06 もう一人の主人公
初めて尽くしのはずなのに、表面上は何ひとつその通りではないという、なんともおかしな学校生活初日は終わった。
式が終わった後は、クラスに移動して担任の先生やクラスメイト達と自己紹介したけれど、軽く見ても個性的なメンバーばかりだった。
白い髪の……大人とは思えない自由奔放な性格をした先生に、拳で何でも解決できそうな同級生、もう2・3年は年下なのではないかなと思えるような無邪気なマスコットなどなど……。
日々の話題作りに事欠くことがなさそうだ。
僕も一応そんな個性強めの彼等に交じって自己紹介はしたけれど、おそらく誰の心にも残っていないだろう。
僕という人間は存在しているはずなのに、世界には刻まれない。
そういう人間なのだから。
「ふぁぁっ、未利さん! ここであったが百年目、有栖ちゃん見かけませんでしたか!?」
「げ、また鈴音? また何かあったの? また厄介事背負って歩いてるワケ? いちいち会うたびに、トラブル巻き込んでくる気満々すぎでしょ!」
考え事をしていたら、何だか賑やかな話し声が聞こえて来た。
帰路につくといっても、僕の帰りを待っている人間がいるわけではないので、のんびりと適当な道を歩いていたのだが……知らない間に、町の公園の前まできていたようだ。
「トラブルだなんて……そそそんな事ないですよぅ! って、お喋りしてる暇なかったんだった。ここら辺で、小さな女の子見かけませんでしたか?」
「見かけてないけど、なんかあった?」
「ええ、ちょっと。友達の友達が唐突な行方不明中で、もしかして大事件? な様子でして。ご町内を大捜索中なんです」
「立派なトラブルじゃん! また、面倒な事に……」
賑やかなイベントが発生している方向へと視線を向けて気が付く。
初めは分からなかったけれど、会話をしている一方はクラスメイトの少女だった。
トラブルを持ち込まれている子の方だ。
クラスにいる時はフリル満載の乙女チックワンピースを着ていた代わりに、今はラフでやんちゃ少年風の装いを身に纏っていた。だから気づかなかった。
名前は確か……、方城と言っただろうか。
ピクリとも表情を動かさず、言葉少なに上の名前だけ紹介して、自己紹介を終わらせていた姿が記憶に新しい。
彼女は、ものすごく面倒そうにしながら、困っている様子のもう一人の少女に声をかけるが……。
「……人手がいるなら、当てが無いわけでもないけど」
つっけんどんな態度の割に、ツンデレだったらしい。
しかし、トラブルを持ち込んできた側の少女は、首を振ってその助力を断った。
「えーと、とりあえず今は大丈夫です。雪高君の話ですと普通の人には若干ヘビーすぎて手に負えな…ぃぃえ、まだ捜索で人海戦術に出るタイミングとしては早すぎるというお話でしたので」
「そう?」
何か大事になっては困るのか、最初に声を上げたその少女は更に真っ青になりながら、自分の首をぶんぶんと振ってその場を離れて行ってしまった。
なんとなくだけれど、その一件を見て僕は事情を察知してしまっていた。
彼女もどうやら主人公みたいだ。
物語ジャンルも同じ異世界ファンタジーで、冒険ものらしい。
けれどそれは、あの先程であった赤髪の少女とは違った物らしい。
異世界召喚に巻き込まれる人間なんて、人生で一度であるかどうかぐらいだし、そもそも縁すらない人が大抵だというのに、今日は本当にめずらしいことばかりだ。
当然僕に出来る事なんてない。
出来る事なんてきっと……。
その場を立ち去りながら、彼女の物語はうまく解決される事を祈るぐらいしかないだろう。