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魏延が行く  作者: あひるさん
第十二章 決戦
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司馬昭の最期

ご覧頂きまして有難うございます。

ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

司馬昭は城内に居た婦女子や老人、傷病兵など戦闘の役に立たない者として放置して城を飛び出し河北軍本営に襲い掛かった。

濮陽に籠城しても糧秣不足による飢えで先が見えている。

黄河を渡り河北に逃げれば公孫淵が待っているという確証のない望みだけが頼りだった。

しかし公孫淵は魏延を通じて劉備に降っているので河北に渡ったところで悲劇が待ち受けていた。


その一方で龐統は司馬一族が濮陽を放棄すると読んでいたので軍議の後、河北軍以外の三軍から将兵を引き抜き別働隊を構成して濮陽から離れた。

道中で法正と陸遜を交えて協議を行い、別働隊を各所に配置して晋軍の通過を待った。

それもあり晋軍は黄河を目指して北上しようとしたが事有る毎に別働隊の待ち伏せに遭い進路変更を余儀なくされていた。


司馬昭は一直線で南岸に向かう事を断念して一旦西方へ迂回しつつ南岸を目指す事にした。

普段なら冷静な状況判断で敵に策があると読んで別の手段を用いるが、四面楚歌の状況からの脱出だけに気を取られていたので気付かないうちに龐統の思惑通りの方向に進路を向けていた。


晋軍は山間にある峡谷に入った。

そこの一部は森林地帯になっており身を隠すには絶好の場所だった。

しかし多数の将兵を抱える晋軍にとっては全く意味の為さない場所であった。

司馬昭は身体を休める為に進軍停止を命じて木陰に腰を下ろした。


◇◇◇◇◇


「申し上げます。晋軍は森の中で進軍停止。休息を取り始めました。」


偵察兵の報告を受けて龐統はニヤッと笑った。

次の瞬間には普段とは異なる厳しい表情に変わっていた。


「引っ掛かったね。作戦開始だよ!」


龐統の合図で晋軍を後方から追走していた一軍が喚声を上げて晋軍に急接近した。

晋軍は慌てて休息を取り止め西方へ逃げ始めた。

我先にと逃げようとした事で混乱して怪我をする者や運悪く将棋倒しに巻き込まれて亡くなった者も少なからず居た。


しかし蜀軍は追撃を止めて森に火を放った。

事前に油を撒いていた事に加えて晴天が長く続いていた事で空気が乾燥して火の回りが異常に早く晋軍は火の海に呑み込まれた。

また西側で待ち受けていた別働隊も森へ火を放った。

全く同じ環境下で火を放ったので西側も火の海となり晋軍の逃げ道も塞いだ。


火の海から何とか逃れた晋軍兵士は出口に向かったが森の切れ目には別働隊が陣を敷いて晋軍の到来を手ぐすね引いて待ち構えていた。

別働隊から矢が間断なく放たれたので次々と晋軍は抵抗すら出来ないまま数を減らしていった。

入口側も同様に別働隊が待ち構えており弓で射られて斃れていった。


司馬昭は敵襲に驚き西側に逃げようと馬を走らせたが指揮系統の崩壊により散り散りになって逃げ惑う自軍兵士に邪魔される形で中々前に進めず立ち往生していた。

止む無く馬を乗り捨て徒歩で血路を開こうと試みたが悉く失敗に終わったので苛立ちがつのり自分を見失っていた。


「そこをどけ!私の邪魔をするな!」


司馬昭は前を進んでいた兵士の歩みが遅かったので罵声を浴びせた。

普段であれば太子である司馬昭の威光で兵士も避けていた筈だが今は事情が違っていた。


「お前のせいでこうなっちまったんだ!」

「どうしてくれるんだよ?」

「能無し太子、恥を知りやがれ!」


兵士たちは怒り心頭の表情で司馬昭に詰め寄った。

司馬昭は自分を守る兵士を呼ぼうとしたが姿は消えており周りに誰もいなかった。


「親衛隊はどこに行ったのだ?」

「頼りないお前に見切りを付けて逃げたんじゃないのか?」

「哀れな太子だよな。」


兵士たちの言葉通りで親衛隊は司馬昭に見切りを付けて散り散りになっていた。

しかし逃げる事が叶わず火の海に呑み込まれるか別働隊の攻撃で命を落としていた。


「貴様ら私を侮辱した事を後悔させてやる!」


司馬昭は剣を抜いて兵士たちに斬り掛かった。

それなりの力量は持っていたが前線で生死を賭けて戦ってきた兵士の気迫に叶わず剣を弾かれて手から離れてしまった。


「貴様たち覚えておけよ!」


司馬昭は咄嗟の判断でその場から逃げ出して難を逃れる事が出来た。

自分を守る兵士だけでなく武器まで失った姿は憐れであった。


「公孫淵と合流出来れば何とかる。」


司馬昭は何に取り憑かれたような表情で河北に居る公孫淵との合流が為れば巻き返しは可能だと何度も呟きながら西の方角へ歩いていた。


「しかし熱いな…。」


司馬昭はうわの空で歩いていたので凄まじい勢いで火の手が迫っていた事に気付いていなかった。

バキバキ…。

背後で変な音がしたので司馬昭が振り返ると火に包まれた木が自分の居る方向へ倒れて来るのが視界に入った。


「私は死ぬ…。」


司馬昭は燃え盛る倒木の下敷きになり、最後まで言葉を発する事が出来なかった。

晋国太子であった司馬昭は河北に渡れないまま中原の地で人生の幕を閉じる事になった。

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