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それぞれの思惑(3)

部屋に入ってすぐのところで王弟はティファニーに出迎えられた。それ以上奥に進ませまいとする態度にすぐ気がついたが、無理もないかと思いなおす。

今の若いものはあまり気にしないようだが、年寄りの中には、男女が一つの部屋にいることを道徳に反しているというものもいる。ましてやこの状況だ。彼女はいまやオーガストの手のうちにある。ここでどんなことがあろうとも、彼女は助けを求めることなどできない。


「ご機嫌いかがかな、ティファニー」

「‥‥。お気遣い感謝いたします、殿下」

監禁されて機嫌がいいというのも変なので、当たり障りのないことを答えた。ベッドにいた男は寝室に残してきた。ティファニーに与えられた部屋はこの応接間と隣の寝室の二部屋。あまり奥には通したくないので、入り口近くで王弟を迎えた。椅子もすすめない。「早く出て行って」というやんわりとした意思表示だ。

王弟は一人だった。てっきりあの嫌な女も一緒だと思ったが、彼が入ってすぐに扉は再び閉ざされた。

つまり、部屋に二人きり。

若い男女が密室にいるということは、何かがあったと思われても仕方がない。もしそんな噂がたったら、社交界のデビューしたとしてもいい縁は望めない。『王弟のお手つき』を喜ぶような、彼らとのつながりを持ちたいと思っているような貴族もいるかもしれないが、そんな男とは結婚したくない。

ティファニーの理想は、父ウルグ・ガーラントのような男性だ。父はもともと、遥か南から流れてきた庸兵だった。名門貴族の娘である母と出会い、周囲の反対を押し切って結婚した。それまで各地を流れていた彼は生き方を変え、この王都に定住した。そして王の御前試合で優勝し、騎士ナイトの称号(一代限りの爵位なので、ティファニーたちは母の爵位を相続した)を得て、母の親族にも受け入れられるようになったのだ。

自分の生き方を変えて妻と子を大切にする父のような男性と結婚したいと、その話を聞いたときから思っていた。しかし自分は母のような衝動的な生き方はできないと思った。父に心配をかけたくない。きっと、爵位は低くても優しい人と社交界で出会い、穏やかな家庭を築くのだろう。

ふっ、と鳶色の視線を感じた気がした。

「女性の部屋を訪れる無礼を許してほしい。そなたと二人で話がしたかったのだ」

王弟の言葉に、ティファニーの意識は目の前の男に移った。

「クレイティアが失礼な態度をとってすまなかったな」

「いえ、とんでもございません」

王弟が頭を下げたことに驚いて、ティファニーは慌てて胸の前で両手を振った。その手を、大きな手が包んだ。

「ガーラント家に彼がいることは知っている。しかし分かってほしいのだ、ティファニー。我々は幼い頃から彼とともにいる。衝動的に飛び出していった彼がどうしているのか、心配なのだ」

隣の部屋にいます、とは言えないのでティファニーは引きった笑顔を浮べてさりげなく手を引き抜いた。

ティファニーは想像力を働かせてみた。甚大な力を持った美貌の精霊使いと、彼に目をかけている精霊局の局長、そして彼のことが好きな美女。なんてロマンチッな世界だろう。しかしこれだけ憧れる要素が詰まっているというのに、どうも話の流れはまるで保護者同士の話し合いのようだ。

「無理もないことと存じます、殿下」

(鳶さんのあの性格じゃあね)

世間知らずで、口よりも先に行動で自分の意志を押し通す。人を惑わす美貌をもつ、強力な精霊使い。そんな危険人物を野放しにすることと、多少本人の意志を無視していたとしても、権力で彼を保護すること。どちらがいいのか、ティファニーには分からなくなってきた。

「しかし、ご心配にはおよびません。彼は少し人見知りが激しいようですが、最近は弟とも話をするようになりました」

「彼は言葉が話せるのか!」

(‥‥‥‥)

気まずい沈黙が二人の間に降りた。

幼い頃から一緒にいるはずのオーガストがそんなことも知らないとはどういうことだろうか。一体彼らはどうやって一緒に過ごしていたのだろうか。ティファニーの心の天秤が再び傾いたが、あとは本人の問題だと思いなおした。

「彼がどうするのかは、わたしに決められることではありません。ただ、殿下が彼と話がしたいと仰るなら、わたしも協力することができます」

「十分だ」

オーガストは満足そうに頷いた。

「それで、ティファニー。我々は仲直りできたかな?」

いたずらっぽく笑うオーガストに、ティファニーも笑い返した。ずっと年上だというのに、ちゃめっ気があって時々少年のように見える。ティファニーはすっかり緊張を解き、ほっと気を抜いていしまっていた。

「そう思います。今回はいい経験ができたと思うことにします。この塔には一度来てみたいと思っていたんです」

ティファニーが言った途端、オーガストの表情が一変した。

「どうしてここが塔だと分かった?」

ティファニーは、はっと息を呑んだ。

「ここに連れてくるときは、場所が特定できないようなルートで来たはずだ。窓のないこの部屋で、どうしてここが塔だと分かったのだ?」

その厳しい表情と詰問に、ティファニーは思わず一歩下がろうとした。その手首を、王弟が強く掴む。

「きゃっ!」

思わず小さく叫んだ途端、彼の身体が一気に後ろに吹き飛ばされた。壁に叩きつけられたオーガストは、膝をついて愕然とした表情でティファニーを見上げた。

「お前、精霊もちか!」

ティファニーも同じような顔でオーガストを見詰め返した。何が起こったのか頭がついていかず、違うと叫ぼうとしたが声が出てこなかった。

ふと、王弟の視線が少し逸れ、ティファニーの肩越しに何かを見た。その目がさらに見開かれるのを見てティファニーは振り返ろうとしたが、背後から肩を掴まれて動きを止められる。

「ティファニー」

その声に、眩暈がした。

(最悪)

どうやって彼がここに来れたのか、言い訳など思いつくはずもない。

気絶できるものならしたい。


本気で。



挿絵(By みてみん)

鳶さん

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