卒業式は残酷な味
桜が舞い散る春。
クラスメイト30人が、教室にそろっていた。
いよいよ卒業だ。
窓から差し込む光が、僕らをやさしく包んでいた。
黒板には、チョークで人気マンガのキャラクターが描かれていた。
背中を向けて、右手を高く突き出している。
みんなの思い出が詰まった写真も飾られていた。
「ついにこの時が来たね」
前の席のトオルが声をかけてきた。
「さみしくなるね…」
隣の席のルナが涙ぐんでいる。
僕はこれまでの中学生活に思いを馳せていた。
あっという間の3年間だった。だけど充実していた。
教室のドアがゆっくりと開かれる。
担任のサカモトだ。
おごそかな表情を見せながら、教壇に向かう。
「この3年間、本当にたいへんだったと思う。
それも今日でおしまい。
みなさんは、大海原に漕ぎ出すことになります。
それは私にとっても、誇るべきことです。
あなたたちの担任になれてよかった。心からそう思います」
教室からはすすり泣きが聞こえる。
サカモトは、生徒からの人気が高かった。
生徒たちからの相談にいくらでも乗ってくれて、僕も何度も励まされた。
「みんな、準備はできているかしら?」
生徒全員がコクリとうなずく。
ピンと空気が張り詰めていた。
出席番号順に名前が呼ばれて、サカモトが生徒たちに卒業証書を渡していく。
トオルもルナもうれしそうな笑顔を見せていた。
僕の番になった。
「あなたは周りに気を配れるとてもやさしい子でした…」
卒業証書を受け取ると、そこには「非エリート」の文字があった。
覚悟はしていた。
だが実際に目にするとショックだった。
中学生のうちにエリートと非エリートに選別するようになってから、20年がたった。
この社会に貢献する人物かどうか、「未来知能指数」で決定されるのだ。
すべてはAIによって、「未来知能指数」が計測される。
そして卒業式で発表されるわけだ。
僕らにとって審判の日だ。
非エリートになったら、どうなるかって?
仕事をする権利はない。
わずかな給付金で、毎日を過ごしていくのだ。
社会的な存在意義はなくなる。
AIがエリートを選び、豊かな社会を作り上げていくのだ。
非エリートはいらない。
だが、中学生活で、なにを努力すればいいのかはわからない。
どういったスキルを伸ばせばいいかがわからない。
未来知能指数はどうすれば上がるのか、その中身はブラックボックスだ。
ましてや先天的に決まっている要素のほうが大きいという説もある。
昔は受験勉強なんてシステムがあったらしい。
一生懸命、勉強をしていい点をとれば、いい学校に行けて、いい会社に入れる。
僕も、その時代に生まれたかった…。