表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

第22話 冒険者のティム=シンシア

 

 東門に着くと、行商人たちのキャラバン隊があった。

 僕とギルネ様はキャラバンのリーダーさんに宿屋でもらった紹介状を見せに行く。


「ほう! クリスの紹介か! あいつに気に入られるとは珍しい、今度またあのボロボロの宿で寝泊まりさせてもらうか!」


 キャラバンのリーダーはテンガロンハットを指で回しながら豪快に笑った。


「もちろん、乗っていって良いぞ! ただし、俺達が運んでるのは頑丈な商材と商人だけだ。乗り心地は保証しないがな」

「ありがとうございます! 馬車は結構揺れてしまうんですね……」


 僕がギルネ様を心配して視線を向けると、ギルネ様は了承するように頷いた。


「まぁ、それは仕方がないだろう。も、もしも私がよろけてティムに抱きついてしまっても許してくれよ」

「もちろんです! 頼りがないかもしれませんが僕にお掴まりください!」


 ギルネ様が右手で小さく謎のガッツポーズをすると、キャラバンのリーダーは自己紹介を始めた。


「俺の名前はロックだ。リンハール王国までよろしくな。そっちのお嬢ちゃんはまさかどこぞのお姫様ってわけじゃないよな……?」

「私はギルネリ――いや、ギルネだ。安心してくれ、服装を見て分かる通りただの冒険者だ。よろしく頼む」

「僕はティムと言います。隣のリンハール王国までよろしくお願いいたします!」


 ギルネ様は素性を隠しつつ自己紹介をする。

 確かに、お姫様と疑われても仕方がない美貌(びぼう)だ。


「車輪を厚い布で包んでも良いですか? 馬車の揺れがかなりマシになるかもしれません」

「おっと、車輪には手を加えないでくれ。疑うわけじゃないが、こいつが破損して道中で動けなくなっちまったら大問題だからな。想定されていない使用方法は避けたい」

「そうですか……ではせめて」


 僕は"裁縫"でフカフカのクッションを大量に作り出した。


「これをお尻の下に敷けば長時間の乗車も苦にならないと思います。良かったら商人の皆さんで使ってください」

「お、驚いた! 生成まで使えるって事はティムは"裁縫"スキルがかなり高いんだな! どれ、一つかりるぞ」


 ロックは僕のクッションを一つ掴んだ。


「おぉ、こいつはめちゃくちゃやわらけぇ! 肌触りも最高だ! 馬車移動はストレスも多いからな、こういうクッションは助かると思うぜ!」

「ふむ、そうか……ストレス解消か。ティム、こういうのはどうだろうか」


 僕はギルネ様の手招きに応じると、ギルネ様は僕の耳元でアイデアを提案してくれた。

 言われた通りにクッションに手を加える。

 クッションに手や足と猫の顔を刺繍した。

 大きなネコをかたどったクッションの完成だ。

 完成品にギルネ様は瞳を輝かせる。


「おぉ、可愛いぞ! 名付けて『デブネコセーフティクッション』だ!」


 ギルネ様は満足顔でクッションに抱きついた。

 そして、僕の作った作品の説明を始める。


「『猫は癒やし』、これは世界共通の普遍の原理だからな。これにはみんなほっこりしてストレスも無くなるだろう」

「あっはっはっ! 太ったネコか、こりゃユニークで面白いな! その名前なら略して『D・S・C』だな!」

「あと、腕を引っ張ると伸びるんだ! これで、腰に巻き付けてお尻に敷いて使うぞ!」

「あっはっはっ! ネコなのに何で腕が伸びるんだ、意味がわかんねぇ! 最高だな!」


 良くわからないが、ロックにはウケたようだ。

 腹を抱えて笑っている。

 やっぱりギルネ様の発想力は凄いなぁ。


「はぁ~、笑った笑った。こんなに良い物を俺たち商人の人数分もらっちまって良いのか?」

「どうぞ、お使いください! 僕たちは乗せてもらうんですから、これくらいはさせていただきます!」

「ありがとう、お前たちは最高だ。仲間たちにはコレを配らせてもらう。一晩も走り続ければリンハール王国には着くはずだ、揺れて頭をぶつけないように注意しながら乗ってくれ」


 ロックはにこやかに親指で馬車の荷台を指差した。


 ~~~~~~~~~~


 こうして、この国を出る事にした。

 僕はこの故郷を出て、新しい国で冒険者を始める。


 「僕、最高の冒険者になるよっ!」

 そう言って"実家"を飛び出した頃が今や懐かしい。


 僕がこの約束をした時。

 妹のアイリは泣きそうな顔をしていた。

 でも今はもう"姫"として立派な淑女に成長していることだろう。


 兄弟やお父様たちは僕の事を忘れているはずだ。

 王子の一人、"落ちこぼれのティム"の事なんて。

 彼らは僕に愛情どころか、軽蔑や悪意しか向けてこなかった。


 だけど僕が"落ちこぼれ"の烙印を押されてから、兄弟である他の王子達の雑用をずっとやらされてたのは役に立ったかな。


 後にも先にも、あれほど傲慢でうぬぼれた人達はいない。

 召使いを、身の回りのお世話をしてくれている人たちをまるで人間として見ていなかった。

 "雑用"を(さげす)んでいた、"雑用"など人間のやることではないと口にしていた事もある。


 だから僕は決めたんだ。

 家を飛び出し、最高クラスの冒険者になる。


 ――僕はギルネ様と共に馬車に乗り込んだ。


 ギルネ様と共に始める冒険者生活。

 2人でならきっとどんな困難も乗り越えられる。



ギルネ様と僕は父の国、"シンシア帝国"を出発した。



・帝国の名前がずっと出てこなかったのはこういうことです。


 2人の旅が始まります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓のタイトルをクリックすると他作品のページに飛べます↓
小説家になろう年間1位!
下のタイトルを押すと読みにいけます!
『クラスで陰キャの俺が実は大人気バンドのボーカルな件』
漫画も発売中!

新作ラブコメ!
下のタイトルを押すと読みにいけます!
『山本君の青春リベンジ~学校でイジメられてた俺が努力して生まれ変わり、戻ってきてからクラスメート達の様子がおかしい件~』
面白かったらブックマーク・☆評価お願いします!

ハイファンタジーの新作を投稿しました!
下のタイトルを押すと読みにいけます!
『英霊使いの劣等生~最強の元英雄は正体を隠して平穏な学園生活を送ります~』
面白かったらブックマーク・☆評価お願いします!
<(_ _)>ペコッ
    
新刊
『ギルド追放された雑用係の下剋上4巻』
  ▼▼▼ 画像をクリックすると、書籍情報へとアクセスできます ▼▼▼  
表紙絵
  ▲▲▲ 画像をクリックすると、書籍情報へとアクセスできます ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
[良い点] 『猫は癒し』名言であり、真理だな [一言] まさかの貴族どころか王族の出身だった。 ある意味駆け落ち(真実)のお二人^_^
[気になる点] >ギルネ様と僕は父の国、"シンシア帝国"を出発した。 帝国ってさ、「でっかい国」じゃなくて「複数の国(または地域や種族)をまとめてる国」なんだよね。 イギリス(大英帝国)って北アイル…
[一言] えらい設定ぶっ込んできたなーw 流石に雑用スキルカンスト?キャラが王子とは思わなんだw もっとおもしろ設定ぶっ込んでざまぁが強くなるといいと思います あと多分家族からの制裁がギルドにも来ると…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