番外編(ジルの王宮案内)
えー、初めまして。
ジルと申します。
今まで名前だけお聞きしたことがあるかもしれませんが、こうしてお会いするのは初めてですね。
こう見えても、あ、見えませんか?
いえいえ、姿をさらすのは、どうかご容赦ください。
わたくしの容姿など、見て楽しいものではございません。
その代わりと言っては何ですが、今回はわたくしが王宮の人々についてご案内いたします。
まず、王宮といえば、その頂点に立つ国王陛下がいらっしゃいます。
直接拝謁したことはございませんが、とてもご立派なかたなのでしょう。
なにせ、あの王弟殿下の兄君なのですから。
王弟殿下はわたくしが所属する精霊局の局長を務められています。
最近、殿下の御年30歳のお祝いをしました。
あ、肖像画がありますね。
いかがですか?
思わず感嘆のため息が出てしまうような、いい男だとは思いませんか?
殿下はまさに、“男も惚れる男”。
殿下のためならば喜んで働くという者が、わたくしの知っているだけでも、両手で足りません。
そのうちに一人に、リチャード・ハサウェイという貴族がいます。
そうです、代々多くの精霊使いを輩出してきた、あの名門のハサウェイ家の継嗣でいらっしゃいます。
彼は精霊をもっていませんが、優秀な軍人として知られています。
将来国王陛下の右腕になるのではないかと言われるほど、将来有望な若者です。
そうした面とは別に、彼は洒落者として知られ、“都一の伊達男”とも呼ばれています。
何度かお会いしたことがありますが、煙に巻いてしまうのが上手く、きっと女性のあしらいがうまいのだろう、と思ったことを覚えています。
ちなみに王弟殿下も女性におもてになるのですが、あのかたのすごいところは、別れた女性に一切恨まれないところです。
話を戻しまして、リチャード殿ですが、わたくしはリチャード殿よりもむしろ、彼のいとこをよく存じ上げているのです。
そのいとことは、ガーラント家のティファニー嬢とクリスチャン君。
彼らは本当によく似ておいでで、本当に愛らしいかたがたです。
まるで人間の世界に間違って紛れ込んでしまった一対の妖精のよう。
彼らはまだ社交界にデビューしていらっしゃいませんが、名前を知らないかたはいないのではないでしょうか。
弟のクリスチャン君は、今から7年前、弱冠6歳にして精霊を得たことで宮廷中の噂になりましたからね。
そしてその容姿もまた貴族の紳士やご婦人の目に留まり、ぜひ身の回りの世話役や話し相手として預かりたいという申し込みが相次いだと聞いています。
なに、他家に子弟を預けることは、珍しいことではありませんよ。
親元にいるよりも、そうやって社会経験を積ませたほうがいいですから。
見込みがある子どもは、親が早いうちから外に出したほうがいいとも言われています。
彼らの場合は、お父さまがすべて一蹴し、耳も貸さなかったそうです。
お母さまの姉の伯爵夫人も、「外へ出すくらいならうちで預かります」と強く仰っていたらしいですし、どちらにしても彼らがどこかの貴族に預けられるお話はなかったようです。
わたくしが彼らと知り合ったきっかけは、わたくしの仕事の都合でした。
精霊のことは精霊局で管理されています。
クリスチャン君をぜひ精霊局に預けていただけないか、打診に行ったのですが、先ほど申し上げた通り、けんもほろろに追い出されました。
しかしわたくしは、7年経った今でも彼のお屋敷に定期的に通っていますよ。
最近は精霊局への勧誘という理由だけでなく、ちょっとした楽しみも加わってきました。
クリスチャン君へお会いしに行けば、姉のティファニー嬢のお姿を拝見することもできるのです。
麗しくご成長になり、毎回お会いするのが楽しみなのです。
おや、もうこんな時間ですね。
今日はここまでといたしましょう。
ではまた、お会いする機会もございましょう。
そのときまで、お元気で。