第3話 ささやかな望み
ギルネ様は少しだけソワソワしたような様子で改めて聞いてきた。
「ティム、君の最近の様子はどうだ?」
「えっと……ぼ、僕なんかの最近の様子をお知りになりたいのですか?」
「そうだ、誰かにイジメられたりしていないか? 仕事が大変だったり、不満があるのではないか?」
ギルネ様は真っ直ぐに僕の目を見つめてそんなお言葉をかけてくれた。
僕とたった2つくらいしか違わないはずなのに僕なんかよりずっと大人に思える。
と言っても、身長はさすがに僕の方が高いんだけど。
そんな事はともかく、僕は素直に答えた。
「ふ、不満などあろうはずがございません! 僕なんかをこんなにも高名なギルドに置いて頂いているだけで、至上の幸せです!」
「本当か? 不満があれば何でも言って欲しい。私は君のためなら何でもするぞ?」
ギルネ様は少し心配そうな表情で僕の顔を見上げている。
その視線に胸が痛む。
僕には確かに不満……というか望みがある。
確かにたかだか雑用係なので冒険者達に毎日イジメられてはいるがそんな事は問題じゃない。
これ以上を求めるのは罰当たりじゃないだろうか。
でも、この場でギルネ様に隠し事をする方がきっと悪いことだと思う。
僕は意を決して口を開いた。
「ギルネ様……不満というほどではないのですが、実は一つだけ願望がございます」
「――っ!? な、なんだっ!? 言ってみてくれ!」
ギルネ様は少し嬉しそうなご様子で僕に一歩近づいた。
目の前に迫った美しいお顔に僕は恥ずかしくてつい顔を背けてしまう。
「僕も、クエストを受けてみたいのです。そしてその……冒険者としての腕を上げたくて」
「ふ、ふむ……クエストか」
僕の願いを聞くと、ギルネ様は難色を示してしまった。
正直、そんなに大きな願いを言ったつもりではなかったので僕は内心少し驚く。
このギルドに所属してから三年間、僕は一度もクエストを任せてもらった事がない。
僕がこのギルドのクエストを受けられるレベルまでランクを上げられていないのが問題だ。
ギルネ様は僕を諭すように口を開いた。
「しかし、クエストは危険なのだぞ? 君が怪我でもしたらどうする?」
「僕はいつか立派な冒険者になりたいのです! 怪我くらいへっちゃらです!」
僕は握った拳で自分の胸を叩いた。
ギルネ様は少しだけ頭を抱えられた後、急に明るい表情になって手を叩いた。
何か案を思いつかれたようだ。
「そうか……よし分かった! では私も君のクエストに付いて行こう! それなら大丈夫だな!」
「……はい?」
僕にはギルネ様の話の意味が理解できなかった。