第十五話 それぞれの思い
ようやく山頂付近に辿り着いた。
「不味いな…」
山頂を岩陰から伺うと何人もの人の気配がする。
「そうだね、この様子だと恐らく全方位に待ち伏せしているね」
なにがなんでも俺達を一人も逃さずに殺したいようだ。
ここまで用意周到だとしたらどこか一方向を突破するしかない。
「参ったな…」
後ろからもオズが増援を連れて追って来るはずだ。
このままここにいては何百人に囲まれてしまう。
「これは賭けになるが、西に行こう」
西は同盟連合国との国境付近だ。
そこまで多い人数は置いておかないだろう。
「それが一番良さそうだね。西から山を離れて、迂回して国に戻ってこの出来事を国王に言おう」
「ラーク!」
俺達に向けて大剣が迫ってくる。
その剣を弾き返す。
「流石だな、少年」
俺達を襲撃した人はニヤリと笑っている。
「ラカンさん、なぜ貴方がここに…」
襲撃してきた人は準決勝で戦ったラカンさんだった。
「近いうち戦う事になるって言ったはずだよ」
別の方向からもう一人の声がした。
「ケインさん…」
ラークがその人物の名前を言う。
「やっぱり君達は生き残ると思ったよ。今回の入隊者の中では別格の強さだったからね」
「貴方達がなぜ!」
なるほど…そう言うことか。
あの時この人達は俺達と再び戦う事になるだろうと思い、あの戦いを途中で棄権したんだ。
本気の戦いが出来ると知っていたから。
「私は第10師団の副団長で、ラカン殿が団長なんでね。今回の作戦に私達も駆り出されたって訳だよ」
「そう言う事だ。本来であれば、こんな胸糞悪い事はしたくはないんだけどな」
二人は心底嫌そうにしている。
「貴方達程の人が何故このような事を」
俺は純粋に疑問に思った。
この人達からは、この作戦に賛同している様子がない。
寧ろ、嫌がっている雰囲気すら感じる。
「言い訳にしかならないが、俺達もこの国に属している以上、皇族の命令には逆らえないんだ」
ラカンさんが答える。
先程オズ隊長が話してた相手が恐らくルカ王子だろう。
あの人の命令でこうなっているのか。
「それでも!こんな事は間違っています!」
ラークが二人に向けて言い放つ。
「私達もこんな事はしたくはない…。だが、私達は私達でやらなければいけない事もあるのだよ」
「もはや問答は無意味だ。少年!存分に殺し合おうぞ!」
二人が臨戦態勢に入る。
「ラーク…戦うしかない」
「そうだね。僕達はここでやられる訳にはいかない」
「そうだ。また三人で平穏に暮らすために、こんな所でやられる訳にはいかない!」
こうしてマキナ山で一番激しい戦いの蓋は切って落とされたのであった。