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ツバサ・ライジング  作者: 仲仁へび
序章
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 ――ようするに、自分から何かをするのが怖いんだ。運命に抗って、本来の筋道を変えてしまう事が。僕がそうする事によって、誰かの命を奪ってしまったとしたら? 奪ってしまうのだとしたら? 僕はそれ以上先に進めるのかな。






 大型のスパーマーケットの中で大規模火災が発生。

 来店者の非難は順調に進んでいるものの、猛烈な勢いで燃え続ける炎の勢いにさらされて一部の客が取り残されている模様です。


「……」


 僕は力尽きそうだった。

 ここまでか、と思った。


 どうせ誰にも必要とされない命だ。

 ここで落としたところで、僕が世界に与える影響なんてないだろう。


 僕の役目は、他の誰かがこなしてくれる。

 代わりの効く存在なのだから当然だ。


 だけど。

 わずかに胸が痛むんだ。


 僕はまだ何もしてない。

 何も見てない。

 誰とも触れ合ってない。

 何も成してない。


 いいや、違う。

 そんな理由はどうだっていい。


 僕は、ただ。

 ……たいだけなのかもしれない。


「っ、大丈夫?」


 意識がもうろうとする中で、声がかけられた。

 薄らいでいた意識が少しだけ覚醒する。


 炎が満ちる店の中で、倒れた所までは覚えている。

 動けなくなった事も。

 確か、……たまに訪れるお店なのに、運悪く火災に飲まれるなんてなんて不運なんだろう。

 そう思ったところで、意識が曖昧になった。


「動ける?」


 声の主は、僕に声をかけ続けている。

 傍に人がいる。

 女の子の声だ。


 彼女は誰だろう。

 こんなところにいたら危ないよ。

 早く逃げないと駄目だよ。

 そう言いたかったけど、声が出ない。

 煙で喉をやられたようだ。


 女の子に肩を貸されて、煙と炎で何も見えない店の中を歩きだす。

 どこに迎えば良いのか分からない。

 安全な場所があるのかすら分からないまま。


 放っておけば良いのに。

 なんて言ったって伝わらないだろう事は分かっている。

 僕の身辺状況は、おおよそ一般的ではないから。


 だとしても、僕なんかの為に彼女が犠牲になるのは良くない事だ。

 僕が、死んでも誰も悲しまない。

 何の、影響にも残らない。

 

 けど、彼女は違う。

 悲しんでくれる家族や友人がいるはずだから。


 僕は精一杯の力を総動員して、彼女の背中に手を回して、押す。

 先に行け、とそう言わんばかりに。


 けど、彼女は僕を置いていきはしなかった。

 やがて、熱で焼け朽ちた天井が音を立てて崩れて来て……。


 死を覚悟した僕はせめて彼女だけでも生かそうとしたのに。


 ろくに動けなかった僕は、逆に彼女に助けられていた。


 小さな町で話題になる、大きな出来事。

 一つのスーパーで起きた火災。


 死傷者、負傷者多数を出したその火災事故で、僕は生き残っていた。



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