江州増援
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漢中を得た曹操は益州に狙いを定めた。自身は許昌に引き上げたが実弟曹洪を長安に留めて総大将にすると共に夏候淵に漢中を委ねて隙あらば益州へ侵攻する構えを見せ始めた。魏軍と交戦した江州太守の黄忠から成都へ使者が送られた。
「魏軍が巴陵に姿を見せ、呉蘭将軍率いる一隊と小競り合いになりました。」
「魏が南下を始めたか。」
使者の報告を聞いた劉備は険しい表情になった。
「黄忠将軍は魏軍迎撃の許可を求めております。」
「法正、黄忠に許可を出すべきか?」
劉備は軍師を務める法正に尋ねた。
「使者殿に尋ねる。敵将と規模は?」
「敵将は曹休と張郃、数は凡そ二万です。」
法正は答えを聞いた後、地図を眺めながらしばらく考え込んだ。
「迎撃を許可しましょう。魏は益州を狙っているのは必定。出鼻を挫く意味もあります。」
「黄忠に迎撃を許可すると伝えてくれ。」
劉備は法正の進言を受けて魏軍との戦闘を許可した。
「承知致しました。」
「使者殿、魏の挑発には絶対に乗るなと伝えてもらいたい。侮ると取り返しのつかない事態になるとな。」
法正は魏延や胡車児から魏の将軍について情報を得ていたのでそれを加味して黄忠への伝言を付け加えた。
黄忠は劉備の許可を得ると巴陵に陣を構える魏軍へ攻撃を仕掛けた。緒戦は黄忠が勝利したものの魏軍は付近に築いていた砦に籠城する構えを見せ戦況は膠着状態になった。黄忠はある策を思いつき成都に使者を向かわせた。
「黄忠が酒盛りをしている?珍しい事だな。」
「魏軍が籠城して攻撃を仕掛けて来ないので暇だと申しております。」
「それで酒盛りをしているのか。」
「その通りです。黄忠将軍は陣中の酒が空になりそうなので届けて欲しいと我が君にお願いしろと申されまして。」
「軍師よ、黄忠は大丈夫なのか?」
劉備は使者の話を聞いているうち不安になり法正に尋ねた。
「黄忠将軍には策があって酒を利用しているのでしょう。あの方は酒に溺れるような御仁ではありません。」
「ならば酒を届けてやらねば。」
法正の話を聞いて劉備も納得したので酒を送る事を決めた。
「賢明なご判断です。それでは近衛軍の初陣を兼ねて魏延将軍にお任せしては?二人は旧知の仲なので黄忠将軍も心強い援軍を得たと思われるでしょう。」
法正は魏の二人と渡り合えてかつ黄忠に対して意見が出来る者を応援に向かわせようと考えていた。該当する者は必然的に魏延しか居なかった。
「魏延、黄忠への援軍を頼めるか?」
「喜んでお受け致します。」
魏延は劉備から命令書を受け取ると政庁から離れた。前世では張飛の援軍で酒を運びそのまま漢中侵攻に参戦したが今回は黄忠の援軍として向かう事になった。助ける相手は異なるものの時の流れに変わりはない。ここからの数年間が蜀の命運を左右するに違いないと魏延は感じざるを得なかった。
「胡車児には軍の主力を預ける。向寵を補佐役として我が君の護衛を頼む。」
魏延は屯所に戻ると近衛軍に属する将校を呼び集めて巴陵へ出撃する件を伝えた。
「傅士仁と馬謖は私に従って貰うぞ。」
「承知致しました。」
「し、承知致しました。」
傅士仁はいつもと変わらず意気盛んに返答したが馬謖は初陣になるのでぎこちない返事になった。
「幼常、初陣は緊張して当たり前だ。気負わず与えられた任務を着実にこなせ。ただし臆病にだけはなるなよ。」
「はい。」
馬謖は胡車児の言葉を聞いて落ち着きを取り戻し力強く返事をした。
「胡車児、後は任せる。」
「おう、兄弟に恥を掻かせんよう務めるぜ。」
「私が思うに巴陵を守り切れば瓦口関から漢中に向かう事になるだろう。」
「兄弟と会うのは南鄭あたりか?」
「おそらくな。」
魏延は胡車児らに後を任せると、近衛軍の一部を率いて江州に向かった。