それは偶然(1)
自称精霊男と出会ったのは、つい1週間前。秋風の吹き始めた、ライヒの月13日のことだった。
この日ティファニーは急に思い立ち、よく当たると評判の占い師のところへ行こうと馬車に乗り込んだ。というのも秋風を感じて、1年前に父が遠征に出かけた日を思いだし、いてもたってもいられなくなってしまったからだった。
母を早くに亡くしたティファニーとクリスの姉弟にとって父の帰りは待ち遠しいものだった。しっかりした家令のおかげで生活には困らないものの、父のいない寂しさは消せなかった。
なんでもその占い師は、新市街地に住む謎の貴婦人で、精霊の声を聞くことができるという。ティファニーにその占い師のことを教えた友人は、彼女はきっとさる高貴な貴族の私生児だろうと言っていた。
貴族と精霊は対の存在で、貴族の子が生まれるときに、その子の精霊もまたこの世に生まれる。
しかし一生のうちに自身の精霊と出会う貴族は少なく、そうした貴族は『精霊もち』と呼ばれて重用されている。
その占い師が精霊の声を聞けるというのなら、彼女が貴族の血を引いている可能性は高い。
そうこう考えているうちに、馬車は貴族の邸宅の集まるエクラン地区を抜け、富裕な平民の住む新市街地に入っていた。
しばらく行くと、友人に聞いたとおりのこじんまりとした、しかし趣味よく手の行き届いた屋敷が見えてきた。
門の前まで来たところで、ティファニーは自分が突然押しかけてきてしまったことに気がついた。召使を先にやって会う約束をとりつけたり、友人に紹介してもらったりせずに訪ねるのは失礼にあたる。
出直そうかと考えていると、「お嬢さま」と外から御者の声がした。何事かと窓から外を見ると、屋敷の使用人によって門が開けられ、中に招きいれられた。
馬車は屋敷の玄関のポーチに進み、馬車を降りたティファニーを「お待ちしておりました」と執事が迎えた。
他の誰かと間違えているのかと説明しようとしたが、わかっているといった目で押しとどめられ、大人しく応接間に案内された。
椅子に座って待っていると、すぐに屋敷の主がやってきた。