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1.婚約破棄、賛成です!

「ミリア・ラングレイルっ!お前との婚約を破棄する。だから…」


 目の前の男性……一応の婚約者から発せられたその言葉は、完全に私の想定内だった。「想定内」だったからこそ、彼が続けて何か言いだそうとしていたことには全く気付かず、私、ミリア・ラングレイルは反射的に、食い気味に、ものっすごーくはっきりと返答した。


「はい、承知いたしました!」



「…… は?  ……」



 大きく見開かれた瞳。彼から絞り出すように放たれたその一文字からは、驚いているという情報以外何もわからない。もしかしたら、もっと悲しそうな表情をして、しばらく間をとってから返事をした方がよかったのかもしれない。せめて、「承知いたしました『!』」などと語尾を強めなければ、嬉々として婚約破棄を受け入れている感は減ったかもしれない。……多少は。


 でも、こんな未来が待っていることはだれがどう見ても明らかなのだから、しかたないか、とも思う。アレス君……アレス・イエンナーは親同士決めただけの婚約者。私より5歳も年下だし、身分も違う。それまでに顔を合わせたことはあっても、特段仲がよいわけでもなかった。もともとがおかしな縁談だったのだ。

 ただ婚約が決定しただけの段階でイエンナー家のお屋敷に住まわせてもらっているこの状況だって、破格の待遇だ。生活費、食費、その他諸々が全部そちら持ちという謎の好条件につい食いついてしまったのだけど、無料でおいしい話など、世の中にはない。


「なっ、い……家の借金はどうする? 俺との婚約が破談すればラングレイル家は立ち行かなくなるだろう!」


「その件は本当に感謝してもしきれません……でも、まあ、なんとかする算段はついているんです」


「なんとかって……」


「今、このまま居候させていただくだけでは申し訳ないので、細々とですが収入を得られるように努力しているのです。まだまだ至らぬ所ばかりですが、ラングレイルの家を繋ぎとめる程度には、余裕もできてきましたので」


「ふざけるな……」


 アレス君の顔はさきほどより赤くなり、相当怒っているのがわかる。


「お怒りごもっともです。もちろん、何年かかったとしても、これまで援助していただいた分は、命に代えても必ずお返ししますので!」


「そん、なの……」


「義父様には商いのノウハウを一から学ばさせていただいておりました点につきましても、決して不義理になるような真似は致しません。いざとなったら、義娘ではなくとも、イエンナー商会のいち従業員として働いてくれてもかまわないよ、とのお言葉をいただいておりますので、精一杯働かせていただく所存です」


「……」


 アレス君の顔は、今度は青くなり、最終的には倒れるのではというくらい、真っ白になった。今すぐにでも休んでもらった方がいいのだろうけれど、少しでも安心材料を増やしてもらうため、私は口早に続けた。


「もともと、我が家は歴史ばかり古くて、その実何も持たない名ばかりの貴族です。だからこそ実父も私に学を身に付けさせたり、アレス君の元……商家に嫁がせたりしようと考えたのだと思います。しかし、イエンナー家はその名を知らぬ人などないというほど、事業で成功されている今一番勢いのあるお家です。ラングレイル家との縁で生まれる貴族への繋がりなど、さして重要ではないでしょう。アレス君も才能に溢れ、なんならそのルックスだって文句のつけようがなし! 貴族らしさの欠片もない平凡……寄りで地味な年上の妻を迎えるより、よっぽどいい選択があります! ぶっちゃけちゃうと、若くて可愛くて私より素晴らしい子なんて、アレス君レベルでは選び放題です。……つまり、ここまで、アレス君の申し出に対して、私ミリア・ラングレイルは、完全に賛成の立場にいます。今回の婚約破棄、諸手を挙げてお受けしましょう!!」


 決まった! 完璧な論法。すっかり気分の良くなった私が意気揚々とアレス君を見ると、彼の顔は再び真っ赤になっていた。……本当に忙しそうだな。大丈夫かな……?


「そんなこと!!」


 しばしの間の後、突然大声を上げるアレス君。


「そんなこと……ない、ミリアは、ぐぅっ……き れい だ」


 これだけ熱弁したのに、取り上げる話題そこ……? それにそんな苦虫を嚙みつぶしたような表情で無理やり声を絞り出されても、こちらがいたたまれない気分になるだけだ。最後消え入りそうな声を発した後、しばらく俯いていたアレス君だったが、再びこちらを睨みつけ、叫んだ。


「ミリア・ラングレイル!! 俺はっ、ぜったいに婚約破棄なんかしないからなっ!!!」


 ダダダダダダ!!!!!

 

 言うなり、ものすごい勢いで部屋から走り去ってしまった。


「ええっと……」


 ……つまり、――どうしろと?


 全く理解できない状況に、私はしばらく呆然と立ちすくんだ。


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