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104. お茶会

 ミネット・ウィーデン嬢のお茶会は、本人も初の主催との事もあり、五人の女子だけが招待された、小規模なお茶会だった。


 王都には、王都に邸宅を持たない貴族の為の貸し会場が幾つかある。


 ウィーデン家も王都に邸宅は持たず、ミネットは学園の寮に入っていた。


 今回のお茶会も貸し会場を借り、他の招待客は、寮で知り合った同級生や中等部のお姉様方だ。


 ひと通り紹介が終わると、紅茶の給仕も終わり、お茶菓子が並べられる。


 砂糖たっぷりのジャムを固めて羊羹にしたようなお菓子で、煮詰めた果物の種類を変えて、色鮮やかな層になっていた。


 一番上には、赤い花の砂糖漬けが乗っている。


「綺麗だわ!」


 マグダリーナはその見た目に、素直に感嘆した。


 一番華やかなそのお菓子の周りには、小さな落雁の様な干菓子が散りばめてあって、和菓子の懐かしさを思い起こさせた。



 マグダリーナが学園のサロンで見たデザートのお菓子は、干果物の入ったビスコッティをさらに砂糖を煮詰めたシロップにつ漬け込んで、粗めの砂糖を塗して乾燥させたものだった。王女達がそれを熱々の紅茶に浸して、おしゃべりしながら、少しずつ食べていたのを思い出す。


 あれを上品にこなさないといけないのかと思っていたが、これならなんとかなりそうだった。



「このお菓子に合うような紅茶をと思い、自分でブレンドしてみましたの。皆さんのお口に合えば嬉しいですわ」


 ミネットは柔らかく微笑んで、お菓子と紅茶を勧めた。


 供された紅茶は果物の風味を引き立てる、華やかな香りのキリッとした渋みのある紅茶で。砂糖の甘みが後味を濁す事なく上品な余韻になった。


「本当にお菓子に紅茶が良く合って、美味しいわ。ミネットさんは、中等部では家政科にお進みになるのよね。授業のことでわからないことがあったら、いつでも相談に乗るわ」


 中等部のお姉様が、にこやかにおっしゃった。


 中等部からは、騎士科、魔法科、文官科、領地経営科、家政科でクラスが分かれる。


 家政科は女子の殆どが進む学科だ。

 主に嫁ぎ先での女主人として必要なことを学ぶ。


 マグダリーナは領地経営科に進むつもりなので、ミネットが今回お茶会に招待してくれたのは、本当にありがたかった。


 他科の女生徒と知り合う機会になったからだ。


 多分領地経営科は、女生徒は少ないだろう。このお茶会のメンバーの顔と名前はしっかり記憶しておこうと、こっそり肩の上のエアにも頼む。



 もう一人のお姉様が、もじもじとマグダリーナに話しかけてきた。


「あの……ショウネシーさん、先日そちらの馬車でお迎えに来られていましたエルフの方々は、どういった方達かお伺いしても……?」


 マグダリーナは一瞬どう説明するか迷った。ハイエルフの存在は王家は知っていても、他の貴族達に周知されているかまで知らなかったからだ。


 そこは曖昧にすることにした。


「ショウネシー領の友人と、そのご家族達ですわ。一緒に私達と同じ年頃の女の子が居ましたでしょう。彼女が私の親友ですの。ご家族で商会をされていて、あの日は王都で取引の用事があって来られたの。うちのコッコ車を作ってくれた商会でもありますわ」


(嘘は言ってない。嘘は)


 マグダリーナはニッコリ笑うと、それに合わせてレベッカも微笑んだ。


 話を振ったお姉様が、うっとりとした瞳で頬の熱を冷ますように、手を当てる。


「初めてエルフの方を拝見致しましたけど、遠目にも光輝くような美貌で、夢を見ているようでしたわ」

「わかります」

「わかりますわ」


 マグダリーナとレベッカは頷いた。


「現実の恋愛とは別として、姿が良過ぎてときめくことは、多々ありますもの」


 レベッカの言葉に、皆頷いた。


 ここでマグダリーナは声を顰めた。


「でもお気をつけ下さいませ。あの方々から、まともなエルフは殆ど国を出てるから、どんなに顔が良くてもエルロンド王国のエルフは他国民を下に見て何をするか分からないから近づかないように、と言われてますわ」


 どんなにエルフの顔が良くても、エルロンド王国のエルフにホイホイ引っかかってしまっては大変なので、注意喚起はしておく。


「まあ……!」

「でもショウネシーにいらっしゃる方々は、安全ですのよね?」

「ええ、皆さん親切で、素敵な方達ですわ」


 イケメンの話題が少女達の気持ちを上げるのは、異世界でも共通するらしい。話題をくれたニレルとルシンに、マグダリーナは心の中で感謝を捧げる。


 話が弾んだ分、この令嬢達には、今後マグダリーナやレベッカがお茶会を主催する時に招待状を出しやすくなった。



 お茶とお菓子を楽しみながら、お互いの趣味や学園の話で花を咲かせる。


 堅苦しいと予想していたお茶会は、主催のミネットや招待客の人柄もあり、思った以上に楽しかった。


 手土産に頂いたハーブティーもミネットがブレンドしたものらしく、元オーブリー領特産のハーブが使ってあり、身体を温めて調子を整えてくれる作用があるらしい。


 冬が近づくこれからの季節に、丁度良かった。




 マグダリーナが異変に気付いたのは、コッコ車から降りてすぐだった。

 エステラの家の前でデボラとヨナス、そしてアーベルがウロウロしてたからだ。


 マグダリーナとレベッカは、急いで近づいた。


「どうしたの? 皆んなここで何してるの?」

「マグダリーナ!」

 気配に敏感なアーベルが驚いて、マグダリーナの名を呼ぶ。珍しいことだった。


「やっぱりこんな所にいても、しょうがないって」

「ダメよ! ヨナス、私達がここに居ても、気にする余裕がない状態ってことよ。せめてイラナが出て来て様子がわかるまで帰れないわ」


 デボラはヨナスに首を振って、抵抗した。


「何がありましたの?」

 レベッカも不安気に聞く。


 ヨナスは首を振った。

「わからない。ニレル様の魔力がとても不安定になったのを感じて、様子を見に来たんだけど、呼んでも誰も出てこないし、時々ヒラがエステラ様を呼ぶ声が聞こえるんだ……だから多分エステラ様に何かあったんだとは思う」


「大変じゃない!!」

「大変ですわ!!」


 マグダリーナとレベッカは、さっさと玄関の引戸を開け、靴を脱いで家の中に入った。

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