07 生き物らしさ
マンション室内
数日経ったけれど、物語の重要な開始点の気配を感じる事はなかった。
まだ、その時期ではないらしい。
一緒に異世界に召喚されるにしろ、置いて行かれるにしろ僕が何かできるはずがない。
この数日、それなりに見知って来つつある人達を、トラブルが起こると知りつつ黙っているようで心苦しくはある。
あのクラスの生徒達も先生も、良い人ばかりだから。
けれど、シナリオの根幹に触るような事をしようとすれば、制限がかかるのはすでに知れている事だった。
一度、学校の敷地内にある意味ありげな桜の木に触ろうとしたら、金縛りにあったような感覚になって、動けなくなってしまった。
おそらく、物語を捻じ曲げる様な事は、駒の僕には出来ないようになっているのだろう。
主人公の行く末や、物語の発生に興味が無いと言えば嘘になるが、そもそもの関係を築けないのであればどうしようもない。
もっと現実的な問題を解消するために行動する方が優先だ。
「お腹すいたな。ご飯でも買ってこよっと」
悩ましい空腹に背中をおされて家を出る。
書類上はどうなっているのか分からないけど、家族のいない身である僕は、お腹を満たすために自分で食材を調達しなければならないのだから。
この体は、一般人から見れば割とチート的な造りをしていて、望めば必要な技術が手に入るし、世界の裏側の知識も仕入れることができる。
けれど、なぜか人間としてあたりまえの睡眠欲だとか食欲だとかは、自前で何とかしなければならないようになっているらしい。
それが最低限の人間らしさ……生き物らしさを形作るものなのかもしれない(人間の三大欲求である後の一つについては、……まあ小学生である自分には関係のないものだろう)。
世間知らずな小学生ならまだ知らなくてもおかしくはないだろう知識を頭に思い浮かべて、少しだけ苦笑。
必要な物を手に持ち玄関に向かって、家の外へと出かける事にした。