新たなる仲間たち
「も、申し遅れました。わ、私はリウィア。お父様に作られたマギアマキナです」
ようやく服を着た少女、リウィアはシンセンとイオに一礼する。
「だから言ったでしょう。誤解だって」
「この娘が、まことに錬金術で生み出されたゴーレムだというのか? にわかには信じがたい。本当に人間ではない? 賢者の石を使って作ったホムンクルス? いや、それはいくらバテルとて不可能。さりとてゴーレムにも見えぬ。だが、どうみても生物、魂ある人間にしか見えぬ」
驚愕したシンセンは、リウィアの柔らかな頬を引っ張たり押し込んだりする。
「|わらひはまいあまいなでふよ《私はマギアマキナですよ》」
無機質なゴーレムとは違い、その肌はやわらかく張りもあって、みずみずしい。
「リウィアは基本的にはゴーレムと変わりありません。ただ今までのゴーレムよりも複雑で精巧。ほとんど我々、人と同じような構造です。この新しい、ゴーレムを超えたゴーレムを俺はマギアマキナと名づけました」
マギアマキナ。全く新しいゴーレム。
その性能も複雑さもバテルが今まで作ってきたゴーレムとは一線を画する。作った張本人であるバテルでさえ、その性能と可能性を測りかねているほどだ。
「つまり、バテル様をお父様と呼んでいたのは……」
「はい。私をお作りくださったお父さまだから私のお父さまです」
「そもそも、本当に俺の子供だとしたらつじつまが合わないだろう」
「うう、ごめんなさい。バテル様」
つい気が動転して、シンセンとともに、バテルを締め上げてしまったイオだが、冷静に考えれば、バテルに子供しかもリウィアほど大きな子など現実的にありえない。しかし、イオがそう思うのも無理はない。リウィアはあまりに精巧すぎる。いまだに、リウィアが人間ではないと思えない。
「これを見てくれればわかる。リウィア、頼む」
「はい。お父様」
リウィアは服を下げて、胸元をさらけ出す。ゆっくりと胸元が扉のように開き、その内部機構があらわになる。あまりに人と変わらないように見えるが意見とは裏腹にその中身は機械そのものだ。
その奥からゆっくりと機械の心臓が顔を出す。
「これは、俺が魔結晶を加工して作ったリウィアの核、機械の心臓。まあ、人工の心臓兼脳みそ兼魂みたいなもんです」
「ほほう、エーテル無しで自我を持った存在を作り出す人工の魂か」
シンセンは、知の探究者としての血が騒ぐのか嘗め回すように、リウィアの核を見入る。
「でも、待ってください。確か魔力反応はもっとあったはずです」
「もしや、リウィアのようなマギアマキナ? が他にもおるのか?」
「はい。リウィア一人だけではとても足りませんから」
バテルは三人を連れて、さらに部屋の奥へと進んでいく。
「……ごめんなさい。先ほどはお見苦しいところを」
核をしまいこんだリウィアがぺこりと頭を下げる。
「そんな、謝らないでください。私たちもさっきは取り乱してしまってごめんなさい」
「お、おやめください。お母さま。私に、敬語など」
「お母さま? 私が?」
慌てた様子のリウィアに、イオは首をかしげる。
「バテル、おぬし、あの子になにを吹き込みおった?」
「お、俺は別に何も」
「いえ、お父さまはおっしゃっていました。私たちは偉大なる錬金術師であるお父さまや勇敢な戦士であるお母さま、そして厳しい修行と小言ばかりのお師匠さまをモデルに作られていると」
バテルは獣人であるイオや鬼人であるシンセンを参考に、リウィアたちマギアマキナの肉体を作り上げた。イオやシンセンの精巧な人形はその証拠だ。
結果、リウィアたちの魔力反応は人間とも獣人とも鬼人とも見分けがつかない特殊なものになった。イオが魔力探知したときの違和感はこのためである。
「イオやシンセンのことを話したら勝手に母親だなんだということになってしまって……」
「厳しい修行と小言ばかりの師匠じゃと?」
