第64話 呂蒙の最期
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呉の荊州侵攻軍を壊滅に追い込んだ漢中軍は役目を終えて江陵に三々五々引き揚げて来た。呉の将軍で生き残ったのは捕虜になった呂蒙、黄忠に見逃された凌統、江夏に居た甘寧と韓当の四人だけである。水軍は都督の周泰以下全員が行方不明で生存は絶望視されていた。
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関羽に捕まった呂蒙は江陵の政庁内にある広場に連れて来られた。そこには漢中軍と荊州軍の将軍全員が揃って待ち受けていた。劉封が荊州牧として対応に当たる事になっていた。
「呂蒙殿、勝敗は兵家の常だが覚悟は出来ているな?」
「覚悟は出来ている。」
呂蒙は死を間近に控えているとは思えない程堂々としていた。
「その前に一つだけ聞きたい事がある。荊州になぜ固執したのだ?」
劉封は呂蒙がここまで荊州に拘る理由が分からなかった。
「孫堅様の悲願だからだ。劉表を後一歩というところまで追い込み、荊州に手が届きそうになったのだ。曹操の横槍が入ったとはいえ横から奪い取った貴様ら、いや劉備が許せなかった。」
孫堅を死に追いやった劉表を倒す事が出来ないまま曹操の手に渡り、最終的には孫権の協力を得て劉備が手に入れた。本来なら赤壁で勝利した孫家の物となるべきところがどさくさ紛れで劉備が奪い取ったとして凶行に及んだ。
「たとえ孫権が止めたとしてもか?」
「その通りだ。止められても私は独力でやっていたぞ。そもそも尚香様を嫁がせなければ全員が一致して荊州侵攻に臨んでいた。荊州さえ手に入れれば、荊州さえ手に入れればな。」
「お前の独断で命を失った者に対して何とも思わないのか!」
歴代の大都督が築き上げた信頼と実績を一瞬で破壊した事に一切恥じる事なく自身の考えを語った呂蒙に対して劉封は怒りをぶつけた。
「孫家の悲願の為に命を張ったのだ。名誉な事ではないか?」
「貴様、人の命を何だと思っている?」
劉封は呂蒙に近づくと胸倉を掴んで引き摺り起こした。
「言え、人の命を何だと思っているのだ!」
「道具だ。戦争を行う為の道具だ。」
「…。」
呂蒙の身勝手な答えに劉封は怒りを露わにして胸倉を掴んでいたがやがて突き放した。
「これ以上話し合っても無駄だ。」
劉封は呂蒙から離れると関羽に目配せした。関羽は頷くと兵士に声を掛けて数名の兵士と共に呂蒙を取り囲んだ。
「覚悟は良いな?」
「さあ斬れ!斬らなければ再び荊州を攻めるぞ!」
呂蒙は関羽を一睨みすると奇声を上げて笑い始めた。
「斬れ!」
劉封の合図で関羽は剣を一振りした。呉軍大都督呂蒙は荊州の地で首を刎ねられ命を落とした。
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荊州侵攻軍大敗の知らせを聞いた徐盛は闞沢にこの事を伝えた。孫権は病床にあって外部との接触が断たれた状態だったがこの頃には執務にも耐えれる状態まで回復していた。闞沢は監視の目を掻い潜り孫権と接触して詳細を伝えた。孫権は孫瑜と張昭を罷免した上で、陸遜を大都督、徐盛を近衛軍大将、諸葛瑾を丞相、闞沢を尚書令とする王命を出した。
闞沢は徐盛に孫権からの王命を伝えた。徐盛は自らの部隊を近衛軍として政庁に向かい、孫瑜と張昭を拘束して孫権の復位を宣言した。闞沢は諸葛瑾に後事を託して徐州に向かい、陸遜に大都督への復職を伝えて魏の反攻に備えさせた。孫権は諸葛瑾に対して孫劉同盟堅持した上で国力回復を最優先に実施するよう命じた。諸葛瑾は今回の一件で孫劉同盟は崩壊しているという前提で闞沢の帰国を待って交渉役に任命して再度締結する方向で動き出した。
孫瑜と張昭は国家を危険に晒した罪で斬首、呂蒙も同様の罪で名誉消失された。荊州で戦死した者は積極的に協力したとして名誉消失、凌統は荊州侵攻に加わっていたが同盟賛成派に属していたので降格処分と一定期間謹慎、甘寧と韓当は荊州侵攻に加わらなかったが江夏失陥で降格処分とされた。