第67話 酒盛り
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劉備は孫劉同盟再締結を終えたのを機に国号を蜀漢と定めて劉協と伏寿が再び皇帝と皇后の座に就いた。二人には子が居なかった為、太子は置かれなかったものの劉備が事実上の後継者とされた。また軍の組織についても益州軍(漢中含む)、荊州軍、交州軍、涼州軍の四軍に分けられ、龐統が荊州軍と交州軍、法正が益州軍と涼州軍をそれぞれ統括する事になった。
また劉備と孫夫人の間に男子が生まれて阿斗と名付けられた。その話を聞いた魏延は目出度いと喜んだ反面、前世の劉禅と同じようにはならないで欲しいと心底から思った。教育役には劉備からの要請を受けた黄権が就き、御史大夫と兼務する事に決まった。
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魏延は水軍の訓練中に費禕の訪問を受けた。費禕は江夏の生まれで益州に遊学中、劉備の目に留まり仕える事になり諸葛亮の右腕として北伐や益州の統治に貢献した人物である。前世と違って江陵で韓玄と知己になり、その才能を評価した韓玄が劉封に推挙した。仕官が決まった費禕は襄陽に送られ太守代理として内政面で魏延を支えていた。
「張飛将軍から知らせが参りまして、長安の魏軍に西進の動きがあるので注意するようにとの事です。」
「成都や江陵にも伝わっているのだな?」
「はい。涼州、武都にも通知されております。」
「費禕、君には城の守備を任せる。私は水軍で漢水流域の警戒にあたる。鮑隆と鄧芝には西方にある漢水の浅瀬付近の警戒にあたらせて魏軍が来たら守りに専念して渡河を許すなと伝えてくれ。」
「承知致しました。」
魏延は張飛の下で襄陽を守っていた際に魏軍が漢水の浅瀬を利用して襄陽を急襲した事を覚えていたので同じ手は二度と喰わないようにその地点の守りを厚くした。魏延は陳到から引き継いだ水軍で警戒にあたりつつ、樊城に嫌がらせしようと考えていた。
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「敵将は于禁か。軍令に厳しいと聞いているから挑発には乗ってこないだろうな。」
「船上で酒盛りをして我々の軍規が緩いと思わせてはどうでしょうか?加えて于禁を馬鹿にしてやれば効果があると思います。」
「高翔、酒盛りをするのは構わないが・・・。」
「酒盛りの真似をするだけです。出来れば浅瀬を守る鮑隆様にもやって頂ければ。」
「それなら費禕にも伝えよう。全軍でした方が魏軍も信用するだろう。郭攸之、悪いが城に戻って費禕にこの事を伝えてくれ。」
「承知致しました。」
それから魏延率いる水軍は数日間樊城の近くに船を寄せて于禁の悪口を散々並べたてた。魏軍が中々相手をしないので魏延は焦れてしまい憂さ晴らしに酒を飲み始めた。
「郭攸之殿、魏軍を幾ら警戒しても攻めてこないので酒を飲む事を魏延将軍が認められたぞ。」
「高翔殿、拙くないか?費禕様に知られたら激怒されるぞ。」
郭攸之はおどおどしながら周囲を見渡した。
「あれを見てみろ。魏延将軍は先に飲んでいるじゃないか。先ほど貴公にあずけられた費禕様宛の書状には公に飲酒を許すと書かれているのだ。」
「それは本当か?」
「私が代筆を命じられたから間違いない。貴殿より先に降りた兵士は鮑隆様への書状を持っているが中身は全く同じだ。」
魏延は費禕だけでなく主力を預かっている鮑隆にも酒を飲みながら魏軍は適当にあしらえば良いという命令を発していた。規律など関係ないと言わんばかりのものである。
「疑って悪かった。酒を飲めるのはありがたい。城に戻って早速飲ませて貰おう。」
郭攸之は話が終わると足早に港を後にした。高翔は周りに居る兵士に将軍から酒を飲む事を許可を頂いたので存分に飲めと伝えると船に戻った。