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2.年下婚約者の苦悩と決意

※アレスサイドのエピソードです。

「ミリア・ラングレイルっ!お前との婚約を破棄する。だから…」


『だから…それが嫌なら俺にもっと構え!』



 そんな子供じみた主張は、相手の耳に届くこともなく、それ以前の段階でばっさりと切り捨てられた。わかってる。そんな言葉で相手を繋ぎとめられるなんて思ってもいない。でも――、どうしても気持ちが抑えられなかった。


 アレスはかなり追い詰められていた。ミリアの部屋から飛び出した後は、自室に閉じこもり、ずっと悶え苦しんでいる。


 そこにノックの音が響く。


「アレス、どうしたんですか……ってうわ、悲惨なことになってますね」


 許可も得ないまま入って来るなり、生温い目で見てきたのは使用人のハルト。とはいってもお互い平民同士だし、小さい頃からの付き合いでほとんど友人といった立場だ。


「もーっ、こんなに散らかしちゃって、足の踏み場もないじゃないですか。それにそんな隅っこでキノコが生えそうな禍々しいオーラで座り込んじゃって。後で旦那様に呼び出されちゃいますよ!」


「別にどうでもいい」


「ミリア様にも愛想つかされちゃいますよ!」


「……」


「やはり、この荒み方は婚約者様と何かありましたね?」


 このまま一人で悶々としていても気が狂いそうだったアレスは、先ほどまでのことをかいつまんで話をした。その間、半笑いなアレスの態度が気に食わなかったが、そこに突っ込む気力もなかった。


「せっかく婚約を受けてもらって屋敷にも呼び寄せたのに、ミリアは常に忙しそうにしてるから……」


「旦那様がミリア様の商才を見抜いて、英才教育してますからね」


「たしかにそれはそうだけど……なんなら、ミリアも嬉々として教えを乞うている。それでも、かかってもせいぜい夕方まで。休日だってある。ゆっくり一緒に食事をとったり、話したりするくらい婚約者の俺に時間を作ってくれてもいいんじゃないか」


「この前、背伸びして大人な雰囲気のカフェに誘ってたじゃないですか」


「数か月前から誘ってやっと、な。しかも動揺してるこっちの様子を観察するような、見定めるような目で見つめられてて……会話も全く弾まなかった」


「まあ、がっちがちに緊張している相手が目の前にいたから、ミリア様も落ち着いて楽しめなかったんですって。うーん、書店デートも誘ってなかったですか? そこならミリア様も好きな本に夢中になれるから、会話が続かなくても不自然じゃないでしょう」


「それが……『趣味の領域にはアレス君とは死んでも無理』と拒否された」


「わかった! アレス、嫌われてるんじゃないですか」


「ぐはっ」


 ストレートな物言いにダメージをうけたアレスは、勢いよく顔を上げ、後頭部を壁に打ち付けた……ものの、なんとか持ち直す。


「いや、それはない……と思いたい。ミリアは嫌なことは嫌とはっきり言うが、基本的には俺と過ごす時間をわざと避けている感じはしない。この屋敷に住むことも二つ返事で了承してくれたしな。でも、……なんだか、それ以外に忙しそうなんだ」


「じゃあ、単純に興味ないって感じですかね。勉強やら趣味やら、もっと熱意を込めているものがおありなんでしょう」


「……お前!これ以上何も言うな! ダメージでかすぎるだろ!! しかも涙目の俺を見て、面白そうにへらへら笑うな!」


 そこでハルトは真剣な顔つきになる。


「まあ、そんな関係もつい先ほどまで。勝手に婚約破棄を主張して泣きながら飛び出したアレスの印象は、控えめに言っても最低以外の何物でもないでしょうね」


「ぐふぉおおおっ!」


 こいつは、どこまで辛辣なんだ。


「ぐすっ、……どうしても彼女を前にして素直になれない……ぐすっ」


 これ以上ないほど小さく丸まったアレスを前にして、ハルトは言葉をかけた。


「ただでさえ、この後アレスが学園に入学して寮生活が始まると、3年間はミリア様とお会いする時間はほとんどなくなってしまうのです。素直に謝って誤解を解くしか方法はないでしょう。真摯に向き合わないと、手遅れになりますよ。あのひと、執着とか未練とかなさそうですし。アレスと違って」


「わかってる……わかってるんだ。だから焦ってあんなことを言ってしまった。なあ……どうしたらいい?」


 面白半分で傷を抉り、塩を塗りたくってくる相手に縋らなければならないほど、アレスは思い詰めている。


「……そうですねー。とりあえず、ミリア様はアレスに大人な対応を求めてはいないでしょう。恰好つけすぎていつも失敗しているんですから、ありのままの自分をさらけ出すことが大事なんではないですか?」


「……それで嫌われたら?」


「ミリア様ってそんなこと気にしますかね? 少なくとも、アレスを嫌っているようなら婚約など成立しなかったでしょう? 手遅れになる前にすぐにでも気持ちをお伝えしに行くべきだと思いますけど」


 しばらく俯いて考えを巡らせていたアレスは、涙を拭って勢いよく立ち上がった。


「うん! そうだよな。そうだ。俺はできる、できるぞ……!」


 バシン!と両頬を叩き、気合を入れるアレス。


「ミリアに会ってくる!」

 言うなりダッシュで部屋から飛び出していったアレスの背中を見つめながら、思春期って大変だな……と一人にやけるハルトだった。

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