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発展する隷属

 マゼラス・ビーチ・ピート。彼は、類稀なる劣等感の人だった。

 そのあまりにオドオドとした態度は見苦しく、その所為で、誰も彼もが彼の事を避けていた。

 彼は、自分はどんな人間より劣っていると頑なに信じ、どんな人間に対しても一歩引いた接し方をした。それは、つまりは人を信用せずに、他人を避けるという事とも同義であったから、周りの人間が彼を相手にしないのは当たり前の事で、また、それは、彼自身が望んでいた事でもあった。

 最低限の人との関わりで何とか生計を立て、誰とも接しない空間でだけ気を楽にし、周囲の目をできるだけ自分の世界から排除して、生活をしていた。

 一方、サーテマン・ボノベス。彼は、類稀なる優越感の人だった。

 そのあまりに横柄な態度は、人を著しく不快にさせ、その所為で、誰も彼もが彼の事を避けていた。

 彼は、自分はどんな人間よりも優れていると頑なに信じていた。劣った材料があると、たちまちの内に激昂し、そして、そんな材料に、都合の良いように言い訳をして、劣った材料を無自覚なままに無視して暮らした。

 彼は、常に周囲の目を気にしていた。

 誰にでも威張っていたがり、周りから尊敬されたいと欲しているのだから、それも当たり前の事で、その根底の根底には、他人に対する支配欲求があった。

 だから、彼は常に他人と接していようとし、そしてそれは威圧的な態度で現われる場合がほとんどだった。

 そして、ある日の事だった。

 そんな二人が出会ってしまった。

 類稀なる劣等感の人、マゼラス・ビーチ・ピート。類稀なる優越感の人、サーテマン・ボノベス。

 この二人は、お互いがお互いを知る事となってしまったのだ。

 この二人を知る周囲の人間達は、この二人の出会いを幸運なモノだと考えた。

 優越感をあまりに誇示されれば、普通の人間であれば誰でも不快な思いをするだろうが、マゼラス・ビーチ・ピートならばそれを当然な事と受け入れるだろうし、劣等感をあまりに露出されれば、普通の人間であれば居心地の悪さを感じてしまうだろうが、サーテマン・ボノベスであれば、それをとても嬉しい事だと感じるだろうからだ。

 大方の予想通り、この二人はとても相性が良かったようだった。出会ってからしばらくの間は、しょっちゅう一緒にいる姿が目撃をされた。

 やはり、サーテマンは、マゼラスに対して、とても威圧的に支配的な態度で接していたが、周囲の人間達は、それを不快に思いつつも、咎めようとはしなかった。

 本人達がそれで良いのであれば、他人にどうこう言える問題ではない。

 うまくやっているのを、破壊してしまう。

 放っておくのが一番なのだ。

 ところが、それからこの二人に異変が起こった。

 二人で一緒にいる姿など、ほとんど見られなくなってしまったのだ。

 それは、どうやら、マゼラスがサーテマンの事を避けている為であるらしかった。

 周囲の人間達は不思議がり、それがどうしてなのか理解できなかった。或いは、マゼラスであってすらも、サーテマンの優越感を不快に感じたのかとも考えたが、そうではなく、その原因は実に簡単な事であった。

 マゼラスが、人に対して一歩引いた態度で接するのは、自分を護っていようとするからで、つまり、それは人と接していたがらないという性質の表れで、果敢に自分に対して関わってこようとする人間の存在は、彼にとっては疎ましかったのだ。

 だから、サーテマンを避けたのである。

 マゼラスは、優越感をもって接してこようとする人間の存在を嫌ったのではなく、人間自体を嫌っているのだ。

 これで、この二人の関係は終るかに思えた。

 しかし、ここでまたこの二人の間に異変が起こった。

 時々ではあるが、再び、二人が一緒にいる姿が目撃されるようになったのだ。

 これを、やはり周囲の人間達は不思議がったのだが、どうやら、今度はサーテマンの方に原因があったらしい。

 これほどまでに、自分を受け入れてくれる人間の存在を、サーテマンはこれまでの人生の中で経験した事はなかった。

 彼は、マゼラスと一緒に居る事を、楽しい事だと、自分にとって必要な事だと学習してしまっていたのだ。

 だから、サーテマンは何とかマゼラスに会おうと必死になった。そして、一緒にいる為の方法を模索した。

 そして、頻繁にではなく、時々であるのならば、マゼラスは会ってくれるという事を発見したのだ。

 適度な関わりであれば、マゼラスもそれに耐えられる。

 そして、それからの、二人のお互いに対する態度は、微妙に変化していった。

 サーテマンにとって、マゼラスは支配する対象なのではなく、支配されてくれる対象に変異し、マゼラスから見るのなら、サーテマンは自分を必要としている存在であり、つまりは、自分よりも下位な位置付けの存在となったからである。

 サーテマンは、やはり支配的な態度でマゼラスに対して臨んだが、その裏には脅えと甘えが同時にあり、マゼラスは、それを諾々として受け止めたが、その裏には優越者の安心感と満足感があった。

 二人の事を知る周囲の人間達は、その様子を奇妙な目で見つめていた。

 マゼラス・ビーチ・ピート。

 サーテマン・ボノベス。

 個人と二人。

 ………。

 そして、事象は、さらに発展をした。


 マゼラスは、確かにサーテマンの優越感を受け止めていはしたが、彼には、何も受動的な性質ばかりが存在するのではなく、むしろそういった性質とはかけ離れた攻撃性を強く内包していた。

 つまり、マゾヒズム的な傾向は彼の中にはなかったのだ。

 だから、マゼラスは、サーテマンの支配欲求を受け止め続けるのに適した性質を持っているとは言い難かった。

 彼が優越感を受け止めていられたのは、一重に、その劣等感故であり、それは単に防衛機構の一端に過ぎなかった。

 だから。

 マゼラスの態度は、段々と変容していった。

 サーテマンに対して安心してしまっている彼には、最早、防衛する理由がなくなったからだ。或いは、内包された攻撃性、劣等感故に自分に向かって発揮されていたそれが、優越な立場になる事によって、初めて外面に向かったのかもしれない。

 サーテマンには、その強固な優越感を護る為の弱さがあり、ある意味で依存の対象になってしまったマゼラスの、その変容をどうする事もできなかった。

 マゼラスは、時として、見下ろすようにサーテマンに対して接するようになった。

 存在の大きくなり過ぎたマゼラスという人間に、優越感を受け止めてくれるという目的は崩れ去り、ただ一緒に居て欲しいという欲求を、機能的に、サーテマンは胸に抱くようになっていたのだ。

 自分の内面の動きを、無自覚なままに済ましてきたサーテマンには、その本末転倒に気付く能力はない。

 だから。

 やがて、その状態で、二人の関係は安定をし。

 支配をするという欲求を胸に抱くサーテマン・ボノベスは、それ故に、支配されるという位置に落ちつき、支配されるという事に対し、何の抵抗感も持たないマゼラス・ビーチ・ピートは、その劣等感故に、支配するという立場に落ちついてしまった。


 人々は、その現象を或いは奇異に見つめ、或いは身近に感じ、そしてそれから、己を見て、他人を見た。

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