第十八話 ラークVSケイン
■ラーク■
「それじゃあケインさん、あちらに行くので着いてきてください」
僕はケインさんと共にコウと離れる。
「彼と離れて大丈夫だったのかい?」
コウと離れ、近場の開けた場所に着くと、ケインさんが聞いてくる。
「団長は10年前の戦争で武功を挙げて、あそこまでのし上がった方だよ、いくら君達が強くても一対一では勝ち目は無いと思うよ」
確かにあのラカンって人はかなりの実力者だろう。
でも…。
「心配には及びません。本気を出したコウは誰にも負けません」
剣の紋章と白の紋章。
あの二つを本気で使ったコウは、恐らく無敵だろう。
唯一勝てるとしたら、魔力切れで魔法を使えなくなる事態以外は考えられない。
「なるほど、君も彼のことを信頼しているんだね」
ケインさんが笑っている。
「それじゃあ、お互い戦いに集中しようか」
「はい」
お互い冷静に相手を観察している。
「このままではラチがあかないね。最初から全力で行こうかな」
ケインさんがそう言って右手を掲げる。
「力を示せ!私の紋章よ!」
ケインさんの右腕が光る。
すると地面から一体の両手に剣を持っている土人形が現れる。
「私の紋章は、ドールマスターの紋章。土より人形を召喚する能力だよ」
「土から人形を?」
「そう。紋章レベルによって、出せる強さは変わるんだけどね。因みにこの人形は私が今使える最強の兵器だよ」
ケインさんが説明してくれる。
「なぜそんな事を教えてくれるんですか?」
「なに、不公平だと思ってね」
「そうですか…」
「さて、そろそろ戦いを始めようか」
ケインさんが右手を前に出す。
「いけ!私の人形よ!」
掛け声と共に土人形が飛び出す。
「くっ!」
準決勝で戦ったゴーレムより遥かに強い。
必死に迫りくる剣を捌いていく。
「流石だね。私のこの人形に対抗するなんて…。だが!」
土人形と違う斬撃が襲ってくる。
辛うじてそれを避けるが、浅くだが腹を切られる。
「私もこの人形と同等の強さを得る事が出来るのが、私の紋章の力だよ」
ただでさえ厄介な土人形に手を焼いているのに、ケインさんまで加わると、攻撃を捌き切れない。
「さあ、君の負けだ。大人しくやられてはくれないか?」
ケインさんがそう打診してくる。
「そう言う訳にも行かないのですよ。僕はコウ以外の人には負けられない…だから!」
左手を前に出す。
「黒の紋章よ!僕に力を!」
左手が黒い光を放つ。
ラークの全身が黒き光で覆われる。
「この魔法は、黒の法衣。僕の身体能力を強化してくれる魔法です」
今度はラークがケインに説明をする。
「ふむ、身体強化か。それぐらいで私に勝てるとでも?」
ケインは余裕の表情である。
黒の紋章。聞いたことのない紋章だが、その程度の紋章魔法で自分が負けるとは思えなかったからである。
「それでは…行きます!」
ラークがそう言い駆け出す。
「なに!?」
あまりの速さにケインはラークの姿を見失う。
「がは!」
気が付けば、自分の背中が斬られていた。
「なんだ…その力は…」
なにが起きたのかわからなかったケインは唖然とする。
「この魔法は、僕の身体能力を3倍まで上げる事が出来ます」
「3倍…だと!?」
ケインは驚愕する。
ただでさえ強かった少年が、3倍の強さを手に入れる手段があっては、対応出来ない。
「私の負けだ。好きにしろ」
ケインは剣を鞘に戻し、その場で座り込む。
「では、僕達を見逃してください」
「私を殺さないのか?」
「貴方達からは罪悪感を感じました。そんな人達を切りたくはありません」
「甘いのだな、君は」
「そうですね…。僕は甘いのかもしれません…」
そう言ってコウの元へと走り出す。
辺りにこれまでにない熱気を感じ、空を見上げる。
そこには巨大な炎の金槌が見えた。
「無事でいてくれ、コウ」
その炎を見て、更に走る速度を上げて駆けていく。