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少年  作者: 考えたい
崩壊
14/18

其の十四

全速力で第三中学校に駆けていった少年はそこで唖然とする光景を目撃する。

 校庭で数名の人が焚き木をしていたのだが、其の燃料は…………全部エロ本ッ⁈まさかの葛城さんのコレクションが燃やされてしまっているのでは…………葛城さんに教えたらショック死しそうだ。

 そして其の焚き木の周りを囲む様にに上半身裸で両手をロープで後ろに縛られた中学生達がざっと五十人程、正座をさせられていた。ナニコレ、曼荼羅?宗教儀式?まるでガーバ神殿に礼拝するムスリムの様だ。

 「あの~、一つよろしいでしょうか。」様々な状況を戦場で目の当たりにしたものの、こんなヘンテコな事態は初めてだ。全然推測が立たない。

 先生らしい者が「こいつらは今、謹慎中だ。自衛官さんよ。」と教えてくれたが訳が分からない。てかそもそもこんな処罰は十二年の人生で一度も見たことがない。

 気を取り直して、「あの、食料の残量調査に参りました。」とさっきの先生らしい者に尋ねた。「どうして自衛隊がそんな事を調査するのですか?」丁寧な喋り方だが、何処か不審に思っているらしい。「救援の調整にどうしても必要なので。」其の先生らしい者は疑いの目を少年に向けたものの「三千人で三十日だ。」とぶっきらぼうに教えてくれた。

 曼荼羅で入った時には一瞬忘れたが、アンの安否を確認しなくてはならない。少年にとって命に代えてでも護りたい人だと思っているが、時々何故護りたいかと理由を考えてしまう。だが、其の理由は何故か釈然としないどころが、少年の心臓の鼓動を早めてしまう。そして、偶々同級生らしい男子との会話をしている様子を見ると、其の男子を狙撃したくなる。まるで、獲物を他の奴に取られたくないと同種の仲間に威嚇する肉食獣の様になる。嘗て政府軍の要人を狙撃する時に、他の奴に先を越されたくないと思った時のように。


 体育館に入ると、奥の端っこの方で壁にもたれ掛かって寝ているアンさんがいた。静かに近づこうとすると「國男君?」と少年を呼ぶ声がした。声の主に顔を向けると、文先輩の婚約者である姫花さんがいた。

 「どうも、ご無沙汰しております。」「まあまあ、で、文先輩は?」「相変わらずの辣腕っぷりで。」そう聞いて姫花さんは「良かった。」と心底安心した顔をした。しかし、此の姫花さんは本当に育ちがいいな。俺のようなある意味で人じゃない存在にも分け隔てが無く、本音でぶつかってくれる。文先輩は良いお嬢さんをお嫁に貰ったなあ。

 「ところで避難生活は大丈夫ですか?」「敬語はいいよ。まあ、良くも悪くも非日常的かな。」「そうか。じゃあアンが起きたら、俺は無事だと伝えといてください。」「何言っているの!前も言ったけどアンちゃんは貴方のことを嫌っていないからっ!」と無理矢理背中を押されて、アンの所に着いてしまった。

 「ア〜ンちゃんっ!」と姫花さんはアンを起こす。「ムニャニャ、あれ、姫花先輩?って何で國男がここに居るのよ➖➖ッッ‼︎」朝っぱらからキャンキャンうっせえ、此の女。


ー数分後ー


 「こう言った私事の事案で避難所の皆様の安眠を妨害してしまったことを心よりお詫び申し上げます。」

 体育館の舞台の上でこんな事をマイクに向かってこう言わなくてはいけない此の状況。俺が一体何をやらかしたというのだ。

 「もうお役所言葉はうんざりだ!」「此の子役人め!」「何でお前なんかがアン様と!」舞台から降りる時、こうストレスの溜まった数名の避難民から罵声を浴びせられる。そのうちの一人の中学生が少年に襲い掛かろうとしていたのを他の人たちが抑えている。

 「お前か!クニオって奴は!我々のアン様に手を出した張本人は!」やれやれ、こういう奴の相手が面倒い。まあ確かに逃避行を共にした者贔屓に見てもアンやマリーは滅多に居ないほどの美人でスタイルもボンキュッボンだから、こういう事になるのは想像に難くないが、偶像崇拝ほど迄になるとは。まあ学校じゃあ生意気は言っていないようだが。

 まあ取り敢えず此のうっせえ中坊を黙らすか。

 コイツは陽キャらしい。染めた金髪に耳ピアス、そして常に周りの人間を見下している奴らしい嫌な雰囲気がプンプンする。武士の風上にも置けぬ。

 「勝負しろ!アンを懸けてだ!」やっぱり屑だ。人をモノ扱いしている。

 アンから薄々話は聞いていた。何度も告白を断ってもしつこくて、嫌がらせをする先輩が居ることを。そして平気で三股とかしているという噂がある。妃花先輩にも付き纏っていて結構迷惑を被っているらしい。

 「貴様みたいな屑に喧嘩を吹っ掛けられるとは。まあよい。俺は売られた喧嘩は高く買うからな。」そう答えると其の屑は間髪入れずに少年に拳を突き出しながら突進してくる。フライング。


「もう、これ以上はやめて。」アンはそう言った、泣きそうなか細い声で。「昔みたいに、ただ敵を殲滅することを考えないで。もう、いいから。此奴に対する復讐は、もういいよ。」


 ーもういいよー


 ふいに或る女性が少年の頭に浮かんだ。とても小さいときに、いつでも抱っこやおんぶをしてくれたその女性が。いつも少年に優しく、笑顔を向けてくれる。

 その女性が少年の記憶に埋もれていた母親であることに気づくまで、そんなに時間がかからなかった。ゆっくり後ろを振り向けば、その美しい顔がアンの顔と重なって見えるようだった。

 気が付けば頬に一筋の涙が零れていた。


 「かあ、さん。」


 思わず小さな声で呟いた時、何故少年がマリーを護りたかったのかが、唐突に理解できた。

 それは、少年にとって何時でも大きな無償の愛を呉れるからだ、さながら母親のように。物心ついたときからいつも戦うことばかりを考え、戦友同士の「血の友情」ばかりを体験し、生きるか死ぬか、目的を達成するかどうかばかりで神経を擦り減らしていることにも気付かず、只々凄惨さに耐え、無駄で果てしない日々に差した一筋の光明。柔らかい布で包まれるように安心感がある。そんな事を初対面でアンに対して思った。それからの日々は未知の日々だった。態度はツンケンしているが、それでも少年を見捨てない。常に関わってくれる。少々お節介だが本当にヤバい時は助けてくれる。

 ドライな戦場で、少年が本当に欲しいものを呉れたアンをぞんざいに扱う訳がない。

 アンとは、少年にとって母親でもあり、女友達でもあり、護りたい人でもあり、特別な感情を抱く相手でもある。

 つまり、少年はアンに恋をしている、ということに今更ながらに少年は気付いた。だから他の男と話しているのを見ると嫉妬もするし、無茶な頼み事も最後には結局快諾してしまう。


 俺は、アンとずっと人生を歩みたい。


 結局これに尽きるのだろう。



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