第9話 ギルド追放
幹部達が告げた事柄に対して、ギルネ様は少し呆れたような表情で言い返した。
「そのルールは私の宝具や禁書等を保護するための物だったと思うが?」
「ギルネ様の私物には当然、ティーカップも含まれます」
幹部達の話を静かに聞きながら、ギルネ様は割れてしまった自分のカップの破片をつまみ上げた。
「割れた……というにはおかしな断面だな、まるで風魔法で切り裂いたかのようだ。そう思わないか? ニーア?」
「何が言いたいのですか?」
"風切"のニーア様が作ったような笑顔で応えた。
ギルネ様は全てを悟ったようにため息を吐く。
「明らかだ、普段はこんな所を出歩かない幹部どもが勢揃いで見苦しいものだな」
「お言葉ですが、見苦しいのはギルネ様であります」
「そうです、ギルドルールは絶対ですから。何を言おうがティム=シンシアのギルド追放は覆りませんよ」
ギルネ様の言葉に一歩も引かず、幹部達は言い返していた。
「たかだか、雑用係が一人いなくなるだけです。さっさと処分を言い渡してください」
「『たかだか雑用係』か……。強者の驕りもここまでくると滑稽だな、柱が無くては城は建たないというのに」
ギルネ様はそう呟いて、僕に向き直った。
そして、「本当にすまない……」と小さく呟く。
「ティム=シンシア! ギルド長の権限をもって君をこのギルドから追放する!」
「あ……、あぁ……」
僕は何も出来ずに泣きながら崩れおちた。
あまりにも無力だった。
このギルドでは雑用しか出来ていない僕には言い返せるだけの力もない。
冒険者になる為に必死に頑張った……。
それがこんなにあっさりと……。
「ギルネ様! よくぞ言ってくださいました!」
幹部様達はにこやかにギルネ様に拍手を送った。
「最近のギルネ様は少し様子がおかしかったですからな」
「昨夜は料理や紅茶を淹れる練習なんてくだらない事をされていて、心配していたのですよ?」
「偶発的な事とはいえ、これが元の立派なギルネ様に戻られる良い契機となることでしょう」
ただ僕一人を追放しただけ。
なのに、まるで高難度クエストを完遂したかのような雰囲気だ。
ギルネ様は僕に背を向けると、残念そうに口を開いた。
「今まで、世話になったな……」
僕に最後の言葉を告げる。
幹部達は嬉しそうに相槌を打った。
「そうですね、ティム君にはこれまでお世話になりました。まぁしょせん、雑用でしたが」
「――違う、『お前ら』に言っているんだ」
ギルネ様は首から下げていたギルド長の証を外した。
「私は今、この瞬間! 冒険者ギルド『ギルネリーゼ』を抜けて、ティムについて行く!」