番外編(召使いのつぶやき)
わたくしが新しくお仕えすることになったお嬢様、ティファニー・ガーラント様は、精霊局にある精霊の塔の中の最奥『封印の間』の侍女でございます。
いわゆる「部屋持ち」の中でも、特別な地位にある『封印の間』の侍女。
この位置は、精霊局の局長である王弟殿下の愛妾として、宮廷での地位を保証されているのです。
ティファニー様は、わたくしが以前お仕えしていたクレイティア様とはずいぶん違うタイプの少女でございます。
初めてお会いしたときは驚きを隠せませんでした。
王弟殿下の遊び相手といえば、いつも粋なかたばかり。
お相手は、当然、男女の営みに慣れていらっしゃいます。
しかし、このティファニー様というのは、どうにもおぼこ‥‥いえ、とても殿下のお手つきであるようには見受けられません。
本当にこのかたが、あのクレイティア様を押しのけて愛妾の座を手に入れたかたでしょうか。
お仕えしてみれば、どうも慣れない様子で、わたしたちのすることに一々申し訳なさそうな顔をしていらっしゃいます。
ティファニー・ガーラント様。
ガーラント家というのは、聞いたこともない家名でしたが、よくよく噂を聞いてみれば、あの名門ハサウェイ家とつながりがあるそうではありませんか。
ハサウェイ家といえば、もちろんあのリチャード・ハサウェイです。
もしや今回の人事には、彼が一枚噛んでいらっしゃるのでしょうか。
そうですわ。
王太子殿下の右腕と呼ばれる彼の、そのいとこが王弟殿下の愛妾の座におさまったことで、精霊局と玉座の絆が深まったのだわ。
そんな深いお考えで、王弟殿下はティファニー様をお召しになったに違いありません。
だから、王弟殿下とティファニー嬢の話が噂になることがなかったのですね。
新しい侍女が発表されたとき、誰もが寝耳に水だったはずです。
だから他の貴族は、みんなどこで王弟殿下が彼女を見初めたのか噂をしているのです。
あの金色の髪と、澄んだ湖のような瞳。
その清らかな容姿を褒めそやす男性も多いと聞きます。
とんでもないことですわ!
彼女が清らかなものですか。
彼女は王弟殿下のお渡りがないのをいいことに、部屋に妖しく美しい男を連れ込んでいるのです。
堂々と、この、王弟の愛妾の部屋である『封印の間』に!
呆れてものが言えないとはこのことです。
そんな女性は愛妾にふさわしくないと、いくら殿下に訴えても、殿下は「いいんだ」と言うばかり。
その間男に、『封印の間』の控えの間の続き部屋まで与えてしまわれるだなんて一体どういうおつもりなのでしょうか。
ティファニー様もずっと部屋にこもって退屈そうにしているくらいなら、クレイティア様を見習って顔を売りに外へでればよろしいのに。
『封印の間』の侍女になったばかりのクレイティア様は、それは精力的に活動していらしました。
ティファニー様は今、宮廷で一番話題になっている女性ですのに。
このチャンスを生かさないのはもったいないですわ。
貴族の興味は移ろいやすいもの。
今のうちに社交にいそしむよう、ティファニー様に進言してみようかしら。




