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そうは言ってもいられない(4)

今から500年前、まだ世界が混沌としていた時代。海は波打ち、風は吹き荒れ、大地は起伏を繰り返してた。

荒々しい自然は、すなわち精霊の姿だった。

不安定で激しく、定まらない。

そんなとき、当時の王弟フェイビアンはこの世の始まりから存在するといわれている特別な精霊の一柱を封印し、自然を治めた。そしてその封印の地の上に精霊局を建設し、代々の王弟がその局長を務めることを決めた。

封印された精霊は、彼の血に連なる者以外の支配を受けなかった。

時が下りフェイビアンの功績がすでに伝説のものになったあるとき、貴族たちによるクーデターが起こった。一時その王朝が途絶えた。するとひどい自然災害が各地を襲った。人々は封印の精霊の怒りを恐れた。結局政権はすぐにもとの王朝に戻り、奇妙な災害もおさまった。

その精霊は今も精霊局の下で眠り、王族に加護を与えているという。



現代の王弟オーガストは「この女です」と紹介された少女を見たとき、彼女に同情した。彼女もまた、自分の探している男に魅了された者の一人なのだ、と。

しなやかでかわいらしい少女だ。あのリチャード・ハサウェイが大切にするのもわかる。

しかしこの少女も普通の娘。あのエロースそのものといえる青年を目の前にして惹かれないわけがない。きっと自宅であれを“飾って”いるのだろう。

しかし誰も、それを責められはしない。あの青年を愛する感情は、人間として原始的に備わっているものなのだ。この精霊局の局長たる自分にしても、破滅するとわかっていて手を伸ばしたく気持ちが湧き上がってくる。それをしないでいられるのは、ただ自分を見失わないでいるからだ。きっとあれは、あれを求めるものが破滅しても、我関せずという顔をしているのだろう。それは彼が悪いからではない。

“あの存在はすべて真である”

彼がすること、思うこと、それはすべて正しい。それは人間の理屈ではなく、彼そのものがこの世の真理だからだ。オーガストは敬虔にも似た気持ちで、そう信じている。

ティファニーはあの青年のことをどれだけ理解しているのだろうか。いや、理解するはずがない。彼はこの世のすべてを拒絶している。彼は見ない。聞かない。話さない。そんな相手の何を理解できるだろう。彼をかくまい隠すことで自分のものに出来ると思ったら大間違いだ。あれは火薬玉みたいなもの。ささいなきっかけで簡単に爆発し、彼女だけでなく王都全体が危険にさらされるだろう。

この少女のところに自分の探している青年がいることはわかっている。今は彼を刺激しないように精霊を使って遠くから呼びかけることしかできない。少女が屋敷から出てきたのはチャンスだった。ガーラント邸に張っていた者の知らせを受けて、やっとクレイティアがティファニーを捕まえることが出来たのだ。

真実に気づかれることなく彼を諦めるように話を進めていくと、小さな少女は予想外の反抗を見せた。

「わたしが彼を自立させてみせるわ!!」

一瞬自分の耳が信じられずに、まじまじと彼女を見た。彼女の目は真剣で、冗談を言っているようには見えなかった。

この細い金色の髪に覆われた小さな頭の中で、どんな話が出来上がっているのか全く理解できない。

クレイティアを見ると、彼女も意味がわからないという表情でティファニーを見ていた。



叫んだ直後にはもうティファニーは後悔していた。馬鹿なことを言ってしまった。そこまであの青年に肩入れする気はなかったのに。二人の言い様に、とび色の髪の男がいったいどんなことを仕出かしかのかと不安になったが、嫌味な女はともかくとして、親切に庇ってくれようとする王弟殿下に彼が自宅にいることを言わなければと思っていた。王弟までもが出てきてしまうならば、もう自分の手に負える問題ではない。しかし言葉は喉元まで出てきているのに、肝心なところですがるようなとび色の瞳を思い出してしまう。

(なにか、彼を裏切らずに、わたしが道を踏み外さないで済む方法はないかしら)

そう思っていたときに青年に対するクレイティアの言葉を聞き、頭に血が上った。衝動のままに言葉を口にしていったら、彼を自立させるなどという思わぬところに行き着いてしまった。

(しかも、これじゃあ鳶さんがうちにいるって言っているようなものじゃない!)

冷や汗をだらだらと流しながら、目の前の二人がそのことに気づかないように祈った。

「自立?」

「そうよ、今の彼は確かに働かないし、常識を知らないかもしれない。でも本人にその気がないわけじゃないと思うのよ。だって、あの人はこの一週間で‥‥」

人の話を聞いて、自分の思っていることも伝えるようになった。

そう続けようとしたティファニーの言葉を、クレイティアが遮った。

「まったく困ってしまうわね、物事の見えていない子って。せっかく穏便に済ませてあげようとしているのに」

その声は凪いだ水面のように静かで、同時に不穏な響きを帯びていた。クレイティアがオーガストにちらりと視線を向けた。オーガストがその意を受けて軽く頷く。そして王弟の許可をもらったクレイティアは、ティファニーに向き直った。

「精霊局局長の名において、ティファニー・ガーラント、あなたを拘束します。罪状は‥‥そうね、後で考えるわ」




ティファニーと二人の温度差がはっきりしてきました。

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