眉間にしわを寄せたシンセンがギロリとバテルをにらむ。
「いやだな。軽いジョークですよ。リウィア。お前はいったい誰の味方なんだ……」
「? 私はお父さまやお母さまの味方ですよ」
リウィアは、まだ悪意を知らぬ純真な瞳で、バテルを見つめる。彼女としてはバテルから聞いた話をもとにそう結論づけたにすぎない。
「お母さま。お母さまかぁ。バテル様がお父さまで、私がお母さま。リウィアちゃんは私たちの大切な子供……」
「くすぐったいです。お母さま」
夢見心地のイオはうわごとをつぶやきながら、リウィアの頭をなでる。
「のう。リウィアよ。バテルがお父さまで、イオがお母さまなら、わしはなんじゃ? わしもモデルになっているのじゃろう。ならばわしの子供でもあろう?」
この子供好きの老人は、リウィアに好かれたくて、自分が何と呼ばれるかをとにかく気になる。
「うーん。お父さまとお母さまのお師匠さまですから、おばあさまでしょうか?」
「お、おば。……そうか。わしはおばあさまか。いや、孫というのも悪くはないか」
シンセンはリウィアの頬をもちもちとこねる。
もはやシンセンは可愛がることができれば、なんでもいい。むしろおばあさまなら堂々と甘やかせる。
「師匠。その辺にしてください。まだ紹介しないといけないマギアマキナたちが、いるんですから」
リウィアを見ただけで、あれほどの騒ぎだ。バテルは他のマギアマキナたちを見せるのが不安になってきた。
「私とバテル様の子供がもっとたくさん……」
「イオ。ずいぶんとだらしない顔になっているぞ」
「い、いえ、そんなことは」
浮ついていたイオは緩んだ顔をさらに赤らめる。
「ついた」
「これはお初にお目にかかります。イオ様にシンセン様でよろしいでしょうか?」
イオとシンセンを青年が迎える。
黒い髪に黒い目。線が細く、肌は青白い。少し影のある美男子だ。リウィア同様ゆったりとした白い服に身を包んでいる。
「あなたもマギアマキナ?」
「はい、バテル様にベリサリウスと名づけていただきました」
「ほう、男性型のマギアマキナも作っておったか。てっきりバテルのことじゃ女性型ばかりと思っておったが」
「俺のことをなんだと思っているんですか。マギアマキナはいわば神秘のゴーレム。どんな子供が生まれてくるかわからないようにどんなマギアマキナが生まれてくるのかもすべては奇跡の産物です」
「ほう、リウィアやベリサリウスは完全に設計して作ったわけではないのか。それもほぼ人の子と同じではないか」
「だけど、その性能は折り紙つきですよ。今までのゴーレム技術の集大成ですから。リウィアは魔法の扱いがうまいし、ベリサリウスは指揮能力に才能がある」
「えへへ」
「恐れ入ります」
リウィアは照れながら、ベリサリウスは眉一つ動かさずに一礼する。
「あらあら、ベリサリウスももっと素直に喜べばよろしいのに。ねえ、お父様」
ゆらりとバテルの背後から現れた美女がバテルにゆったりとした白い服の上からでもわかる豊満な体を押しつけるように手を絡ませる。
新緑の髪を縦ロールにまとめた髪型。吸い込まれてしまいそうになる魅惑の瞳は、エメラルド色に輝いている。貴族のような気品にあふれながら、どこか妖しげな雰囲気を纏う魅惑的な美女だ。
「バテル様。この女は?」
イオはバテルに抱きついてきた女を射殺すような視線でにらみつけ、拳を構える。
「怒らないでくださいませ。お母様。わたくしはクレウサ。マギアマキナ、お父様の娘ですわ」
「娘には見えないけど」
「あら、マギアマキナはリウィアのように幼い見た目で生まれることもあれば、ベリサリウスやわたくしのように少し大人びて生まれるものもいましてよ」
「そ、そうだ。何をそんなに怒っているんだ。イオ」
急に殺気を帯びたイオにバテルは慌てる。
「お前が鼻の下をのばしておるからじゃろう」
「いや、クレウサは俺の娘みたいなもので、そんな」
