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魏延が行く  作者: あひるさん
第八章 荊州争乱
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第58話 荊州に集う

ご覧頂きまして有難うございます。

ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

「劉巴殿、呉軍が来るとの事ですが一戦交えなくて良いのですか?」


太守の士壱が劉巴に訊ねた。


「君は勝てるのか?」


「おそらく勝てませんね。」


士壱は即座に否定して首を左右に振った。士壱も文官である自分が戦闘に出て勝てる訳が無いと自覚しているので呉軍が攻めて来ても迎撃する気は一切ない。


「なら専守防衛に徹すれば良いんだ。守りに徹すれば龐軍師が何とかしてくれる。」


劉巴は龐統から送られた命令書を再び士壱に見せた。そこには『呉軍を相手にする事を禁じる。専守防衛に努めて反攻の時期を待て。』と書かれている。数日前に劉巴が前触れもなく南海を訪れて先程の命令書を見せた後、補佐役としてしばらく南海に留まると伝えていた。


「それなら大丈夫ですね。」


士壱は着慣れていない武具を時折弄りながら呉軍が来る北の方を眺めた。


*****


長沙の太守を務めていた趙雲は龐統から命令書を受け取ると鞏志に太守の印綬を預けた。鞏志は龐統の指示で長沙太守代理を務める事になっていた。


「趙雲将軍、久方ぶりの出撃ですな。」


「確かに。腕が鈍っていないか心配しております。」


趙雲は得物の長槍を手入れしながら問い掛けに答えていた。


「江夏太守は水賊出身の甘寧と聞いておりますが。」


「相手にとって不足はありませんが戦いたくない相手です。」


趙雲はため息をついた。


「何故ですか?」


「甘寧は劉孫同盟に肯定的な人物と聞いています。争えば魏が喜ぶだけです。」


「なるほど。」


悉く閑職に追いやられた孫劉同盟賛成派の中で都督の陸遜以外で唯一前線を任されている一人である。甘寧は水軍の運用が必須になる江夏太守に最適の人物であるため今回の粛清を逃れていた。趙雲は甘寧との潰し合いを出来れば避けたかった。


「しかし君命なので戦わなければなりません。」


「出来れば互いに血を流す事なく撤退して頂きたいものですな。」


事情を聞いた鞏志も甘寧が趙雲の意を汲んで兵を退いてくれたら無駄な争いをしなくて済むと思った。


*****


南鄭太守の張飛は黄忠と馬超の突然の訪問を受けて急遽対面する事になった。


「爺さん、何かあったのか?」


「法軍師から南鄭に来いと言われたのだ。」


黄忠は一言だけ言うと出された水を一息に飲んだ。


「理由を聞いていないのか?」


「聞いていたら直ぐに答えている。張南が命令書を持って来て直ぐに南鄭に向かえと言うから急いで軍を仕立てて来たのだ。」


黄忠は魏軍の攻勢以外の理由で動く羽目になり不機嫌だった。理由を知らされていないのでそれに輪をかけていた。


「某も黄忠将軍と同じです。」


馬超は黄忠とは異なり困惑していた。


「あんたもか?」


「武威に龐統軍師の使者が来て一軍を率いて直ぐに南鄭に向かえと命じられました。この近くで黄忠将軍と合流したのです。」


劉備からは長安に大攻勢を掛ける時に備えて兵馬の鍛錬に務めて欲しいと頼まれていたので粛々と行っていたが何の前触れもなく南鄭に来いと言われたので慌てて向かったのが事実である。


「酒飲み(龐統)の指示か。そういえば呉が煩くなってると張松殿から聞いたがそれだろうな。」


「詳しく教えて頂けませんか?」


張飛は馬超に張松から聞いた話を掻い摘んで説明した。間違いなく呉が関係している事で南鄭に集まる羽目になったと三人の考えは共通していた。


「信義に背いた呉を叩く事に不満はありませんが魏の動向も気になります。」


「釈然としねえな。」


「良い事を思い付いた。軍師殿の了解を得なければならないが…。」


「爺さん教えてくれ。三人で頼めば法正軍師も分かってくれるんじゃねえか。」


黄忠は魏の攻勢があれば陳到に協力して襄陽を守り反転逆襲の機会を窺い、攻勢が無ければ樊と新野を攻めて中原の橋頭保を築く事を提案した。認められなければ呉相手に散々暴れて鬱憤を晴らせば良いだろうとして話し終えた。


「御三方の意見は承りました。龐統軍師にその旨をお伝えするので江陵にて指示を仰いで頂きたい。」


声がした方を見ると部屋の入口に法正が立っていた。


「法正、いつの間に来てたんだ?」


「ご挨拶をしましたが論議に夢中で聞こえていなかったようですのでこのまま聞かせて頂きました。」


「本当か?まあ良いけどよ。」


張飛はバツが悪そうに頭を掻いて苦笑いしていた。


「私の考えも御三方と同じです。おそらく呉と魏が同調して攻めて来るでしょう。どこまでの規模かは予測がつきませんが。」


法正は挨拶代わりに呉の動向について話をした後、三人に対して上庸経由で速やかに荊州へ向かうよう指示を出した。龐統宛の意見書を三人が食い入るように見て不敵な笑みを浮かべていた姿を法正はしばらく頭から離れなかった。

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