 イラナが出てきて、マハラが驚きのあまり気を失いそうになるのを、ダーモットが支えた。


「しっかり、彼はそっくりだけどクレメンティーンじゃないから」

「……彼?」

「彼」


 ダーモットはしっかりと頷いた。



 清潔な病室でカレンは眠っていた。

 ほとんど全身を、薄く透明なスライムコラーゲンシートに覆われてはいるが、出血は止まり、傷口は塞がりつつある。


 コマコが少しずつ、魔法で胃に蜂蜜水を流しているからか、顔色も徐々に戻りつつあった。




◇◇◇




 ショウネシー邸で、ケーレブやマハラに詳しい話しを聞くと、カレンはブレアの作った大商団の総領の館で働いていたらしい。


 平民でもお金持ちで、大きな邸宅に住むものは、貴族のように使用人を雇う場合がある。下手な貴族の館より賃金が良かったりもする。


 カレンは十二の歳から商団の下働きをはじめ、今の総領がブレアの後を継いでからは、総領の館で五年メイドをしていた。


 大商団の総領となった館の主人は、調子が良かったここ数年と打って変わって、最近商売が上手くいかず、使用人で憂さを晴らすようになったという。


 特にどうしても手に入れたいと狙っていた、ブレアの大豪邸が、他の人間の手に渡ったと知って機嫌が悪いところ、運悪くカレンは主人がバークレー夫妻の命を狙ってエルロンドに暗殺を依頼し、失敗したことを知ってしまった。


 そうして生かさず殺さず痛ぶられているのを、常に王都の情報に目を光らせてるシャロンの使用人からカルバンの耳に入り、彼は独断で元ショウネシー邸にいたマゴーに頼み、カレンとマハラを保護してケーレブに連絡したのだ。



 ブレア老は両手で顔を覆い、嘆いた。


「私があやつを後継にしてしまったばっかりに……」


 ブレアは瞑っていた目を、ゆっくり開いた。


「本来なら私がせねばいかん後始末だが、エステラ嬢よ。あの商団を潰して欲しい」

「ブレアさんが本当に良いなら、やるけど」

「構わん。手間を取らせることになって済まない。支援が必要ならいくらでも協力しよう」


「うん、じゃあ今の総領の好みの女性のタイプを教えて」




◇◇◇




 エステラの治癒魔法の凄さを知っていたマグダリーナ達は、てっきり帰ったら元気な姿のマハラの孫娘に会えると思っていたのに、コッコ車の中で治療に数日かかると聞いて、驚いた。


 大体の事情も聞き、マグダリーナはマハラに少しでも元気を出してもらうには、どうしたらいいだろうかと考えていた。


「うーん、こんな感じかしら?」

「うむ、申し分ない腰つきだ。これならあれの好みにピッタリだ」

「エステラ?」


 サロンに入った途端に、目の前に色気に溢れたダイナマイトボディの美女が目に入る。


「あ、おかえりなさい! どお? 姿変えの魔法なんだけど、大人の男の人を誘惑するのに良い感じじゃない?」

「エステラ……姿変えって……中身は誰なの?」


「んははは、俺だ」

「エデンなの?!」


 美女からいつものエデンの声がして、マグダリーナは驚いた。


 ヴェリタスとライアンも、数歩後退る。


 美女は踵を二回踏み鳴らすと、いつものエデンの姿に戻った。


「じゃあ俺は下準備もあるし、早速出かけて来るとしようか」

「釣果を楽しみにしてるわ」

「期待しててくれ」


 エデンはそう言うと、エステラの頬に口付けて転移した。


 エステラがハイエルフになってから、エデンは今まで以上に、娘として溺愛するようになったように感じる。



 ハイエルフ達の存在に対する驚きは、大事な孫娘を失いかけて悲嘆にくれたいたマハラに、一瞬でも悲しみを止めるきっかけになったようで、その隙を逃さず、アンソニーはコッコ(メス)をマハラの膝に乗せて、どこが一番触り心地が良いかを熱弁した。


 マグダリーナもマハラの横に座って、コッコとの出会いを含め、今まであったことを話して聞かせた。

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