102. はじめての招待状
ライアンとレベッカが加わった学園生活は、目まぐるしく過ぎて行った。
夜会は十五歳からだが、社交は学園に入学したらそれとなく始まる。
マグダリーナは入学してすぐに飛び級したりなんだりと忙しかったせいで、お茶会に呼ばれるような親しい友人はまだ居なかった。
そもそもまだ世間には、まだショウネシー家の貧しさの印象が拭えておらず、爵位は上がっても貧乏貴族と侮られている。
マグダリーナが高価な宝石を身につけたりせず、何の飾りもつけずに質素に制服を着ていたりしているためもある。
学園の制服は上下の基本的な色と形、襟飾りが決まっているだけで、仕立てや布地、そして多少の改造は自由だった。
裕福な家の子は、スカートの裾やズボン、上着に豪華な刺繍を施したり、女子の殆どが裾にフリルを付けたりしていた。
マグダリーナの制服は、エステラを養女にするつもりだったアルバーン伯爵が仕立てた物だから、生地も仕立ても良い。
質素なデザインなのは、エステラが活動的だから邪魔にならないようにと、後で好みに改造できるようにと両方なのだろう。
マグダリーナは毎日着るものだから、動きやすさ重視でそのまま着ていた。
ライアンとレベッカもオーブリー家に居た頃は、家格に合わせて豪華に改造したものを着ていたが、ショウネシーには身一つで来たので、マグダリーナに合わせスッキリとしたデザインで仕立ててもらっている。
そんな中、マグダリーナは初めてお茶会の招待状をもらった。
同じクラスのウィーデン子爵令嬢からだ。
「突然でごめんなさいね。でももし来年クラスが変わってしまったら、きっとお誘いする勇気がなくなってしまうと思って……」
ミネット・ウィーデン嬢はマグダリーナの隣の席というだけでなく、優しい雰囲気で、クラスの女生徒の中で一番話しかけ易かった。
「レベッカさんもご一緒に、是非」
「嬉しいわ。ありがとうございます」
と言うわけで、早速帰ったらシャロンに相談して、粗相の無いようにしなくちゃいけない。
午前の授業が終わると今学期は無料の食堂で食事を済ませてから、さっさと帰ることにしている。
ライアンとレベッカも魔法学は修了証を貰ったのでそれに倣う。
学園の横に設けられた馬車の乗車場へ行くと、昼休み中の生徒達で人集りが出来ていた。
視線の先にはショウネシー家のコッコ車があり、そのコッコ車を駆って迎えに来たのが、エステラとルシン、そしてニレルだったのだ。
いつもの普段着と違い、黒地に白と銀糸で刺繍の入った、お揃いの他所行きの服を着て、マグダリーナ達に手を振った。
「エステラ! どうしたの? それにそのドレスかわいい!!」
「んふふ、ありがとう。ドーラさんのお邸を譲って貰う手続をして来たのよ。ただの平民が、王国一の大富豪の邸宅を手に入れたと悪目立ちしたら困るから、おしゃれしたの。これからお邸見に行くんだけど、皆んなも来るでしょ?」
四人は頷いた。
馬車の中にはドーラとブレアもいた。
リオローラ商団の流通システム開発の対価に、ドーラは王都の豪邸をエステラに譲ることにしたのだ。
「噂ではあの豪邸、色んな貴族や商人が狙ってるって聞いてるけど?」
ヴェリタスはシャロンからそう聞いていた。
敷地も広く王宮より贅を凝らしたと言われている、大富豪の大豪邸だ。
「私はまだ見たこと無いけど、皆んなで中位精霊呼んだお邸なんでしょ? 楽しみだなぁ」
エステラの楽しみはそっちだった。




