益州獲りを勧める
ご覧頂きまして有難うございます。
ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。
張飛に護衛された張松は無事江陵に到着して劉備に対面した。張松は益州の現状を話して漢中からの脅威を取り除くために援軍を要請した。
龐統は張松に漢中の兵力や状況を尋ねた。龐統は魏が荊州方面には動かないと判断していたので荊州軍主力を援軍とする漢中討伐軍を編成する事を劉備に具申した。
劉備もこれを了承したので龐統を都督とする漢中討伐軍が設けられた。今回は劉一族が州牧を務める益州に入るので前世と同様に劉備自身が討伐軍大将として赴く事に決まった。
*****
張松は再度劉備への対面を願い出たが歓待が終わった後の夜遅くだった。劉備は何か重要な話があると考えて諸葛亮・龐統・関羽・張飛を呼んで同席させた。
「これを劉備様にお渡し致します。」
「ほう、地図だな。」
劉備が受け取った地図を見ていると龐統が横から覗き込んだ。
「これは西蜀の地図だね。かなり詳しく書かれているよ。」
「張松殿、この地図を我が君に差し出された理由は?」
諸葛亮は地図を差し出した張松の考えを読んでいたが敢えて真意を尋ねた。
「劉備様に益州を治めて頂きたいからです。」
「張松殿、待たれよ。益州には劉璋殿が居るではないか。」
劉備は張松に反論した。益州牧として成都に居る劉璋は名前の通り劉家に属しており献帝や劉備とは同族である。一族の者から国を奪うなど劉備からすればあり得ない話だった。
「本心を申し上げますが、劉璋様では益州を纏める事が出来ません。漢中の張魯が国境を犯しているにもかかわらず何ら動こうとせず曹操に助けを求めるなど州牧として失格とは思いませぬか?」
「そりゃ駄目だね。益州には漢中と張り合える将兵が居なけりゃ別だけど。」
龐統は呆れた顔をして張松に同意した。
「そんな事はありません。厳願・李厳・呉懿・孟達など猛者が揃っており、法正・黄権など軍師として通用する者も居ります。」
「人は居れども用い方を知らずですね。」
「諸葛亮殿の申される通りです。」
苦笑いする諸葛亮に張松は何ともいえない表情を見せた。劉備は何も言わず腕を組んで目を閉じていた。
「同族から国を奪えば不義の誹りを受ける事になる。私にそんな真似は出来ん。」
劉備は不義理を理由にして益州侵攻を拒絶した。それを聞いた龐統は何時になく冷たい目つきで劉備を見た。
「我が君、ここで躊躇すれば曹操を倒す事は夢物語で終わる事になるよ。」
「兄者、帝を苦しめる曹操を捨て置いて良いのですか?決断が一日遅れれば、帝も苦しみが続く事になりますぞ。」
「兄者は曹操を倒して帝を助けると言った事は嘘なのか?」
劉備が常日頃口に出していた漢室再興は嘘なのかという意見が次々と出て来た。
「私がいつ帝を助けないと言った?私の目的は漢室再興だ。それを忘れた事は一日たりともない!」
劉備は珍しく激昂した。漢室再興を願う気持ちは誰にも負けないと自負していた事を身内に等しい者たちから出鱈目呼ばわりされたので無理も無かった。
「劉備様、漢室再興という大事の前に同族の国を奪うのは小事でございます。」
諸葛亮も劉備の目を見据えながら厳しい口調で自身の考えを述べた。劉備は苦しげな様子で考え込んでいたが肚を決めた。
「大事を成すために立ち止まる事は出来ない。劉璋殿には悪いが益州を攻める。」
「それじゃ準備に取り掛かろうかね。」
劉備の決意を聞いた龐統は指を鳴らすと活き活きした表情で西蜀の地図を食い入るように見た。