バテルに他意はないつもりでも、シンセンとイオの目には明らかであった。
「私は怒ってなんていません」
「大丈夫。わたくしはお母様からお父様をとるような真似は致しませんわ」
クレウサは、バテルを解放し、ゆらゆらとイオの方に歩いてくる。
「……娘としていっぱい甘えちゃうかもしれませんけれど。もちろんお父様が女として求めてくださるならそれ以上も。ふふ」
そうイオの耳元でつぶやくとクレウサは妖しい笑みを浮かべる。
イオは険しい顔をしたまま立っていることしかできない。
「クレウサ。なぜイオ様を挑発するようなことを」
ベリサリウスがいさめる。
「あら、わたくしはただマギアマキナ以外の弟や妹が欲しいと思っただけですわ。それに……じれったいんですもの」
彫刻のように精密で近寄りがたいほどの美しさをもつクレウサの表情はまさに無邪気な子供そのものだった。
(驚いた。あまりゴーレムとは変わらぬ存在だと言うのに、これほどまでの自我と個性を持っておる)
ただの人形でもなければ、ゴーレムでもない。マギアマキナという存在が生命の定義そのものを覆しかねない存在だとシンセンは考える。
「お母さん!」
マギアマキナ最後の一人が、太陽のようなオレンジ色の髪をなびかせて、透き通った黄色いトパーズのような瞳を輝かせてイオに抱き着く。リウィアと同じく幼い容姿だ。
「わあ、よっと」
「えへへ、お母さん、あったかい」
ヘレナは嬉しそうにイオの胸に顔を埋める。
「あなたもマギアマキナ?」
「ヘレナ! 一番お姉さんなの」
「なるほどのう。作られた順番で兄弟姉妹の順序が決まるということか」
「はい。といっても第一世代はほとんど同じ日に目覚めたので、あまり変わりはありませんが」
「ヘレナが一番お姉さんなのっ!」
「はいはい、そうだな。ヘレナが一番お姉さんだ」
バテルはイオに抱っこされているヘレナの頭をなでてやる。首を伸ばして、頭をなでてもらうようにせがむヘレナはまさに娘そのものだ。
「これで今いる第一世代のマギアマキナは全員だ」
ヘレナ、リウィア、クレウサそしてベリサリウス。
マギアマキナたちが一列に並ぶ。
どのマギアマキナも眉目秀麗で、人形のような美しい顔立ちだ。
「第一世代とはなんだ。まだほかにもいると言うのか」
「はい、師匠。第一世代が記念すべき最初のマギアマキナ。まだ機械の心臓となる魔結晶は残っています。魔結晶さえあれば、マギアマキナは簡単に作れる。これでもう人手不足で困ることもないし、より大きく活動できる」
マギアマキナは人を模倣して作られたが、その身体能力や機能はゴーレム研究の粋を集めた者であり、人よりもはるかに優れた存在である。ゴーレムを超え、人をも超えた存在がバテル一人の手で量産が可能になった。
「もっとマギアマキナの子供たちが増えるんですね」
「ああ、そういうことになる」
「にぎやかになりそうですね」
イオは、これから生まれてくる子供たちを想像し微笑んだ。
(人間に限り近い人形か。いずれも強い力を感じる。ここまで確固たる人格を持つマギアマキナたちを生命でないと言えるのか? 錬金術師の夢である生命の創造。バテルは、それを飛び越えた先に到達してしまったのかもしれぬ)
シンセンには、まだマギアマキナというものがどういうものなのか判然としない。しかし、マギアマキナたちが強力な存在であるということはよくわかる。人と同等以上の知能を有し、人より優れたゴーレムの体を持つマギアマキナ。マギアマキナたちを目にすると錬金術師が夢見た生命創造は叶ったのではないかと思えてくる。
深い知識と経験、鋭い洞察力と見識を持ったシンセンでさえ、マギアマキナたちが生まれた後の世界を測りかねていた。
未知であるということは危険かもしれないということでもある。
一方、バテルは、マギアマキナを生み出し、ゴーレム軍団を拡張するということ以外頭になく、突き詰めた先どうなるかなど考えもしていなかった。




