第25話 ギルドの崩壊、女神の誕生 その1
~~冒険者ギルド、『ギルネリーゼ』~~
「よ、良いのですか、ニーア様。幹部ではなく、下級冒険者の俺がギルドの案内だなんて」
「あぁ、幹部達は全員クエストに行かせたんだ。まだあの小娘に忠誠心が残っている者もいるからな、彼らにまずはクエストを遂行して私への忠義を示してもらう」
「な、なるほど……」
「少し歯ごたえのあるクエストに行かせたからな、今日中には帰ってこれないだろう」
ニーアはギルド員の一人を引き連れてギルドの内部を見回っていた。
「このギルドはそもそもどこに冒険者達の食料を蓄えているんだ? 施設修繕の為の道具も必要なはずだし、『倉庫』が見つからんな」
「は、はぁ……自分たちはいつもティムに命令していただけなので分からないです」
「……それにしても、埃一つ落ちていないな。大浴場は少しだけゴミが落ちていたが」
「自分たちはティムのスキルで身体を綺麗にさせていたのでほとんど浴槽は使っていないんですよ。ティムにやらせると一瞬で済みますし何だか身体の調子も良くなる気がして」
「はぁ……、口を開けば『ティム、ティム』と――」
「す、すみません! ちなみに、清掃も全てティムがスキルで済ませていたようです」
「まぁ、あの小僧の役割は雑用さえ雇えばなんとかなるからな。そう心配するな」
ニーアが笑い飛ばしていると、急に外が騒がしくなってきた。
どうやら、今朝クエストに出かけていったギルド員達が戻ってきたようだ。
「まだ昼過ぎだというのにもう戻ってきたパーティがあるのか。やはり、我がギルド員たちは優秀だな」
「……どうも様子がおかしくないですか?」
外ではギルド員達が何だか慌ただしくなっている。
「――クエストで仲間たちがやられちまった! 治療を頼む!」
「ひ、酷い怪我ね……すぐに治療室へ!」
負傷した仲間たちを抱えて冒険者が帰ってきた。
このギルドにおいては珍しくクエストでの事故が起こったようだ。
「はぁ~全く、私は運がないな……」
就任したばかりのギルド長としては話を聞きに行くほかない。
ニーアは仕方なく、傷を負っていないクエストの同行者に尋ねに行った。
「クエストで重体とは珍しいな、何があった?」
「ニーア様! それが、おかしいんです! あいつら、あんなにヤワな奴らじゃなかったのに!」
「錯乱しているな。落ち着いて、被害状況を一つずつ話してみろ」
「は、はい! 一人はドラゴンに腹部を引き裂かれ、一人は火炎の息を受けて、一人は踏み潰されただけなんです! それだけなのになぜか全員血を流して苦しんで……」
「うん。……うん?」
ニーアは首をひねる。
普通に死ぬと思うほどの攻撃を受けてまだ息があるのであれば幸運ではないか。
ニーアがそう考えていると、同行者は続けた。
「今までは、ティムが作った最低レアリティの『冒険者の服』しか着ていなくても俺達の守備力があれば全くダメージはなかったんですが」
「そんな、竜人族でもあるまいし、人間が生身で受けられるはずがないだろう」
「いえっ、実際俺はドラゴンの攻撃を受けつつ、こいつらを運んでくる事が出来ました……」
確かに、目の前の冒険者は貧相な『冒険者の服』一式を装備しているようにしか見えなかった。
「まさかな……"鑑定"!」
ニーアは目の前の冒険者の『冒険者の服』を鑑定した。
「装備名『冒険者の服』、物理耐性+、魔法耐性+、斬撃特化耐性、圧迫耐性、腕力増強、付加:仮縫い+(この装備は作成から2日で壊れる)、オールカバー、超衝撃吸収、火炎無効――な、何だこれは! お前はこんな代物をどこで?」
ニーアの問いに冒険者はきょとんとした様子で答える。
「ど、どうしたんですか? この服は俺だけ2日連続で火吹き龍討伐に出るからティムに2日保つ服を作らせたんです。あいつが一瞬で作る服はたったの一日で壊れちまうボロだから」
「あ、ありえんっ! こんな物……こ、これでは策を練って、低俗なギルド員に協力まであおいで宝具などを手に入れた私が馬鹿みたいではないかっ!」
ニーアはワナワナと身体を震わせた。
「ニーア様! クエストを失敗した冒険者達が大量に戻ってきました!」
「クエストで負傷した仲間達がギルドに運び込まれています! ヒーラーの数が足りません!」
ギルドの医療班からニーアに連絡が入る。
「くそっ! 嘘だろ!? あんな、冴えない小僧が本当にこのギルドを支えていたというのか!?」
酷い傷だらけの冒険者達が次々とギルドに運ばれてくる。
みな、苦しそうにうめき声を上げていた。
そんな中、運ばれてきた"冒険者の一人"に、ニーアは驚愕した。
「が、ガナッシュ!? "剣聖"のお前までやられるなんて、どういう事だっ!?」
「に、ニーア……わりぃ……」
フラフラの手でガナッシュはニーアの手を掴んだ。
「飲み過ぎちまった……、吐きそうだ。あと、お金貸してくれ」
「――そのまま死んでくれ給へ」
ニーアはガナッシュの手を払いのけた。