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少年  作者: 考えたい
崩壊
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其の十七

 さて、将官たちの騒動は置いておいて、少年の提案した作戦はリモート会議に集まったメンツによって修正、認可された。

「でだな、俺に陣頭指揮取らせてくれないか?」

 突然立野空将補がそんな提案をしてきた。それに対して他の将官たちの反応は、

「うん、良いんじゃねえの?」

「異議なし!」

といった感じだ。

「おお、久々の立野節発動か、ガハハハ」と九条幕僚長も何故かご満悦。

「んじゃそういうことでな。」という立野空将補の一言でこのリモート会議はお開きとなった。


       *      *      *


「やれやれ、将官のお相手をするのは疲れますね。」と文先輩がヘッドセットを外した。

 見ると文先輩の目の下の隈がいつもよりも濃いような気がする。地震が起きてからロクに休んでないので疲れてばっかりである。さっきのリモート会議にしてもあの大物達の若き頃のフル○ン写真を見せられて適切な対処をできる人間が果たしてこの世に居るのだろうか、という疑問を抱かずにはいられない状態への対応が大変なカロリーを必要とする事は疑いようがない。

「それにしても國さん、あのタツノガミノミコトに気に入られるとはやるなあ。」と横から傍観していた六さんに言われた。

「???」

「先程の会議に出席しておられた防衛装備庁の立野空将補の渾名ですよ。タツノガミノミコトは後進の育成に熱心な将官のお一人でして、全国各地の陸海空自衛隊に優秀な新芽を見つけたらビシバシ鍛え上げる事で有名ですので。立野節と呼ばれる中々にハードな特別教練は途中脱走者も少なくなく、間違いなく典型的な鬼教官ですよ。ですが、脱走如きの簡単な事で訓練生を見捨てる事なく大半の訓練生は最後までしっかり鍛え上げられて、もう大層立派になっていますよ。」

 どうやら少年はとんだ人物に目を付けられたらしい。

「それにしても、他の将官と何となく雰囲気が違う気がするのだが、やはり技術屋なんですかね、タツノガミノミコトは?」

「まあそうでしょうね、大半の自衛官の経歴とはかなり異なるのでね。」

「かなりとは?確かに普通の技術屋とも違うような気がするのですが。」

「タツノガミノミコトは中高時代は今や過去の遺物と為りつつある男子校出身で、大学は京都大学工学部海洋工学科出身、その後母校の中高で数学を数年教えて東京大学大学院工学部航空宇宙学科を出た後JAXAで人工衛星やロケットの設計に関わったそうです。その後NASAやMITにも赴き流体力学の研究を。米国で戦闘機や輸送機のような軍用機だけではなく民間機や軍艦、タンカーの設計までもこなし、何かの拍子で日本に戻ってこられた、まあぶっちゃけヤバイ人です。」

「そういう俺や文の親父も言うてタツノガミノミコトに目を付けられて、同時にビシバシ鍛えられた人間なんだよな。」

「へえ、そうですか。」

「まあ、タツノガミノミコトに目を付けられるとぶっちゃけかなり大変でな。通常の業務にプラスアルファされるから。まあ、頑張れよ。」

 六さんの太くて毛むくじゃらな手で少年は頭をワシャワシャ撫でられた。

 

    *    *    *


  少年は通っている小学校の校長室にいた。というのも例の作戦の下準備を行うために校長の許可を形だけでも取る必要がある。

「ー以上が今作戦の概要となります。ご協力をお願い致します。」鉄さんが手際良く、だが面倒くさそうに校長に作戦を伝えた。

 だが校長の目線は作戦の概要を纏めた資料にも鉄さんの顔にも向けられていない。その疑りと驚きのこもった視線を少年に向けていた。

 其れも其の筈、自分の小学校の小学生が自衛隊の格好で自衛隊側の使者としての来校をしているわけだから、そりゃ吃驚させられるだろう。

 だが其の疑心を確定させる訳にはいかない。なのでそ知らぬフリをしてやり過ごす。

「では、こちらで審議しますので少々お待ちください。」

 そう言って校長は校長室を後にした。

「確かにあの校長、お飾りだな。」そう鉄さんがつぶやいたが、すぐに少年は指で机を弾き出した。モールス信号である。

(盗聴器が仕掛けられていますので、以後これで意思疎通を行わせていただきます。)(どうなってんだよ、貴様の小学校は。)(まあ、マトモではないですね。ミニ国家みたいになってますし。政争みたいなので怪我人も相次いでいますし。)(やべえな。)(それはそうと鉄さん、ヤバいといえばウチの部隊、普通の沿岸警備隊じゃないですね。)(………何故そう思った?)

 少年はこの第365沿岸警備隊、いや勝呂雅文三等陸佐という軍人に常日頃抱いているある種の違和感に踏み込もうとしている。

(鉄さん、特殊作戦群に昔在籍していたことがあるでしょ。あと、実戦経験も幾分か。背中の銃創も事故って仰っていますけど、あのつき方は実践、しかもかなりの接近戦のように思われますし。)

 そして鉄さんは「フッ」と軽く鼻で笑い、それ以降何も答えなかった。

 そこから数分して校長が戻ってきた。

「我々としても校内での備蓄の減少は喫緊の課題であり、この件の解決と街の復興に向けて我々も協力を惜しまない所存である。」とテンプレを言って、グラウンドの使用許可を出した。


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