追い詰められる曹操
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曹操は許褚と胡車児の一騎打ちに気を取られて向寵と馬謖の動きを見ていなかった。二人は押し寄せた魏軍を跳ね返すとその勢いで曹操に向かって馬を走らせた。異変に気付いた曹操は兵を動かして対応にあたらせたが自身の守りに穴が開いた形になった。それに気付いた直後、魏軍を取り囲むようにして喚声が上がった。
法正の指示で攻撃を控えていた張飛、黄忠、関平、呉蘭、雷同らが一斉に魏軍へ襲い掛かった。魏軍は猛攻を何とか防いでいたが張飛によってその一角が崩されると防衛線が崩壊し始めた。曹操は退却の指示を出したが断続的に襲い掛かる益州軍の前に逃げ遅れた将兵は次々と倒れていった。
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何とか逃げ延びた曹操だったが西方から新たな敵に襲われた。馬超率いる西涼軍である。馬超は法正からの指示で逃走する際に通る道に兵を伏せて待ち受けていた。親兄弟を殺された恨みを晴らすべく副将の馬岱と龐徳、そして韓遂らと共に一斉に攻撃を始めた。
西涼の騎馬隊は精強であり魏軍が誇る青州兵でも抑える事が出来ず、防衛線は再び崩壊した。曹操を守る将兵は数を減らしながら曹操を何とか逃がす事に成功した。益州軍を上回る大軍が短時間で蹂躙される様を見せつけられた曹操は茫然自失でこれは現実ではなく夢か幻ではないのかと自問自答を繰り返していた。
曹操は自身を護衛する兵と共に長安目指して逃げていた。しかし西涼軍に加えて魏軍主力を壊滅状態に追い込んだ益州軍も各自で追撃を始めたので曹操の周りから次々と兵が脱落して数を減らしていった。そして自身が気付かないうちに魏延と傅士仁が待ち受ける地へ追い詰められた。
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待つという行為は何事においても精神的に辛いものである。魏延と傅士仁は来るか来ないか分からない相手を早朝からひたすら待っていた。そこへ偵察に出していた兵が戻ってきた。
「報告致します。魏軍が此方に向けて接近中。傅士仁将軍には通達済み。指示通りに行動を開始する旨返答あり。」
「魏軍が間もなく此処へ逃げ込んでくる。敵兵は全て捕らえるか斬り捨てろ!」
魏延は偵察隊の報告を聞くと小さく肯いた後、最後の命令を出して茂みの中に身を隠した。後は魏軍から上がる悲鳴を待つだけである。
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報告を受けてしばらく経った時に前方から悲鳴と罵声が聞こえた。その直後に火矢が空に向けて放たれていた。
「全軍突撃!目標は魏軍及び曹操だ!」
「おー!」
魏延は先頭に立って魏軍に突撃を敢行した。後方を傅士仁に塞がれた魏軍は北方に逃げて血路を開こうとしたが逃げる方向から魏延が現れ攻め込まれた。
「貴様らに用はない、どけっ!」
魏延は方天戟で魏軍兵士を蹴散らしながら曹操の姿を探した。
「曹操、貴様も王なら潔く出て来い!」
曹操の姿は見当たらず魏延の顔にも焦りが見え出していた。
「ん、何だあれは?」
魏延の目に数名の兵士に守られながら逃げようとしている敵兵の姿が見えた。魏延の声に気付いた兵と共に不審な集団を取り囲んだ。
「被り物を取って貰おうか。取らなければ斬る事になるぞ!」
魏延の脅しで緊張の糸が切れたのか守られていた兵士は跪くと被り物を取った。
「魏王曹操、ようやく見つけたぞ。」
魏延が曹操を見つけた時、魏軍は百名程度まで数を減らしていた。