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その名は(1)

申し訳ありません、「アーチの下で」を一時取り下げさせていただきました。

それよりも少し時系列が前のものを代わりにあげさせていただいております。



召使いの勧めもあって、ティファニーは積極的に外へ出ていくようになった。とは言っても、王弟の許可が出ないとのことで、精霊局の敷地の中だけだ。

初めて部屋の外に出たあのときからから、召使いたちの態度は急に柔らかくなった。

疑惑に満ちた瞳から、温かく見守るような瞳に。

それは、まるで冬から春になったかのような急激な変化だった。

彼女たちの心に何が起こったのかは分からなかったが、塔の中の居心地がずいぶんよくなったのだった。



ティファニーは連日のように語らいの庭に出かけた。

この場所は誰もが気軽に立ち寄ることができて、ティファニーと鳶さんがベンチに座っていれば、自然と人が集まってきて、いろいろな人と話すことができる。

「本当にお美しい。これは今までリチャードが隠しておきたいと思うわけですな」

「めっそうもございません」

「掌中の珠を奪われて、あの伊達者もずいぶん落ち込んでいることでしょう」

「めっそうもございません」

ティファニーは、とりあえず返答に困ったらこう答えておけばいいと召使いに教えられた言葉を繰り返した。

明らかに会話は成り立っていない。

まるでそのことに気付いていないように男たちが話し続けることが、ティファニーには不思議でしょうがなかった。

(宮廷の会話って、こういうものなのかしら)

いい加減ほほ笑み続けるのにも疲れてきたが、ティファニーは彼らの言葉に熱心に耳を傾けている態度をとった。

宮廷の優雅な会話というものは、想像していたよりも楽しくなかった。

今まで家の外に出ることが少なかったティファニーは人と接することに慣れていない。

突然見知らぬ人に話しかけられ(それも向こうはこちらを知っているのだ)、興味津々な目を向けられても戸惑ってしまうだけだった。

それでもこの場に来るのは、ティファニーにある狙いがあるからだ。

「あなたはいつもティファニー嬢と一緒にいますが、あなたもそう思っていらっしゃるんでしょう?」

男たちの一人、貴族の精霊使いが、鳶さんに話しかけた。

ティファニーの狙い―――それは今まで人と接することのほとんどなかった鳶さんを人に慣れさせることだった。

(いつまでもわたしとばかり話していてはだめだわ)

鳶さんを自立させるために、ティファニー以外の人間と接する経験値を積み上げていかなければならない。

鳶さんが返答を返すのをじっと待った。

話しかけた男は、息を呑んで彼の返答を待っていた。

しかし鳶さんは何も答えない。

話しかけた男は、周囲の精霊使いたちが面白そうな顔をしているのに気がついて、ちらちらとそちらを気にし出した。

とうとうティファニーは鳶さんに言った。

「鳶さん、話しかけられてるんだから、返事をしなきゃ」

「ティファニー」

「あのね、わたしじゃなくて‥‥ごめんなさい、とても失礼なことをしてしまって。彼はとても人見知りが激しいんです」

「ああ、いいんですよ。彼はいつもこうなんですかね?」

皮肉気な男の表情に、ティファニーは落ち込んだ。

やはりそううまくいくものではないのかもしれない。

ましてや相手が貴族なら、今みたいに怒らせてしまったときにいろいろと影響が大きい。

「いつもではないんですが‥‥」

「まあ、いいですよ。あなたが気になさらなくても」

申し訳なさそうなティファニーに、その貴族はとりあえず溜飲(りゅういん)を下げたようだった。

この作戦は失敗だったと反省するティファニーに、さらに追い打ちをかけることが起こった。



鳶さんがティファニーを引き寄せ、キスをしたのだ。



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