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ダルキアの騎士

「来たか」


 屋敷中央のホールに腰を据えていた盗賊騎士の首領アダルベルトが相棒の大剣を手に立ち上がる。


 騎士たちが次々に悲鳴を上げ、だんだんと敵が近づいてくるのがわかる。さっきまで敵の猛攻をしのいでいた部下たちが敗れているさまから敵は相当の手練れを投入してきたに違いない。


 大きな両扉に魔術陣が展開され、爆発四散する。


「あんたが、盗賊団の親玉ね」


 ルピアがアダルベルトに戦輪を向ける。


「ああ、いかにも。俺の名はアダルベルト・サルダール。ダルキアの騎士だ」


 落ち着いた様子のアダルベルトが名乗る。


「へえ、まだ騎士のつもりなのね。あたしはクラディウス家、家臣、ルピア」

「同じくヘレナだよっ」

「リウィア」


 ルピアたちも名乗る。


「まさか女にガキだけか」

「私たちが人間の言う女かはわからないけど、私たちだけよ」

「妙な物言いだな。まるで自分が人間ではないとでも言っているようだ」

「ルピアさん……」


 リウィアが呆れた目でルピアを見る。


 彼女たちがマギアマキナであることは機密事項だ。


「あっ、ど、どうだろうな~私はただの女の子だけど」


 ルピアは頬をかいて、適当にごまかす。


「ふざけたやつらだ。本当にお前らだけでここまで来たのか」

「疑ってんの? いくらあたしがかわいいからって、ちょっとムカつく。あんたこそ、少しはやれるんでしょうね。戦場から逃げ出した腰抜け騎士さん」

「小娘が、あの戦場を知りもしないで……」


 アダルベルトは怒りを必死に抑える。冷静さを失えば、戦場では命取りになることをこの男はよく知っている。


「クラディウス家といったな。まだこれだけの戦力を残しているとは思わなかった。大将は誰だ。まさかあの宵闇の姫君が外に出てきたわけでもあるまい」

「ものしり~。そんなに会いたければ、ぶっ倒した後で、いくらでも会わせてあげる」


 ルピアはウィンクしてアダルベルト挑発する。


「面白い。俺も気が変わった。お前らを殺して大将首だけでも取りに行かせてもらう」

「一応聞くけど、降伏するつもりはない?」

「問答無用」


 アダルベルトは足元に身体能力強化の魔術(マギア)を展開しつつ、


(まずは面倒な魔導士から叩く)


 とリウィアに狙いを定めて斬りこむ。


「させないよ」


 ヘレナが飛び出して応戦するが、


「軽いっ」


 とアダルベルトの大剣を受けきれずに、


「わああ」


 と吹き飛ばされるが、


「やるねっ」


 と壁を蹴って回転しながら、アダルベルトに斬りかかる。


 アダルベルトも超人的なスピードで斬り返す。ヘレアは跳ね返されれば、また反転して斬りかかる。マギアマキナに疲労はない。エネルギーが切れる限界ぎりぎりまで最高のパフォーマンスで戦い続けられる。


「ちょこまかと、化け物め」


 人間であるアダルベルトがいくら猛者とはいえ、持久戦に持ち込まれれば、勝ち目がない。が、技術の面では一枚上手だった。


「そこ!」


 ヘレナの攻撃パターンを見破り、鎧の一部に魔力を集中して防御障壁を張り、包丁の合間を縫って、腕を突き出し、ヘレナの細い首をつかんだ。


「うう」


 ヘレナはうめく。マギアマキナに呼吸は必要ないが、ある程度の痛みは感じる。


「ちっ、なんて頑丈さだ」


 アダルベルトは強化した身体能力を最大限に引き出して、ヘレナを投げる。


 ヘレナは受け身が取れず、打ち付けられて、崩れてきた壁に埋もれてしまう。


「ヘレナ!」


 ルピアは思わず叫ぶ。


 これまで一切苦戦していなかったヘレナがやられてしまった。マギアマキナが人間相手に力負けした。


「戦場でよそ見はするな!」


 アダルベルトがルピアに向かって大剣を振り下ろす。彼は敵一人を倒して余韻に浸るようなことはない。冷徹に次の敵に向かう。


「ぐっ……」


 寸でのところで二つの戦輪で大剣を受け止める。


(油断した。ヘレナに気を取られた。あれぐらいでやられるはずないのに)


 マギアマキナにとって体はただの器だ。いくら体が損傷しようとも心臓部であるコア機械の心臓(マキナ・コア)さえ無事ならば、何度でもよみがえる。それを一瞬忘れてしまうほどにルピアは敗北に衝撃を受けた。


「強化の魔術(マギア)を使った俺の全力を馬鹿みたいな武器で止めるとは恐ろしいやつだ。だが」


 アダルベルトが押し込む大剣に魔術陣が浮かび上がる。


「剣よ。炎を纏え」


 大剣から魔力が炎となってあふれ出す。


「熱っ」


 マギアマキナであるルピアでもその熱量に耐えられない。


(これが実戦……炎が激しくてうまく魔力を扱えない)


