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少年  作者: 考えたい
崩壊
18/18

其の十八 新春記念小噺

「はあ。」

 口から吐いた白い息が煙草の煙の如くむくむく天に昇る。

 白沢國男三等陸曹は夜の歩哨をしていた。今宵は年越し大晦日。だけどこの男には関係ない。皆したがらないこの時間の哨戒を請け負っていたからだ。

 歩いていると寝室から紅白を楽しむ声が聞こえてきた。今夜は楽しみながらオールする気だな、文先輩も気にしていないようだったし。

 ふと昔の年越しを思い出す。何ら毎夜変わらなかった。ただ交代で哨戒しているだけだった。

 そう懐古に浸っていると、「國男。」と少年を呼ぶ声がした。

 振り返ってみると、アンがそこでカップそばを持って立っていた。

「一緒に食べる?」

 毎年とは国も相手も違う年越し。そのような変わりざまに流されたのか、思わず少年は首を縦に振った。

廊下にある椅子に二人並んで腰かけて、一杯のカップそばを分け食べようとする。そんなことをするなんてちっとも思わなかった。

「マリーさんは寝たか?」「うん、もうぐっすり。」

 そうしてアンはポキリと割り箸を割って食べ始める。

 かと思いきや、熱いのかフーフー息を吹きかけてあろうことか少年の方に差し出した。

「はい、あーん。」

 ところが少年はあーんの意味も知らないので、直ぐに何食わぬ顔で箸にパクついた。

「ありがとう。」

 そう言って少年は気付かぬうちに柔和な笑みをたえていた。その顔を見てアンは面食らったような顔をしていた。

 そして暫く互いに黙ったまま、少年はアンのことを横目でチラチラ見ながら、アンは少年の視線に気付きつつもカップそばを下手ながらも懸命に啜る。

 そのアンの姿が少年の心の何処かを窄める様な、愛しい様な、可愛らしい様な、という酸っぱい感情を煽った。

 除夜の鐘も微かに聞こえる駐屯地内、あと数分で年越しも迫るころ。

「ねえ。」カップ麺を食べ終えたアンが少年に遠慮がちに訊いてくる。「キスしても、いい?」

 勿論首肯する。

「3,2,1!明けましておめでとうございます~ぅ!」「うぉぉぉぉぉ!」

 アナウンサーの新年の挨拶と隊員の雄たけびが廊下に木霊する中、二人はいつもの、だけど特別な儀礼で年を跨いだ。

 互いの吐息が交わる中、新年の挨拶を交わす。

「あけましておめでとう。」「こちらこそよろしく。」

 この円満夫婦の様な甘いやり取りを、狸寝入りしていたマリーによってバッチリ一部始終が動画に収められ、それをもとに基地内ひと騒動となることは、ここだけの新年である。

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