第5話 ギルネ様は面倒くさい
「明日のお昼は私がお弁当を作るから、君は用意しなくて良いぞ!」
「は、はぁ……」
ドラゴン退治ですら朝飯前であろうギルド長、ギルネ様との薬草採集クエスト……。
僕はまだ現実を受け入れられずにいた。
「好きなおかずはあるか? 君ほど上手には作れないが……最近練習を始めたんだ」
「えぇっ!? えっと……じゃあ、卵焼きが――」
「ギルネ様! 失礼いたしますっ!」
僕がギルネ様の質問に答えた直後に誰かが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
幹部の一人、"神槍"の異名を持つ男性冒険者ナターリア様だ。
「ナターリア、入室は許可していないが?」
「処罰はいかようにも! それより、明日の我々との会食を欠席されるとは本当でしょうか!」
「ラファエルから聞いたな? あいつめ……」
ギルネ様は面倒くさそうにため息をついた。
「これはもう決定事項だ、私は今から明日のお弁当の用意をしなくてはならん。邪魔をしてくれるな」
「で、ですがギルネ様! 私達との会食よりもそのティムという者とのクエストに行かれるのですか?」
「そうだ、そこに居るぞ。あまり大きな声を出すなよ、ティムが怖がるだろ」
「なぜです!? ギルネ様は幹部として貢献してきた私達よりもこんな子供を優先させるのですか!?」
「貢献ならティムもしてきた、料理に清掃など"雑用係"としてな」
「雑用っ!? そいつは戦士ですらないのですか!?」
ナターリア様が驚きを通り越して呆れたような表情で僕を睨みつけた。
『今すぐ、自害しろ』とでも言うような目つきだ。
もう漏らしそう。
「……ギルネ様、私たちもよろしいでしょうか?」
扉のノックが聞こえると、ギルネ様はまた面倒そうに入室を許可した。
ギルドの内外で名を馳せる4人のギルド幹部が入室する。
全員、ギルドの最上ランクに位置し、異名を冠する武芸の達人だ。
この部屋にとんでもなく場違いな自分は震えながら縮こまるしかなかった。
風魔法のスペシャリスト、壮年の男性冒険者である"風切"のニーア様が口火を切る。
「室外にも聞こえて来ましたが、私達との予定が"雑用係"に潰されるのは面目が立ちません」
ニーアの発言に曲芸を極めし者、女性冒険者で"うら若きピエロ"の異名を持つロウェル様もかぶっているキャスケット帽子を整えながら頷く。
「そうだよ~、こんな居ても居なくても変わらないような奴。どうでも良いじゃん?」
全身の鎧と兜を震わせつつ、"武神"のミナミズ様は憤慨した。
「然り! ありえぬ屈辱である! 貴様、今すぐ腹を切れいっ!」
最後に、まとめるように青年冒険者、"超人"のデイドラ様が吐き捨てる。
「我々のランクは『強さ』で決まる! こんな奴、ギルネ様と言葉を交わすのもおこがましい!」
僕も心の中で何度も頷いた。
幹部の皆様の言う通りだ、僕なんて一生の人生でギルネ様を拝見できるかどうか。
この冒険者ギルドのランクはビギナー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリルの六段階に分けられている。
三年間も在籍しているくせに僕は未だ何のクエストを受ける事もできないビギナーランク。
そんなのの為にわざわざ超初級クエストを発注までして面倒を見てもらうなんて、百回は転生する必要があるだろう。