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初志貫徹(2)

「あの、外に出てもいいかしら」

ティファニーが勇気を出して言った言葉はあっさりと受理された。

「もちろんでございます。わたくしのような侍女にお聞きになる必要はございません。殿下はティファニー様が自由に行動することをお許しくださっています」

外に出ていいことが分かったものの、ティファニーには特に行きたいところもなかった。

ティファニーが宮廷で知っているところと言えば、国王に任命された朝議の間と、この塔の部屋くらいだ。

「どこか散歩をするのにいい場所はないかしら?」

「それでしたら、語らいの庭はいかがでしょうか。その名の通り、よく貴族たちがベンチで語り合っている庭園で、有名な誓いのアーチもございます。ご案内いたします」

召使いの後について、複雑な通路を歩いた。階段を上がったり降りたりして、角を右へ左へと曲がる。

一人では戻れそうにないと思いながら、遅れないようについて行った。

途中すれ違った精霊局の役人たちが、道を譲ってくれた。彼らはティファニーに興味津々な目を向け、次いでそのすぐ後ろを歩く鳶さんを見て固まる。

この中にも鳶さんの知り合いがいるのかもしれないと思い聞いてみたが、鳶さんは誰も知っている人はいないと答えた。

「ティファニーさん」

呼びとめられて足を止めると、そこには見知った顔があった。

「ジルさん!」

思わず喜びを露わにしてしまった。知らない相手ばかりで緊張していたのだ。知っている人がいるだけで、ティファニーはうれしかった。

召使いも足を止めてティファニーを振り返り、どういう知り合いだろうという疑問の視線をジルとティファニーの間で行ったり来たりさせていた。

「こちらへいらっしゃっているのは知っていましたが、ごあいさつもせずに申し訳ありませんね。しかし、ここでお会いできて幸いです」

「こちらこそ、ごあいさつもせずにすみません。なんだか慌ただしくて、頭がついていかなくて‥‥」

「無理もありませんよ。こちらのお方は?」

常に笑顔をたたえているジルの目が、鳶さんに向けられた。

「彼は‥‥わたしは鳶さんと呼んでいますが‥‥。ご存知ではありませんか?王弟殿下とクレイティアの知り合いで、もともとこの塔にいたみたいなんですけど」

「いえ、初めてお会いしますね?」

ジルは鳶さんに問いかけたが、鳶さんは興味のなさそうな視線を返しただけだった。

失礼なその態度に、ティファニーのほうがいたたまれなくなる。

「ごめんなさい、彼、悪気はないと思うんです。でもいろいろあって、感情があまり出せないみたいで‥‥。今はわたしが話相手をしているんです」

周囲は密かに聞き耳を立てていて、ティファニーのその言葉を聞いてどよめいた。

自分が言ったことがどのように理解されているのか全く気がつかないティファニーは、何かが起こったのかときょろきょろと辺りを見回した。

ジルが「そうでしたか」と言って注意を戻した。

ジルはうんうんと頷きながら、優しげな目でティファニーを見ていた。


その日、ある噂が宮廷を走った。

いわく、王弟には隠し子がいて、その息子は知能遅れであるがために誰にも知られずに塔で育てられているらしい、と。



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