 ルピアの体は炎に溶かされていく。


「ルピアさん、避けてください!」


 いくつもの魔術陣を展開したリウィアが叫ぶ声に合わせて、ルチアは大剣をなんとか受け流し、左側面に転がる。


 魔術陣から無数の魔弾が発射され、アダルベルトを襲う。


「炎よ!」


 アダルベルトも剣にまとわせた炎を斬撃に乗せて飛ばす。飛翔する炎の斬撃は魔弾を燃やし、


「きゃあ」


 リウィアに直撃する。魔力で障壁を作り出し、威力は抑えたがそれでもダメージは大きい。


 一方のアダルベルトも咄嗟のことに魔弾をすべては御しきれず被弾した。


「身体強化の魔術(マギア)ではなく、攻撃してくるとはな。無茶をする。そのせいでお仲間は限界だぞ」

「ルピアさん!」

「はあ、はあ」


 ルピアは右腕を失っていた。無理やり大剣から逃れようとしたために、アダルベルトに持っていかれてしまったのだ。体も炎によって焼けただれてしまっている。


 さすがのマギアマキナでも、ここまで損傷がひどいと戦闘継続に支障が出る。


「叫びもしないし、血も出ていない。見た目からは想像もできない俊敏さに馬鹿力。魔力をでたらめにぶち込んだ攻撃。異常な奴らだ」


 アダルベルトはルピアたちを見る。


 異質だった。これまで戦ってきたどんな敵よりも強く得体が知れない。底が見えない。これまでの常識からくる先入観を捨て、本能を研ぎ澄まし、戦場で得た勘を頼りにしなければ、死んでいただろう。


 ルピアの斬り飛ばされた右腕からはコードや機械のようなものが見え、半透明の液体は流れ出ているが、血は出ていない。


「なるほど、だから身体強化の魔術(マギア)が使えなかった。どうやら本当に人間じゃないみたいだな」


 アダルベルトは口から血を吐き出しぬぐう。


「異民族相手の戦いには慣れているが、相手は化け物。まさかダルキアにも化け物が紛れ込んでいるとは思わなかった。クラディウス家はとんでもないものを飼っているな」


 アダルベルトは一瞬、命の奪い合いの場にふさわしくない笑みを浮かべたように見えた。


 なお盛んな炎を纏う大剣を構え直し、リウィアにとどめを刺そうとする。


 リウィアは応戦するために魔術陣を起動しようとするが、損傷が激しく、うまく魔力をコントロールできない。


「こっちを見なさい。まだやられちゃいないわ」


 ルピアは戦輪をアダルベルトに投げつける。戦輪はアダルベルトの頬を裂いた。致命傷ではないが、視線は向いた。


 アダルベルトの視線を釘づけにするようにルピアは妖艶に舞い踊る。右腕を失いながらもその踊りは見る者を魅了する。一度魅入られたが最後、体は硬直し動けなくなってしまう。


「幻惑の術か。そんなもの」


 アダルベルトは短剣を抜き、自分の太ももに刺した。


「痛みで幻術をかき消すなんて」

「あいにく異民族相手にその手の術は何度も食らっている。ここまで強力なのは初めてだが」


 短剣を引き抜き、剣を振るって、炎の斬撃を飛ばす。


「きゃああ」


 ルピアは避けきれずに炎に吹き飛ばされる。


(これが戦場で戦ってきた本物の騎士)


 ルピアの視界はぼやけている。


 ダルキア属州の騎士は野蛮で勇猛であると帝国では知られている。アダルベルトはまさにその典型のような男だ。勇猛さは言うまでもない。様々な異民族と戦ううちに鍛えられたどんな相手にも臨機応変に戦う。どこまでも泥臭く勝ちに貪欲。そんな戦闘法を、戦いを知らない帝国中央の騎士は、野蛮と揶揄するのだろう。


(悔しい。パパやママに顔向けできないよ)


 ルピアは泣き叫びたい気分だった。


 ゴーレムを超え、人間を超える新しい存在として生み出されたマギアマキナ。それもバテルが軍団長クラスとして作った高性能機であるはずの自分たちが、たった一人の人間相手に翻弄されている。


 この戦いの敗北は、自分だけではない。バテルの敗北にもなってしまう。


「これで終わりだ」


 アダルベルトは炎を纏った大剣を大上段にあげた、その瞬間、


「させない」


 と何かが、目にも止まらぬ速さで、飛んできて、アダルベルトを突き飛ばした。


「ぐうううううう」


 アダルベルトは大剣を床に突き刺して、勢いを殺し、持ちこたえるが、ダメージは大きい。衝撃波が体の中を駆け巡り、ぐちゃぐちゃにかき回されたようだ。


「ママ」


 ルピアは声を震わせる。


 助けに来たのはイオだ。


「くく、まだこんな化け物が残っていたとは。それに総大将もお出ましか」


 もう一人、全身鎧の少年が歩いてくる。


「よくやった。ルピア、リウィア、ヘレナ。あとは俺たちに任せろ」


 バテルは錬成陣を展開し、がれきから剣を作り出した。

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